5.緊急事態
対決方法はシンプルだ。
同等の出来のナイフを加工し、その仕上がりを競うというもの。
二つの陣営に分かれると、仲立ちの人物からその品が手渡された。だが、そこで一つの問題が発生する。それというのは、僕に手渡されたナイフを見れば一目瞭然だった。
「お兄ちゃん、これって……!?」
フランも、素人ながら気付いたらしい。
いいやこれは、どんな人が見ても分かるものだった。
「錆びてる、ね……」
僕のところに回ってきたナイフ――それは刃渡りこそ長いが、肝心の刃の部分が錆び落ちて使い物にならなくなったもの。パッと見で、もはや修復の余地がないと、誰もが首を横に振るようなものだった。ダンの方を見れば、彼の手にあったのはたしかに修復を必要とするナイフだが、ここまでではない。
つまるところ、やられた、ということか。
僕は小さく舌を打った。
「私、抗議してく――」
「いいよ、フラン」
「え……?」
それでも、文句を言おうとするフランを僕は止める。
これは自分が受けた勝負だった。責任は、どのようなものになろうとも僕が取らなければならない。こちらの語気の強さから、義妹はその気持ちを察したらしい。
小さく僕のことを呼びながら、胸の前で拳を握り締めた。
「――――――――――」
厳しいが、やるしかない。
僕は魔法炉を起動し、それが確かな熱を持つまでの間にナイフの錆を落とす。そうすると刀身はみるみる間に削れ落ち、加工可能なのは半分以下になった。
しかし、ここまではまだ想定の範囲内。
次に僕はごうごうと燃える魔法炉に、そのナイフを入れた。
そして一度、汗を拭って深呼吸。
ここからが勝負だ。
ナイフを取り出した僕は、一気に手を動かした。
出来得る限りの処置を施す。この誰にも諦められた鉄塊に再度、命を吹き込む。
ならば、最初と同じ形状ではダメだった。だとすれば、この勝負に勝利するためには、もっと別の特徴を付与しなければならない。
ただ一点を貫く。
そんな、極めて小さな穴を貫くような鋭さを――!
◆◇◆
――そうして、互いに加工を終える。
僕は大量の汗をタオルで拭って、天を見上げた。
抜けるような青空の下、自分は出来る限りのことをやったのだ。その確信がある。あの状態のナイフをもう一度、戦える物にするにはこれしかなかった。
「さぁ、どうやら準備は出来たようだな?」
「………………」
同じく汗だくになったダンが、その強面に不敵な笑みを浮かべて言う。
僕と彼の間には、互いの健闘を称え合うような空気はなかった。
ただ、そこにあるのは真剣な勝負師としての――。
「た、大変だぁ!?」
その時だった。
睨み合う僕とダンのもとにやってきたのは小柄な、おそらくは彼の部下の一人。その男は目を白黒とさせながら、こちらに報告した。
「街の中に、大型のドラゴンが侵入しました!」
「なん、だって……!?」
その言葉に僕は息を呑む。
ドラゴンといえば、小型でもAランク以上の魔物だった。
それの大型となればいかな冒険者の街であるここでも、対応できる者は少ない。
観衆がざわめく。そして、中には真反対の方向へと逃げ出す者もいた。当然だろう、こんなところで死にたい人間などいないのだから。
だが、ここに気が狂った者がいた。
「く、くっくっく! 面白い! ちょうど良い、試し切りの相手だぁ!?」
ダンは、大声でそう宣言する。
つまりはこの勝負、決着の方法が変更された――ということ。
「リアン、死にたくなければここで諦めろよ?」
彼は目を大きく見開いて笑い、僕にそう言ってきた。
でも、どうやら僕も――。
「怖くなんてないさ……!」
「お兄ちゃん!?」
大概に狂っているようだった。
フランが後ろで、悲鳴のような声を上げる。
しかしそれも、今ばかりは聞こえないものだった。
「面白れぇな! その気概だけは買ってやる!」
ダンはそう言うと――鋭い、一つのナイフを取り出す。
先ほど加工したものだが、ドラゴンを相手にするには心許ない。それでも、この刃を以てして魔物の腹を切り裂こうと、その気持ちが見て取れた。
僕はそれに対して、初めてこの男に対して敬意というものを持つ。
「負けない……!」
「それは、俺様の台詞だぁ!」
僕は自分が加工し、新たな形となったそれを手に取る。
そうして、僕たちの戦いは次のステージへと向かうのだった。
次回、大型ドラゴン戦!
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