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幸せの世界の真ん中


「ふぇぇ……ここが夢の海国ですか……また世界観が違って素敵な場所ですねぇ……まだ開園前ですが入ってもいいんですか?」


「ふふっ、ここに泊まった人の特権なの。人が増えちゃう前に行こ?」


 夢の国二日目、今日は夢の国に隣接する夢の海国に来ている。

 栞と葵も一緒のホテルに泊まったけれど……


「お二人の姿が見えませんね」


「あれだけ飲んで騒いでたし、寝かせておいた方がいいんじゃない?」


 開園前の静かな海国、手を繋ぎながらゆっくりと歩き出す。

 彼女は初海国。私は二回目なので、行き当たりばったりな私が彼女を先導する。

 当然何も考えていなかったので取り敢えず夢の海国を漫遊していると……目に映る彼女の顔に、思わず足が止まってしまった。

 

「そんなに可愛い顔して……どうしたの?」


「その……おかしな事かもしれませんよ?」


「ふふっ、聞かせてくれる?」


「こうして手を繋いで歩いているだけで……それだけで、私は満たされてしまうんです。せっかくこんなにも素敵な場所にいるのに……おかしいですよね」


 彼女にとって大切なのは“どこ”ではなくて“誰”。

 私と一緒にいられれば、それだけで幸せ。

 私だって同じ筈なのに……只々純粋に、私一点しか見ず直球勝負の彼女。どこか変化球を混ぜてしまう私。

 でも……私の変化球だって負けないんだから。


「全然おかしくないよ? 雫の大好きが伝わってきて凄く嬉しい♪」


「…………はい、大好きなんです」


 私は欲張りだから……全てを求めてしまう。

 場所も彼女も場面も色も。

 

 しゃがんで彼女の脚に触れると、甘い声が上から聞こえてきた。

 愛しい気持ちは溢れ、堪らずその婉美な脚を音を立てて味わう。


「は、晴さん!? その……せめて人気のない場所で……」


「ふふっ、ごめん。本当は…………こっちをしたかったの」


 彼女の靴を脱がし、鞄に隠し持っていたガラスの靴を優しく履かせる。

 見上げると、目を丸くさせ……私の大好きな顔をしている彼女。

 

「あ、あの……その……えっと……」


「ふふっ、落ち着いて?」

 

「ど、どうして……わ、私の足にピッタリ合ってますし……」


「当たり前でしょ? ガラスの靴が合うのはお姫様だけなんだから」


 欲張りな私の、沢山の愛。

 そんな私の気持ちを零さないよう、胸の前で両手を握りしめている彼女は慌ててガラスの靴を脱ぎ、タオルに包ませ鞄にしまい込んだ。

 その必死な姿がなんだか可愛くて、思わず笑ってしまう。

 

「ふふっ、どうしたの? 急に」


「き、傷がついてしまうと嫌なので。私の……私の宝物ですから!!」


「まだあげるなんて言ってないんだけどにゃぁ?」


「そっ──── 」


 少し意地悪に、少し強引に彼女の唇を塞ぎ、彼女の目が蕩けるまで深く繋がる。

 ホント、私は欲が深い。


「嫌だよ。雫の宝物は私だけなんだから」


「…………私はあなたの宝物になれていますか?」


 彼女は私を離すまいと強く抱きつき、壊れないよう優しく包み込む。それは私の問いに対する答え。

 照れながらも、真っ直ぐに私を見つめるその瞳に……私からも答えを返す。


 浜風が冷たく、薄手のパーカーを着ている彼女。

 そんなパーカーの首元にある紐を私の指に巻き付けて……おでこ同士を優しく重ねた。


「私にとって雫は宝石や指輪であり、空や海、街並みに山々、心でもあり……愛でもあるの。ふふっ、どういう意味か……分かる?」


 言い回しや言葉の選び方が、最近彼女に似てきた気がする。

 好きだから、ずっと一緒にいるから。それは勿論そうだけど……それだけじゃなくて。

 だって雫、あなたはわたしにとって──  


「私は…………あなたの全て。ふふっ、私だって……私だって、あなたが全てだよ?」

 

 気持ちが溢れすぎて不意に訪れる彼女の口調。 

 それはなんとなく私に似ていて……気が付いた彼女は瞳を滲ませながら私の肩に頭を擦り寄せた。

 同じように頭を擦り寄せて、肩を寄せ合いながら歩く。ただそれだけなのに……ただそれだけで幸せ。


 隣を見ると、嬉しそうに微笑む彼女。


「ふふっ、どうしたの?」


「……夢の国だなと、思ってました」


「…………うん、私もそう思う」


 唇が重なりかけた瞬間走る衝撃。

 アルコールの匂いと共に聞こえる二人の声。


「だーはっはっは!! こんなところに来て惚気けてんじゃないわよ!! なぁ葵!!」

「そうだそうだー!! 猥褻罪で捕まえちゃうぞー」


「惚気ける場所だと思うけど?」


「どうせ “あなたがいる場所こそ夢の国なんです〜” とか考えてたんでしょ?」

「甘いの通り越して塩っぱいねぇ」


 顔を真っ赤にした彼女は口をパクパクさせながら涙目で私の手を握りしめている。

 正直その通りだから私も何にも言えない。

 

「まぁしかし、せっかくの夢の国に登場人物が二人だけっていうのは物足りないんじゃない?」


「……どういうこと?」


「私達も混ぜなさいって言ってんのよ。二人だけで楽しむなこのバカップル」

「二人共起こしてよね。寂しかったんだよ?」


 謝ろうとした彼女と私の口に無理矢理チュロを突っ込む二人。笑いながら手を引かれ、歩き出す。

 彼女が私の全てだった筈なのに、幸せはより深く香っている。


 気心知れた笑顔二つが先導し、隣で見つめる一途な微笑みが幸せな世界を形作っていく。

 彼女が私の全てなら、私が彼女の全てなら、栞と葵も私達の全て。


「ねぇねぇ、みんなでレザーブレスレット作ろうよ。シオちん、どの色にする?」

「面倒ね……雨谷さん、あなた決めてくれる?」

「ふぇっ!? ど、どうして私に?」

「葵センス無いしヒナは鼻につくし、あなたくらいがちょうどいいのよ」

「ひ、ひどくない!? ねぇヒナちゃん聞いた!?」

「ヒナ、そこで突っ立ってるなら座ってお酒飲めるところ予約しておいて」

「晴さん、何色にしますか? せ、せっかくなのでお互いのイニシャルをいれてもいいですね」

「シオちん、私達もイニシャル交換する?」

「ババァが若作りしないでよ。弁えなさい?」

「お、同い年でしょ!? その理屈だとシオちんだってババァだよ!!」

「私は可愛いからいいのよ。雨谷さん、葵のイニシャルにBをいれといて」

「ババァじゃないもん!! 私だってそれなりに可愛いよ!? ヒナちゃーん、ババァ二号が虐めてくるー」


「…………ふふっ。ホント、夢の国だね」


 私達二人の夢の国……それは、私達の大切な人達が集う幸せの世界の真ん中に存在する夢の国。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 胸焼けどころでないイチャイチャw よくぞつっこんだアオシオ 甘い空気クラッシュ! 追撃!ばばあ砲(笑) [一言] マジ捕まりそうな二人。晴はギリギリラインを攻めすぎw
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