3.二人の宝物
ギルドから帰って。
僕は自分の工房――アトリエに足を運んでいた。
雑然としたここで、日銭を稼ぐためのアクセサリーを作っている。その他には冒険者仲間の武器の修繕なども。今まで何の気なしに行っていたことだけど、今日の一件で大きく意味を持つことになった。
「まさか、僕なんかの加工で……」
工具を手に取って、それを見つめる。
家出同然で実家を飛び出してきたわけだけど、工具一式は持ってきていた。もしかして、これらの工具のおかげなのだろうか。
いいや、そんなことはないだろう。
父さんも言っていたが、自分たちのそれはどこにでもある物だ、と語っていた。
「んー、分からないな。どうしてだ?」
僕は頭を悩ませる。
実に不思議な話だった。
「たしかに実家は加工師だけど、僕のそれのほとんどは独学だし……」
そうなのだ。
僕のやり方は基礎こそあれど、ほとんど自己流。
それなのに、こんなことになるとは……。
「お兄ちゃん……?」
「あぁ、フラン。起こしちゃった?」
考え込んでいると、声をかけられた。
見るとフランがぬいぐるみを抱えながら、目を擦っている。まだ夕方なのだが、彼女はこの時間帯によく睡眠をとっていた。
それがこの子のリズムなのだろうと、そう思っている。
なので、起こさないようにしていたんだけど……。
「起きたら隣にお兄ちゃんがいなかったから……」
「あぁ、それで不安になっちゃったのか」
「……うん」
どうやら、離れること自体が駄目だったらしい。
まぁ、一緒にお昼寝するのが日課になっていたし、そうなるか。
「ここって、お兄ちゃんのアトリエなんだよね?」
やれやれと、頬を掻いているとフランがそう言った。
僕は頷いてそれを認める。
「どんなものがあるの?」
「ん、そうだね。例えば――」
義妹が興味を示してくれたので、簡単に説明することにした。
武器の刃の部分を研ぐ石や布に加えて、アクセサリーを作る上で使用する道具など。フランは興味深そうに何度も頷いて、それらを見ていた。
そして、一通りを解説し終えると彼女はこう口にする。
「アクセサリー……ほしいな」
どうやら、途中で見せた商品が気になったらしい。
そうでなくても、この家にきた時から気になっていたのかもしれないが。寝惚け眼な義妹は、いつにも増して甘えん坊だった。
僕はそれを特に不快に思わず、少し考えてからこう答える。
「あぁ。それじゃ、ちょっと待ってね?」
「え……?」
そして、手頃なところにあった宝石の欠片を集めて作業を開始した。
まずは石それぞれの形を整えて……。
◆
それから、数十分後。
僕は額の汗を拭って完成品を明かりにかざした。
三種類の宝石を散りばめたペンダント。光の屈折によって、七色に輝いて見える、独学で身に着けた工法の一つだった。
そのペンダントをフランに渡す。
すると、彼女は円らな瞳を大きく開いてそれを見つめた。
「綺麗……!」
そして、他に感想が出ないらしい。
そんなありきたりだけど、とても嬉しい言葉をくれるのだった。
「それ、フランにあげるよ」
「え、いいの!?」
「うん」
僕が言うと、少女は少しだけ困惑して。
しかしすぐに感極まったような表情になり、こう言うのだった。
「ありがとうっ! リアンお兄ちゃん!」
七色のペンダントを着けて、大切そうに握り締める。
そして柔らかい笑みを浮かべた。
「大事にするね。私の、宝物……」
そんなフランの笑顔を見て、僕も微笑む。
大切にしたい、そう思った。
「ありがとう。フラン」
自然と感謝を口にして、僕は彼女の頭を撫でる。
実家を離れて辿り着いたこの街で、二年越しにできた大切な家族。
僕は大切な義妹を見て、強くなろうと誓った。
面白い
続きが気になる
更新がんばれ!
そう思っていただけましたらブクマや感想、下記のフォームより評価など。
創作の励みになります。
応援よろしくお願い致します!!
<(_ _)>