お日向様と雫ちゃん
雲のように流離する私達の卒業旅行。
高速道路のサービスエリア、車から出ると気持ちよさそうに伸びをする晴さん。
真似して私も伸びをすると、そのまま持ち上げられてお姫様抱っこされる。
「は、晴さん、見られちゃいます……」
「いいよ、見せておけば。疲れてない? 大丈夫?」
私が聞かなければいけない言葉なのに、あなたはいつだって私のことを気にかけてくれる。私に何か出来ることは無いのだろうかと常々思うけれど……
出来ることじゃなくて、したいことをしようって。
それがあなたが一番喜んでくれると私は知っているから。
首に手を回して、頬に一つキスをした。
驚いて目を見開いたあなたに唇を重ね、耳元で愛を囁いた。
顔を真っ赤にさせ瞳が揺らぐあなただけど、それに勝る程私の顔は赤くなっている。
そのまま車内に戻りカーテンを閉めると、あなたから沢山の愛が刻まれた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、覚えてる? このサービスエリアって初めて旅行した時に寄った所だよ」
「ふふっ、忘れる訳ないじゃないですか」
だからこそ先程は気持ちが溢れてしまい……あんなことになってしまった訳である。
「あの時の旅館空いてるかな…………ふふっ、当日予約出来るみたい。行ってみよっか」
「はい、よろしくお願いします……日向さん♪」
「もー……大好き。今日一日その呼び方ね? じゃあ出発♪」
幸せいっぱいで向かった想い出の旅館。
あの時と同じ部屋で、部屋に隣接された露天風呂に二人仲良く浸かる。
心満意足な筈なのに、どこか浮かない顔をして私に擦り寄る日向さん。
「どうかなさいましたか……?」
「旅行が始まっちゃったなって思って。始まるってことは終わりが見えちゃうから……凄く幸せなのに、幸せな分だけ寂しいの」
不安気に擦り寄るあなたを優しく抱きしめて……絵本を読み聞かせるように、ゆっくりゆっくりと語る。
「さてさて……とある海にいた雫ちゃんは、お日様改めお日向様に優しく温められ、水蒸気となり曇になります。お日向様と共に旅をする雫ちゃんは沢山の水分を含み雨雲になりました。美しい山々を探索した後、雫ちゃんは雨となり山へと降りていきます。地面に染み込んだ雫ちゃんはとある種を見つけ、水分を分け与えました。さて、今度はお日向様の出番です。何処までも明るい陽光で地面を照らすと、種から芽が出ます。花が咲き、蜂に運ばれ命が繋がり、豊かな山になりました。地面に染み込んだ雫ちゃんは川へと繋がる道を見つけ、どんぶらこどんぶらこと流れていくことにしました。見上げればどこまでも一緒にいてくれるお日向様。二人の旅は何処までも続き、とある海に出ました。今度はどんな雲になって、どこに行こうか? なんて二人は話し、終わることのない旅を満喫しましたとさ」
言葉尻、優しくあなたの頭を撫でると、あなたは子供のように甘え擦り寄り抱きついた。
それが嬉しくて嬉しくて……私の柔らかな場所で、あなたを優しく包み込む。
「……始まるということは一つ区切りがあり、終わりに向かうのかもしれません。ですが終わるということは、次の始まりが待っています。その新しい始まりは……ふふっ、あなたが思っているよりもずっとずっと、幸せで溢れてるかもしれませんよ?」
「……どんな幸せが待ってるのかな」
「…………例えば、こんな幸せは如何ですか?」
「っ……雫……そこは……」
それはあなたがいつもしてくれるように……私の愛を刻み込む。
幸せが溢れてくると、あなたは婀娜やかな吐息を漏らした。
二年前、初めて愛を伝え合う深いキスをした。体が震えて、怖かった。
今だって私の肩は震えてる。でも、それ以上にあなたにこの想いが届かない方が怖いから……今日も、そしてこれからも、人生で一番好きな今をあなたに伝えたい。
「……この旅行が終わったら、私からも……あなたにこうして触れますね。その、不慣れかと思いますが……少しは……待ち遠しくなりましたか……?」
「ふふっ、待ちきれない。今からして? 私が壊れちゃうくらい」
あなたとの旅はいつだってドキドキが沢山あるから、堪らず深く深く呼吸する。
息をするその度にあなたの匂いと微笑みが私の中いっぱいに染み込んでいくから……また、ドキドキの繰り返し。
触れる指先から感じるあなたの鼓動も、私と同じドキドキ。
次はどこへ行きましょうか?日向さん♪




