ブラッド
『おいおい、寝てるのか?』
声に顔を上げると黒い髪の男が腕を組んで見ていた。
腰に据えられた赤い鞘が揺れる。
「いや、寝てただけだ」
「なんだそれは」
ケラケラと笑うブラッドが手を伸ばしてくる。
「起きたんなら、行くぞ」
「分かってる」
出された手を遠慮なく握り、引っ張ってもらった。
「城に戻るぞ」
遠くに見える白と青の大きな建造物。
この草原からしばらく歩かないと届かない場所。
「帰りたくねえ」
「することやってフリートに帰るんだ、喜べ」
遠いフリートに向かって俺達は歩いた。
「どんな夢を見たんだ?」
「剣一本で戦う夢だよ、王女からキスをねだられて良い所だったのに」
「ああ、ずっと剣の素振りしてたもんな」
「努力の報酬は良い夢ってわけ」
「都合がいいな、それは」
フリートまで歩いた俺達は直前で立ち止まる。
『この辺で、勝負しとくか?』
「見せてやるよ、努力の成果」
俺達は距離を取って剣を抜く。
ブラッドは赤い鞘から、俺は青い鞘から。
シャキンと抜いたプライドが陽に照らされてキラリ。
『手加減してやるから、かかってこいよ』
俺がいつものように煽るとブラッドが走ってくる。
「そんなこと言えなくしてやる」
振られた剣を弾いて切り返し、剣を押し付けた。
キリキリと剣同士が音を立てる。
「こういう時、どう対処するのが良い?」
ブラッドに聞いてみると。
「足を使え」
言葉通りに足を使って押し込んだ。
滑るようにすれ違った剣が俺の歩みを許す。
「なっ」
カツンとブラッドの鎧に剣が当たる。
『俺の勝ち』
満足した俺は、離れて剣を鞘に収めた。
「足を使うっていうのは蹴りとかで……」
「勝ちは勝ちだ! 譲らないぞ!」
「わかったわかった、他にも足の使い方があることは覚えろ」
「気が向いたら善処する」
「久々の勝利に酔いすぎだろ」
ブラッドに突っ込まれながら騎士である俺達は城に戻った。