百個じゃ足りない好きなところ
好きなことを紙に百個書くと、それらを引き寄せられたり、更に好きになって幸福度が上がったり……なんて、以前出た番組でそんなことを心理学者?が言っていた。
既に幸せ全開好き全開な私だけど、とある理由から、書いてみようと思う。
私の好きなこと……雫以外考えられないから、彼女の好きなところを百個書き出す。
彼女の隣で書くのもどうなのかと思い、二階にある自室にやってきた。
私達の家は一階一部屋、二階に三部屋、屋根裏一部屋。
二階は私と彼女の部屋があり、もう一つは書斎。
私達の部屋は完全なプライベートゾーンで、一月に一回彼女が掃除する以外干渉する事は無い。
と言っても……置かれているベッドは彩とお母さんとポンちゃん以外使ったことがない、お互い殆ど使わない部屋である。
椅子に座り、彼女の好きなところを書き綴っていく。
溢れて止まない彼女への愛は、A四用紙裏表ビッシリと書いても全然足りず……
綴られた想いを読むたびに、文字の数だけ恋をしている気がした。
紙を持ってこようとリビングへ降りると、栞から電話がかかってきた。
少し長くなりそうなその電話……気を利かせた彼女は、何も言わずに紅茶を私の前へ置き、目配せをして微笑みながら私の頭を撫でてくれた。
私からねだるように目を瞑ると、少し間をおいて彼女の唇が触れる。
電話の内容なんてどこか飛んでいってしまい……机の上にスマホを置いて、何度も彼女におねだりをした。
◇ ◇ ◇ ◇
「スマホから離れていてるのに栞さんの声が聞こえましたね」
「ね、あんなに怒らなくてもいいのに」
「ふふっ。二階を掃除してきますが、晴さんのお部屋もよろしいですか?」
「うん、お願いします」
余韻でふわふわと蕩けていると、二階から聞こえる掃除機の音で現実に気がついた。
先程書いた紙が机の上に置きっぱなしである。
なんとなく気になり階段を登ると、彼女が私の部屋を鼻歌混じりに掃除機をかけていた。
部屋の中をなるべく見ないようにしながら掃除する彼女。
真面目だなぁ……なんて思っていると、換気用に開けた窓から吹いた風が、机の上にあったあの紙をヒラヒラと床へ誘っていく。
掃除機を止めた彼女が紙に手を伸ばすと、一瞬にして彼女は固まった。
「ふぇぇ…………」
思わず愛らしい声が漏れている。
抱きしめてベッドに押し倒したいけど、我慢我慢。
「晴さん好き……大好き……」
何度も何度も、裏表に書かれたそれを見つめ愛しげに優しく抱きしめている。
メモ帳を取り出した彼女は必死にペンを動かし私の文字を……いや、あの動きは違う。
私が描いた彼女のポップな似顔絵を模写してるんだ。
写真を撮ればいいのに……私には無い発想で、いつも私を魅了する。
そんな彼女が好き。そんな彼女だから大好き。
「雫、なにしてるのかにゃ?」
「ふぇ? は、晴しゃん!!? あ、あのですねこれは見ようとしていた訳ではなくて……」
普通だったら慌てて隠すのに……彼女はいつだって真っ直ぐだから、私に隠し事なんてしないから、わざわざ私に見せるように紙を床に置いている。
「でも見てたんでしょ?」
「み、見てました……」
部屋の鍵をかけて、彼女の耳元で囁く。
「じゃあお仕置き……しなきゃだね?」
「こ、こんなに素敵なものを書かれる晴さんがいけないんです……」
「ふふっ、雫だって……ノート一冊まるまる使って私の好きなところを書いてるでしょ?」
「そ、それはその…………ふぇっ!!? ど、どうして晴さんが知ってるんですか!!? もしかして私の部屋に── 」
無理矢理口を塞いでベッドへと押し倒し……彼女に触れる度、紙に書いた彼女の好きなところを一つずつゆっくりと囁いた。
ちょっぴりズルいところも、こんな強引なところも……ふふっ、大好きなんだよね?




