4.開戦前
――ダンの屋敷。
その一室で二人の男が顔を突き合わせていた。
一人はこの屋敷の主であるダン。そしてもう一人は、ダンの部下であり第一の弟子であるモーブという男だった。主とは対照的に小柄な青年であるモーブは、どこか怯えたような表情でダンに問いかける。
「親方様……。あの賭け、勝負は本気ですか?」
テーブルを挟んで、ソファーに腰かけた二人。
反対側のダンはおもむろに頷いた。それを見て、モーブは声を震わせる。
「そんな、おかしいです! あんな新人の相手をするために、この店の権利を天秤にかけるなんて。どうして、そこまでリアンに固執するのですか!?」
バン――と、テーブルを叩いて彼はダンに問うた。
すると主たる男は、その強面に似合わぬ柔らかい笑みを浮かべる。
「なぁに、少しばかり気が乗っただけよ。負ける気なんざ、さらさらない」
そこには余裕と、自信が見て取れた。
しかし、興奮したモーブはそれに気付かずにさらに続ける。そして、
「でも『もしかして』が起きたら――」
口にしてはならない言葉を、口にしてしまった。
それに、ダンは表情を一変させる。
「『もしかして』だぁ? モーブ、てめぇ――俺様が、万が一にも負けるとでも思ってやがるのか。もしそうだとしたら、タダじゃおかねぇぞ……!」
「ひっ……!? そ、そんなことは、これっぽっちも……!」
その形相に、モーブは震え上がった。
もとより気の小さな男である。それ故に、自分より立場が上のダンに睨まれると、このようになってしまうのが常だった。
そんな反応を詰まらなさそうに、鼻を鳴らしてあしらう主の男。
彼はどこか不機嫌が残ったままこう言った。
「いいか、モーブ。明日は真剣勝負だ」――と。
鋭い視線で。
まるで、これから戦場に赴かんとするかのように。
「親方……!」
「いいか、下手な小細工はなしだ。俺様は全力でリアンを潰す」
「……分かりました」
そして、部下にそう告げる。
モーブもまた、渋々ながら了承するのだった。
◆◇◆
日付が変わって、勝負の日を迎える。
場所はこの街の五つある広場のうちの一つ、南西のそこだった。
僕とフランは工具一式をもって、まだ誰もいないであろうそこへと到着する。――が、しかし。それよりも先に、準備を進めている者たちがいた。
ダンと、その部下たちだ。
「…………今日は、よろしくお願いします」
「おう、手加減しねぇからな」
形だけ丁寧な言葉を心がけたが、どうやらダンにその気はないらしい。
だとしたらこっちも、遠慮する必要はない。
「ぜったいに、負けない」
「へ……。意外と良い眼つきをするんじゃねぇか」
僕の宣言に、彼は口角を歪めた。
フランに指示を出して準備を開始する。
そうしてそれが整う頃に、観衆も集まり始めた。
「お兄ちゃん、負けないで……!」
「あぁ、大丈夫!」
義妹の不安げな言葉に、笑顔で答える。
そうして、僕の守るための戦いが幕を開けるのだった。
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