3.守る決意
「あんなの、受ける必要なかったのに!」
帰り道、フランはプンスカと怒りながら前を歩いている。
僕は苦笑いをしつつ、諌めるようにこう言った。
「いや、ね。あのままだったら、ちょっと――」
「だからって、あんな決闘紛いのこと受けなくても良いんだよ!」
が、聞き入れてもらえない。
僕は頬を掻きながら、ちょっと前の出来事を思い返すのだった。
◆◇◆
「加工技術の、公開対決……?」
「あぁ、そうだ。これは技術師の中では長年行われてきたものでな。互いに同じ素材を加工して、その出来の良さを競う――それを公開対決で行おう、って話だ」
僕の問いかけに、ダンは静かにそう答える。
加工技術を競う対決――それは一歩間違えれば、決闘行為と受け取られても仕方ない話ではないだろうか。冒険者ギルドの規則で、それは禁じられている。
しかし、ダンはニヤリと笑ってこう言うのだ。
「なに、これは決闘には当たらねぇよ。純粋な技術の品評会だ」
「………………」
どうやら、ダンの言うそれで間違いないようだった。
彼の部下だろうか。後方に控えている技術師たちも、小さく頷いていた。
だけども僕には理由がない。それを受けても、仮に何かの間違いで勝ったとしても、うま味というものがないのだ。
その考えを見越してだろうか、ダンはこう提案してきた。
「なに、悪くない話だと思うぜ? もしお前が勝ったら、俺様の店を好きにする権利をやろうじゃねぇか」
「え……。なにを、言っているんだ?」
それには流石に、周囲もざわめく。
部下の技術師たちも互いに顔を見合わせて、目を丸くしていた。
「冗談なんかじゃないぜ? ――だが、こっちも条件を出す」
しかしダンは気にせず、話を進める。
僕にとっては、もしかしたらこっちの方が重要かもしれなかった。
「俺様が勝ったら、お前には荷物をまとめて街から出て行ってもらうぜ」
それは、僕のこの街での生活を賭けたものに他ならない。
傍らのフランを見て、僕は一つ息をついて答えた。
◆◇◆
そんなわけで、僕はダンと技術を競うこととなった。
こっちには利点がない戦い。それを受けたことによって、フランはご立腹なのだ。いまだにプリプリと前を歩いている。
しかし不意に立ち止まって、彼女はこちらを振り返った。
そして、こう訊ねてくる。
「どうして、あんな勝負を受けたの……?」
心配そうに、小さな声で。
意味が分からない、といった色が浮かんでいる。
たしかに、負けたら僕はこの街から出て行かなくてはならない。
「お兄ちゃん……?」
ただ、それ以上に守らなければいけないものがあった。
「あの勝負に勝たないと、フランがどんな目に遭うか分からないから」
「え、私が……?」
僕の言葉に、少女は驚いた表情になる。
「気付かなかった? あの技術師の中に、フランのことを観察している奴がいたんだ。もしかしたら、勝負を受けないと嫌がらせがあったかもしれない」
それは憶測だった。しかし、確信に近いものだ。
少なくとも、これからの街の暮らしが苦しくなるのは間違いない。
「そんなの、私は気にしないよ……!」
フランは僕の胸に飛び込んで、顔を見上げてきた。
その瞳は潤んでいる。僕は、彼女の頭を撫でながらこう言った。
「僕が気にするんだ。フランは、大切な家族――僕の妹だからね」
「お兄ちゃん……」
胸に顔を埋めてくるフラン。
そんな彼女のことを抱きしめながら、僕はこう宣言した。
「フランのことは、僕が守るからね」――と。
仲良し義兄妹!
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