酔いどれショート 虎になる
私達の二十二回目の誕生日……そのお祝いにと、今日は二人で選んだお酒で晩酌をしている。
偶に二人で飲むことはあるけど、同じ量でも彼女は顔にも何にも出ないタイプ。
対して、私は割とすぐに顔が赤くなってしまう。
特別な日の、特別なお酒。
空気も身体も、甘く熱くなっていく。
「晴さん、あーん…………ふふっ、美味しい?」
「うん美味しい……あれ? これってもしかして相当……」
「ふふっ、良かった♪」
相当……酔ってない?
頬は赤く染まり目は蕩け、指先を私の膝の上に乗せているその姿はやけに妖艶。
……二度と無いかもだし、動画を撮っておこう。
「ふぇ、晴さん何を撮ってるの?」
どうやら酔うと敬語が薄くなるらしい。その少し垢抜けた雰囲気も可愛い。
「可愛いなって思ったから撮ってるの。どうしてそんなに可愛いの?」
「ふふっ、好きな人だから可愛く見えるのかも」
いつも彼女が思っている本心なのだろうか……こんな風にして聞き出すのはズルいかもしれないけど、もう少しだけ今の彼女と触れ合いたい。
「雫、ケーキ作ってくれたんでしょ? 眠くならない内に食べちゃおっか?」
「ふふっ、食べましょう。私の愛でいっぱいだよ♪」
無邪気に微笑みスキップしながら冷蔵庫へ向かう彼女。
これはこれで可愛過ぎる……
「じゃーん♪」
シンプルなイチゴのホールケーキ。中央にはマジパンで作られた二つの人形。どちらも可愛らしく出来た私達。隣にはポンちゃんとカエル二匹まで作られている。
よく見ると……私と彼女、片手でピースサインをして寄り添っている。
「晴さん、記念写真撮ろ?」
その場で写真が出るインスタントカメラを持ってきた彼女。セルフタイマー、カメラの向きを調整し小走りでこちらへ戻ってきた。
「晴さん、左手で二を作って下さい」
「こう?」
ケーキの人形と同じ構図。そっか、これって……
「二十二歳の晴さんも大好き♪」
二十二を表す二つのピースサイン。
シャッターが切られる瞬間、彼女は私の頬へキスをした。
せっかく顔を作ってたのに……きっと私は、間抜けで惚気けた顔をしているのだろう。
「ふふっ、幸せだね」
出来立ての写真を見て微笑む彼女。ふわふわと柔らかいその姿がどうしようもないくらい可愛くて愛しい。
……いつの日か、お酒の力を使わずこんなにも可愛い彼女を引き出したいな。
でもそろそろお仕舞いにしないと、これ以上は……
「さてさて問題です……ジャジャン♪ このケーキは一体何を参考にしたでしょうか?」
えー、なんか急に始まったし可愛過ぎるし……
何を参考に……?よく見るイチゴのケーキだけど……
「ふふっ。正解は……初めて出会った日に食べた想い出の誕生日ケーキなのでした」
ピースサインを蟹のハサミのようにチョキチョキする彼女。そのハサミの間に指を入れてみると、優しく挟んだまま彼女の唇まで運ばれた。
初めて出会ったあの日みたいに、鼓動が速く顔が熱い。気が付けば、ソファの上で彼女に押し倒されていた。
「私ね、晴さんが好きなんだよ? いつもこうやって覆われるのも好き。優しく──されるのも好き。激しく──されるのも好き。全部、全部好き。だから今日は私があなたに……してあげる……」
「雫…………雫?」
「晴しゃん…………しゅきだよ………」
糸が切れたように、私の胸の上で眠りに落ちた彼女。
赤らんだ愛らしい寝顔、彼女のいい匂い。時折呟く私の名前。
この状況は笑っちゃうくらい生殺し。
ホント……ふふっ、大好きだよ雫。
◇ ◇ ◇ ◇
「いい加減そこから出てきたら?」
「ダメです!! 昨日の動画と記憶を消して下さい!!」
「ふふっ、動画は消せても記憶は消せないよ?」
「で、ではせめて動画だけでも……」
「じゃあ……敬語抜きで可愛くお願いしてくれる?」
「………………晴ちゃん、消して?」
「ふふっ、消さない♪」
「ふぇっっ!!!? ず、ずるいですよ!!」
幸せいっぱいの毎日。
二十二歳もよろしくね、雫。




