1.新しい生活
「お兄ちゃん、起きて? ――リアンお兄ちゃん!」
「んー、もう五分だけ……」
「もう! ご飯が冷めちゃうよ!」
おぼろけな意識の中、フランが身体を揺すっているのが分かった。
だけど僕は首を左右に振って布団にもぐりこむ。するとフランは呆れたような声を発して、揺するのをやめた。どうやら諦めてくれたらしい。
そう思って、二度寝をしようとしたところで、
「…………ん?」
違和感に気付いた。
なにやら布団の中に侵入してくる者が……。
「なにやってるのさ、フラン……」
僕はその侵入者――フランに呆れた声をかけた。
すると金の髪を右耳の上でまとめた、赤い目をした少女はこう言う。
「お兄ちゃんが起きないなら、フランも一緒に寝るもん!」
真白な肌を少しだけ赤らめて、駄々を捏ねるように。
薄いパジャマ越しではあるのだが、柔らかい、女の子らしい身体を押し付けてくる。小首を傾げて、上目遣いに僕を見る――美しい少女。
背丈はこちらの半分ほどで、年齢は十代前半というところ。
それが僕の義妹、フラン・クリアパールだった。
「お兄ちゃん……」
熱っぽい息をはきながら、彼女は僕の首筋に口を近付ける。
だが、そこまでだ。
「はいはい、終わり! 起きるからさ!」
僕はそう言って、ベッドから跳ね起きた。
ポツンと、ベッドに取り残されたフランは唇を突き出して頬を膨らす。そして小さく、拗ねたようにこう漏らすのだった。
「お兄ちゃんの、いけず……」
どこでそんな言葉を覚えたのか。
それは義理といえど兄として、追求したいところだった。
だが朝の戯れはこれでおしまい。僕は大きく伸びをしてから、こう告げた。
「さぁ、今日も一緒に冒険を始めるよ」――と。
というところで一度、どうして僕らが義兄妹となったのか。
その説明をすることにしよう。
◆◇◆
あの日、僕はフランを拾った。
そして行き場のない彼女を自分の家に連れ帰ったのだ。
「ここ、は……?」
「僕の家だよ。冒険者稼業よりも、細工師としての稼ぎで手に入れた場所だけど」
幸い僕には食べていけるだけの収入はあった。
それというのも、実家で身に着けた細工師としての腕。それを活かして綺麗な石などをアクセサリーにして売っていた。冒険者の街であるここでは、女性向けのそういった商品が少ない。だから、それなりの生活出来るだけの収入があったのだ。
「すごい、きれい……!」
「そう? ありがとうね、えっと――フランちゃん」
陳列してある商品を見て、少女が呟いた。
それを聞いて感謝を口にするが、実のところ心中複雑である。
自分としては親に頼っているようで嫌なのだ。それでも生きていくためには仕方ないことかもしれないけれど、この稼業のせいで冒険者たちには嫌味を言われるし。なんだったら、こっちでの収入を当てにして絡まれることだってあった。
「はい、すごいです。リアンさん……!」
だけど、いまこの時は良かったかもしれない。
心にも深い傷を負っているらしい少女が、微かでも笑みを浮かべたのだから。
僕はそこに至って、改めて彼女――フランの出で立ちを確かめた。麻で出来た粗末な服に、ボロボロの煤けた手足。拘束具を付けられていた首には、生々しい傷が残っていた。
事情は分からない。
それでも、なにか酷い目に遭っていたのはたしかだった。
「――ねぇ、フランちゃん?」
だから、僕は後先も考えずにこう提案したのだ。
「ここで、一緒に暮らさない?」――と。
◆◇◆
そうして、僕とフランは一緒に生活するようになった。
今ではすっかり壁もなくなって、互いを良い意味で気安く呼ぶ仲だ。彼女が『お兄ちゃん』と呼ぶようになったので、兄としての自覚を持ったりもしている。
最近では、勝手に本当の兄妹なのではないか、とさえ思ってしまっていた。
「リアンお兄ちゃん! お出かけの準備、できた!?」
「もうちょっと待って!」
思い出に浸っている間に、出立の時間になっていたらしい。
僕は腰元のバックに入っているものを確認し、一つ大きく頷いた。
「よし、これで大丈夫。今日も頑張ろう!」
そうして、玄関で待つフランのもとへと駆け出す。
今日は二人で、街の裏にある洞窟でのクエストを受ける予定だった。
「もう、遅いよ~!」
「ごめんごめん、それじゃ行こうか!」
言って僕に抱き付く義妹の頭を撫でて、前を向くのだった。
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