1.ギルドでの出来事
何かの間違いか、フリーナさんに僕の腕が認められて生活は潤った。
基本的にはギルドが請け負った武器の修復や修繕、素材の加工などの仕事をこちらに回してもらう。それの出来具合を判断し、歩合制で給与が支払われる、という感じだった。冒険者としてクエストをこなす傍らなので、貢献度は低いけど……。
「それでも、リアンお兄ちゃんに修理してもらいたい、って人が多くなってるって話だよ! きっとお兄ちゃんの腕が認められてるからだね!」
「はははは、それはありがたいんだけど、ね?」
元気いっぱいにそう話すフランだったが、こちらは心中複雑だ。
生活をする上で必要だとはいえ、冒険者を志してこの街にやってきた僕である。だから、実家での知識で名を上げるのは願いとは異なっていた。
その気持ちを察してはいるらしい義妹は、んー、と空を見上げて考える。
そして、またにっこりと笑ってこう言うのだ。
「お兄ちゃんは、お兄ちゃんにしか出来ないことをすれば良いんだよ!」
「僕にしか出来ないこと、か……」
それは一種の激励だったのだろう。
僕はそれを受けて真剣に、自分にできることを考えた。
「戦闘では、もっぱら支援だよね。前線はフランがやってくれるし……」
「薬草の知識なんかも身につけたら良いんじゃない? 私たち二人のパーティーだから、回復魔法を使える人がいないわけだから」
そんな会話をしながら、僕らは街を歩く。
フランの提案は一理ある。現状で出来得る最善のものだった。
「たしかに、それもそうだね。薬草学の本、家にあったかな――」
それなら、検討しよう。
そう思って記憶をたどっていた時だった。
「わ!? す、すみません!」
「なんだガキ! 前を見て歩きやがれ!!」
身の丈が倍近くあるのではないか。
そう思わされるほど大きな男性にぶつかってしまった。今回は前を見ていなかった僕が完全に悪い。なので、頭を下げるのだが……。
「けっ……! こっちは商売上がったりで、気が立ってんだ!」
それは聞き入れられずに、相手は立ち去ってしまった。
どうにも彼の虫の居所が悪かったらしい。スッキリはしないけれども、こればかりは仕方ないだろう。そう思って、僕はフランに向けて苦笑いをした。
しかし、彼女の方は納得いっていないらしい。
「なんなの、あのオジサン! お兄ちゃんがちゃんと謝ってるのに!!」
「どうどう、落ち着いてフラン? もうギルドの前だよ」
「ぶー、お兄ちゃんは良い人すぎるよ!」
「ははは……」
ぷりぷりとするフランに、苦笑いする僕。
ギルドまで程なくというところで、衆目を集めてしまっていた。
「とりあえず、今日も一日クエスト頑張ろうね!」
僕は無理矢理に話を切って、義妹の背中を押した。
ギルドに入って、一つ息をつく。
「まぁ、お兄ちゃんが良いなら――うん」
「ありがとうね、フラン」
そこでやっと、少女も矛を収めてくれた。
感謝を口にすると、フランはほんの少し頬を染める。
「お兄ちゃんの代わりに怒るのも、妹の大切な務めだからね!!」
そして、胸を張ってそう言うのだった。
それはそれは、とても頼りになる義妹を持ったものだ、と思う。何はともあれ、今日もこうやって一日が始まる。
ただ、今日はクエスト後に一波乱起きるのだった。
◆◇◆
夕方になり、ギルドに戻ってくると何やら人だかり。
僕とフランは顔を見合わせ、何事かとそれを遠巻きに見守っていた。
「ふざけんじゃねぇ! 俺の修繕のどこが駄目だってんだ!?」
聞こえてきたのは、一人の男性のもの。
どうやらギルドから請け負った仕事の対価について、揉めているらしい。周囲の人々が口々にこう話していた。
「ダンも落ちぶれちまったよな」
「仕方ないさ。もっと腕の良い奴が現れたんだから」
「それでも、ここまで気を荒立てる必要もないだろうに」
どうやら、中心で声を荒らげている男性はダンというらしい。
僕は少しだけその名前に憶えがあった。
「たしか、この街で一番有名な技術師――だったかな」
それは僕にとって、今まで無関係だったもの。
だけど今は無視できない名前であり、記憶の端に引っ掛かっていた。
ダン・ケイウス――この街の中で最も長く続く技術師の一族、その跡継ぎ。ギルドの依頼の八割を請け負っているという話だったが、なにがあったのか。
「とりあえず、今日の納品を済ませようか」
「うん! お兄ちゃん!」
しかし、考えても答えは出なかった。
なので別の窓口で、ついでに家から持ってきた品物を提出する。
その時だ。
「あ、リアンさん! 今日もおつかれさまです!」
「――あん? リアン、だと?」
受付の女性が僕の名前を口にした瞬間、人混みの中から反応があったのは。
そして、声の主――すなわちダンは、こちらにやってきた。
その身体は、とても大きくて……。
「あ、貴方は……」
「てめぇ、今朝のガキじゃねぇか!?」
見間違えるはずがなかった。
僕のもとにやってきたダン・ケイウス。
それは、朝にぶつかった男性に他ならなかった。
次回更新は明日になるかな。
たぶんですが……。
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