1.辻斬りの噂
フランは月を見上げていた。
自分の母親が、この一連の事件に関わっている。
そのことが分かっただけで、かなりの進展だと云えた。しかし何故だろうか、こんなにも胸騒ぎがするのは。
「お母さん……」
ぬいぐるみを抱きしめて、彼女はそう呟いた。
胸騒ぎの原因は分かっている。しかし、考えたくはないのだ。
ヴァンパイアの魔力は、他の人間のそれとは異なっている。それを知っているが故に、あの巨大化した魔物の正体――その理由というものが分かってしまうのだ。
あの魔物たちはきっと――。
「お母さん、どうか無事でいて……!」
そう言って、フランは一筋の涙を流した。
◆◇◆
「え、モーブさんが帰ってこない……?」
「あぁ、そうなんだ。なにか、しらないか?」
僕は翌日、ダンさんのアトリエを訪れていた。
こちらのそれよりも格段に整備されているそこには、最新の物と思しき器具が並んでいる。そこで彼の弟子たちが一生懸命に仕事をこなしていた。
その指導の最中に、そんな話を聞かされたのだ。
モーブさん、という方とは面識こそなかった。
だが、ダンさんから一番弟子だと、そういう話を聞いている。
「すみません。僕も全然知らないです」
「そうだよな……。いや、すまねぇ! そんな暗い顔をしないでくれ!」
申し訳ないが、知らないものは知らない。
なので頭を垂れながら謝罪をすると、ダンさんは豪快に笑いながら僕の背中を叩いた。力の強い彼の一撃で、僕は思わず前につんのめる。
それに苦笑いを浮かべていると、話題を変えようとしたらしい。
ダンさんは、こんな話を振ってきた。
「ところで、リアン。最近、巷で有名な辻斬りの噂は聞いたか?」
「辻斬り、ですか……?」
僕が首を傾げると、ダンさんは大きく頷いて説明を始める。
「あぁ、そうだ。なんでも――『ヴァンパイアを見なかったか』と、そう訊ねてきて、相手が知らなかったら短剣を取り出して襲ってくるそうだ」
「なんですか、それ……」
なんとも気味が悪い。
それでも、ダンさんがこの話を僕に聞かせた理由は分かった。
「それにしても、ヴァンパイア、か……」
「あぁ、そうだ。理由は分からねぇが、嬢ちゃんのことを探している奴がいる、ってことだな。兄貴なら、ちゃんと守ってやるんだぞ?」
また、背中を叩かれる。
しかし今度は優しく。まるで、激励するように。
ヴァンパイアを求める、謎の辻斬り。
なにかが、僕とフランのあずかり知らぬところで動いている。
「とりあえず、自衛しないと、だな」
僕はそう口にして、気を引き締めた。
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