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ゴーストインザヘッド  作者: 似栖一
第五話 「雨宮雫は畏れない[後編]」
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5.懸念

 そして翌週の早朝。

 実働部隊として選ばれた律たち――律と皐月、田中、そして茉莉――は、とある倉庫街を訪れていた。


 他の者が動きやすい身軽な格好をしている中、茉莉だけがスポーツバッグを抱えている。

 律、田中、茉莉の三人は耳にイヤホンマイクを装着し、ポケットのスマートフォンでグループ通話アプリを立ち上げていた。

 イヤホンからは少し遠い雫の声が聞こえる。


(ねぐら)は特定できている……今も反応を感じるわ。少なくとも、もぬけの殻ということはないはずよ」


 雫の千里眼(クレアボヤンス)は万能ではない。効果範囲内のあらゆる事象が手にとるようにわかる……などという力はなかった。とはいえ、強力な能力(ちから)であることに変わりない。

 雫の力だけで取得できる情報は限られていた。学園で律の居場所がわかったような特定の人物や物の位置の察知と、ある人物や事柄についての数秒のヴィジョン。そして、(ことわり)の外にあるモノを見抜く霊視の力。パズルのピースのようなそれらを、組み合わせることではじめて有効に利用できるのだ。


 力の強度は雫と距離が近いほど大きくなる。離れるほどに力は小さく、得られる情報はより断片的になるのだった。

 より強い力を発揮するなら雫も律たちに加わるべきだが、ただでさえほぼ戦闘能力のない茉莉がいる中、雫を駆り出して万一のことがあってはいけない。そんな皆の総意から、雫は遠隔で指示を出す司令塔の役割を担っていた。


 律たちは小さく頷きあうと、目的の倉庫まで静かに足を進める。

 歩きながら、律は『アネモネ』での雫との会話を思い出していた。


 *


()()にこちらの動きが察知されているかどうかは、正直なところ未知数よ。私の力ではそこまでわからないし……ただ、千里眼が相手だからといって悲観しすぎることはないわ」


「どうしてだ?」


 律の疑問に、雫は指を立てて応える。


「考えてみて。網を張るために力を常時――二十四時間三百六十五日使い続けるなんてこと、いくら能力があるからってそう安々とできるものではないわ。特定の人物と時間に的を絞ることも不可能ではないでしょうけれど、不確実な策であることに変わりはないわ」


「確かに、力を使うのってすっごく疲れるんですよね……。それを常にだなんて、考えただけでちょっと気持ち悪くなってきます」


 茉莉がげんなりとした表情で同意するのに、雫は頷き返す。


「ええ。もちろん訓練や元々の力の強弱でキャパシティは変化するけれど、それにしても常時発動というのは現実的ではないわ」


「もし、相手が力を常時発動できるほど協力な異能の持ち主だったり、そうじゃないにしても()()()()僕たちの考えが読まれてしまっていたら……」


「そのときはもう腹を括るしかないわね」


 律の懸念に対する半ば投げやりな返事に、一同は肩を落とす。


「今の私たちは、少しでも可能性を上げられるように作戦を立てましょう」


 襲撃を仕掛けるとすれば、思いつくのは夜間だろう。

 ()()()()()警戒の薄れそうな早朝を狙うのだと雫は言った。


「もし眠ってたらラッキーよね」


「確かに、逮捕状持った警察が家に来るのも早朝だって言うもんなあ」


「あら、実体験かしら」


「ね、ねえよ!」


 むきになって反論する田中に、皐月はころころと笑う。それを不思議そうに眺める希が口を開いた。


「その、ほんとうに()()んだね。いや、疑っているわけではなくて。ただ不思議だなあって。私たちには見えないから」


 困ったような申し訳なさそうな、なんともいえない表情を浮かべている希を見て、皐月が言った。

 

「律くんのお母さんにしたみたいに、希ちゃんたちにも私が見えるようにもできるけど……正直、あまりおすすめはしないわ。前にも言ったけど、変化するのは結局、律くんの主観世界に限ったものなの。彼女たちにも私が知覚できるようになった〝律くんの世界〟と、見えないままの現実世界が分岐することになる」


「それって結局、ここにいる希たち自身には見えないってことじゃない。どこまで閉じた世界に籠もるつもりなの」


 吐き捨てるように言った雫に、皐月は頷く。


「そうね、その通りよ。加えてそれを行えば、律くん(私たち)の脳が、希ちゃんたち三人分の発言や反応を擬似的に再現(エミュレート)するということになるわ。負荷も相当なものになるでしょうね」


「よくわからねえが、やめておいたほうがよさそうだな」


 ぼりぼりと頭を掻きながら田中が言う。が、当の律はといえば、難しそうな顔でなにやら考え込んでいた。

 そして、場が静まったタイミングで、ぽつりと口を開いた。


「あのさ。雫……さん、ひとついいかな」


「なにかしら」


「確認なんだけど……その、ほら。このまえの人狼みたいな化け物とは限らないのかなって」


 向かいの席できょとんとする茉莉たち。しかし、それを聞いた田中と雫は表情を強張らせ、ひりついた雰囲気を漂わせる。

 おずおずと、律は言葉を続ける。


「怪異を使役するとはいえ、あのアオイみたいな奴もいるわけで……その、つまり相手の『千里眼』が、雫さんや茉莉みたいな能力者――人間である可能性もあるんじゃないのか?」


 そこで思い至ったのか、茉莉たちが肩を震わせた。


 律は訊ねているのだ。相手が人間だった場合、()()するのか、と。



 ――そして、雫は言ったのだった。


 ()()()()()()()()()()()、と。

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