卒業旅行ショート①
卒業旅行中……宛もなく山道を走っていると、山桜が連なる林道を見つけた。
車を停めて、暫し散策の時間。
「ふぇぇ……綺麗ですねぇ」
桜並木、降り注ぐ花吹雪に手を伸ばしくるくると回る彼女。
木漏れ日が、教会のステンドグラスから射す光のように淡く七色に滲む。
春郊のチャペル。おでこに誓いのキスをすると、花の風が音を立てて祝福してくれた。
「……All lovers swear more performance than they are able」
彼女に近付きたくて、本を読んだり音楽や美術に触れる時間を増やし始めた。
どうも勝負事が好きな私は何回も彼女に挑むのだけれど、なかなか……勝てそうな気配は訪れない。
今日はシェイクスピアの台詞から一つ愛の言葉を選び挑んだ。
それを聞いた彼女は微笑みながら……同じくシェイクスピアから引用して、お返しされる。
「Love sought is good,but given unsought,is better」
返す言葉無く……嬉しくも悔しい私は、彼女をお姫様のように抱き抱えて、桜色に染まった絨毯の上で燥ぐ。
首に手を回す彼女は私の頬に口づけをし、一つ呟いた。
「シェイクスピアではなく……あなたの言葉を……いただけますか?」
あぁ……やっぱり私は……
「詩的じゃなくなっちゃうよ?」
「どんなに明媚な詩も……あなたが語る二文字の言葉には……ふふっ、敵わないんですよ? あなたの言葉でなくては、私には届かないみたいです」
やっぱり私は、彼女には敵わない。
我ながら意地っ張り……なんて思いながらも二つ文字を足すと、彼女に愛らしく笑われた。
「雫、大好き♪」
「ふふっ。もっともーっと大好きです♪」
春の使いに後押しされて、零れ桜が包み込む。
唇を重ねると、私の名を幾度も呼ぶ彼女。壊れるくらい強く強く抱き締めると、応えるようにしがみつく姿が愛しくて……
言葉なんて必要ない程の愛を、桜が肩に積もるまで語り合った。




