チョコレートよりも甘いモノ。
私雨谷雫20歳、晴れて日向さんと恋人になれました。
両想いでも嬉しかったのに、恋人同士なんて……
嬉しすぎて、幸せすぎて、その日の夜はなかなか寝付けなかった。
日向さんの部屋から見る夜景。
華やかで、眩しすぎて、私なんかには似つかない。
「眠れないの?」
「日向さん……その……興奮してしまいまして」
「……ねぇ、コーヒーでも飲もっか。ちょっと待ってて」
なんだか嬉しそうにお湯を沸かしてくれている。
その顔に、私も嬉しくなる。
月曜日の真夜中、動き続ける大都会。
非日常感が心を躍らせる。
なんて、らしくない事を少しだけ考えてみて苦笑いしてしまう。
「ほら、コーヒーだよ。結構イイヤツ貰ってたんだよね」
「いただきます…………わぁ………………」
「どう? 美味しいでしょ?」
「…………に、にがぃぃ…………」
大都会もコーヒーも、私には背伸びしても届かない。
日向さんがお砂糖とミルクを入れてくれて、ようやく飲めるようになった。
「ごめんなさい……お子様ですね、私は……」
「ううん、最初に聞かなかった私が悪い。ごめんね、雫」
お口直しのチョコレートはいつもより甘く感じた。
でもそれはコーヒーを飲んだからだけではない。
「同じものが飲みたかったんです。その……こ、恋人ですから……」
恥ずかしすぎて顔から火が出そう。
でも、嬉しくてつい口にしてしまう。
「あーヤバい……なんでそんなに可愛いの?」
「か、可愛くありません…………けど……」
「けど?」
「日向さんが一緒にいて下さると……少しだけ……少しだけ女の子になれる気がするんです」
「……じゃあこれから先もずっと女の子でいられるね」
「えっ?」
私に覆いかぶさる形で、ソファの上に倒される。
鼻と鼻がくっつきそうな位顔が近い。
「日向さん……?」
「……照れて目を逸らした方の負けね」
そんな事を言われる前から照れている。
いつ見ても可愛い。
見ているだけで、胸の奥が暖かくなる。
どうして私の事を、なんていつも思うけど……
幸せな事なのだから、それでいい。
心の中も頭の中も、日向さんへの想いが湧き出てくる。
許容範囲を超えた想いは、行き場をなくし口から自然と出てきてしまう。
それは、私には止められない。
「…………好き」
その言葉を聞いた瞬間、日向さんの顔が赤くなって……
そのまま少しだけ、目を逸らした。
「……私の勝ちですね」
「…………うん、負けでいいや。だって……」
チョコレートを一欠口に含んで、そのまま私に口渡しをしてくれた。
唐突な出来事で、頭が追いつかない。
「だって、こんなに甘いんだもん」
「…………」
「おーい、雫? 大丈夫?」
「……ふぇっ!? す、すみません…………あ、あの、確認ですけど日向さんの──」
「ストップ!! 恥ずかしいから言わないで。私達……恋人なんだから、ね?」
その響きと事実が何よりも嬉しくて、思わず抱きついてしまう。
「あ、あの……その……こんな私ですけど……精一杯頑張りますので…………宜しくお願いします」
「ふふっ、これからも宜しくね。雫♪」
恋人同士でしたキスは、甘くて優しいチョコレートの味がした。




