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魔王にだって、運命を切り拓く権利がある  作者: 鏡水 敬尋
第二部
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真闇

「いったい、何がどうなってるんですか」


 先輩であるデスクリムゾンに、漠然とした質問をぶつけた。

 分からないことが多すぎて、何から聞けばいいのかが分からなかったのだ。


 しかし、デスクリムゾンが答える前に、上空から別の声がした。


「貴様、勇者ではなかったのか。どういうことだ!」

「まあ落ち着けよ。お前も、いつまでも浮かんでないで下りてきたらどうだ」


 デスクリムゾンは、見上げながら平然と言った。


「降りてこいだと? その手には乗らん。下りれば、総攻撃で私を殺すつもりだろう」


 それはそうだ。普通はそう考えるだろう。つい先ほど、こいつの部下は八つ裂きにされたのだ。そうそう、下りてはこられない。


「大魔王ともあろうものが、総攻撃が怖くて下りてこないだと?」


 少しの沈黙があり、デスクリムゾンが続ける。


「お前が攻撃してこない限りは、こちらは手を出さない。お前を殺しても、あまり意味がないんだよ」


 意味がないとはどういうことだ。デスクリムゾンは何を知っているのだ。

 シリアルキラーは、無言のまま考えているようだった。


 俺からも呼びかけてみることにする。


「シリアルさん。とりあえず降りてきてください。話をしましょう」

「シリアルって略すな。私は、シリアルキラーだ」


 なんとなく、場に緊張感がなくなり、シリアルは、ゆっくりと俺らの前に下りてきた。

 先ほどまで逆光を背負い、漆黒の影にしか見えなかったシリアルの姿が、徐々に明らになる、かと思いきや、その姿は漆黒の影のままのように見えた。


「それが、シリアルさんの普通の姿なんですか? 変身しているとかいうわけではなく」

「ああ、そうだが。なにかおかしいか?」


 シリアルは、服を着た人間の形をしているらしい。らしい、と言わざるを得ないのは、目の前で見てもはっきりしないからだ。


「いや、なんというか、すごく黒いですね」


 シリアルの身体(からだ)は漆黒どころの黒さではなかった。すべての光を吸い込み、一切、反射させていないかのように黒く、身体(からだ)の表面にあるはずの段差や、衣服の境目などがまったく見えないのだ。おかげで、形がいまいち分からない。


 輪郭だけはくっきりと見えるので、俺は、様々な角度からシリアルを眺めて、脳内でその形を補完していった。どうやら、人間が仰々(ぎょうぎょう)しいマントを羽織っているような格好をしているらしい。身体(からだ)の線がやけにはっきり見えることから、服らしい服は着ていないのか、はたまた全身タイツでも着ているのか。

 毛髪らしきものはないことからも、俺の中では、全身タイツ説が濃厚だ。


 うーむ。全身タイツにマントか。この大魔王も、なかなかアバンギャルドな格好をしている。

 そんなことを考えている俺に、シリアルが応える。


「なにしろ、大魔王だからな」


 さも当然といった口ぶりだ。


「大魔王と黒さが、なにか関係あるんですか?」

「黒さイコール悪さ、みたいなところがあるだろう」


 うーむ、そういうものだろうか。その理屈で言えば、輝かしい鱗に覆われた俺は、どちらかというと正義寄りだろうか。実際、悪事を働こうとは思っていないが。

 いや、そんなことはどうでもいいのだ。早く、この状況に関する説明を聞かねば。


 俺は、デスクリムゾンのほうを見て、目で促した。


「ああ、だがその前に」


 そう言って、デスクリムゾンが簡単な合図を送ると、町中(まちじゅう)に居た魔物達が、人間の姿へと変わっていく。


「俺らも変身しよう」


 デスクリムゾンは再び、薄汚いローブをまとったクレナイへと変わった。

 俺もそれに続き、フレークの姿に戻る。先ほどから、成り行きを見守っていたザクロ達も、人間の姿へと戻った。再び、勇者フレーク一行の完成だ。


 ふと見ると、シリアルは、サイズこそ普通の人間になったが、冗談のような黒さはそのままだ。


「ちょっと、黒すぎですよ。そんな人間居ませんって」

「そう言われてもなあ。私は、人間に変身などしたことがないのだ」


 そのやりとりを聞いていたクレナイが言う。


「構わないさ。とりあえずは、人間サイズになってくれれば問題ない。あのままのサイズで会話をしていると、人間達に、内容がだだ漏れになるんでな」


「人間達に聞かれるとまずい内容なんですか?」

「んー、正直、そこは俺にもまだ分からんのだが」


 言いながらクレナイは、町の奥、いや、城へと目をやったように見えた。


「さて、どこから話せばいいか――」


 俺とシリアルを交互に見やりながら、クレナイは、ぽつりぽつりと過去を語り始めた。

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