ぽんぽこぽん
家電量販店に用があり彼女と買い物中、テレビ売り場の前で立ち止まった彼女。
暫くして鞄からメモ帳を取り出し何か書いている。
家に帰ると、珍しくタブレットで調べ物をしていた。先程のメモ帳を見ながら入力し……ヘッドホンをつけて……何かを見ているらしい。
その後も気になることが沢山あったけど、なるべく気にせず、気が付かないフリを続けた。
それから二日後。
「日向さん、知っていますか?」
可愛過ぎるドヤ顔。
抱きしめたいなぁ……
「ふふっ、きっと知らないよ。なんのこと?」
私がそう言うと、彼女は嬉しそうにソファの下からモコモコした何かを取り出した。
あー、もう駄目。可愛い。好き。
「巷ではタヌキダンスなるものが流行っているそうでして……見ていてくださいね」
そういえば……北海道のスポーツチームで流行ってるって聞いたことがある。
確か蝦夷狸がモチーフで……
カチューシャに付けたタヌキの耳、フワフワの手と足。それに愛くるしい尻尾を身に着けて彼女は踊り始めた。
夜、ミシンの音と床が鳴る音が聞こえてきたけど、これだったんだ……
意識してないんだろうけど、誘ってるようにしか見えなくて……
純粋に踊っている彼女に申し訳なくなってしまう。
でも仕方が無いよね。可愛くて大好きなんだから。
「ふぅ……どうでしたか日向さ……日向さん?」
気が付けばソファへと押し倒し、鼻先が触れていた。気持ちを抑えるのに必死で、息が荒くなっていく。
大丈夫、女優なんだし感情のコントロールくらい……
ふと見た視線の先、彼女の首元には可愛らしい字体で “from えぞ” と書かれていた。隣にはまん丸タヌキの絵。
この辺りからあまり記憶がない。
「……可愛いタヌキさん。タヌキなんだから、人の言葉話しちゃ駄目でしょ? ホラ、なんて言えばいいの?」
「……ぽ、ぽんぽこぽん?」
ただハッキリと覚えていることは、彼女の素肌とフワフワの耳と手足……それから、淫佚な顔で鳴く愛々しい一匹のタヌキが、私の名前を呼び続けていた。




