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セカイノホロブチョクゼン

これは「一人歩いたその足跡」に関連しています。

次に目が覚めた時、俺は目に入ってきた光景に夢かと思った。仰向けに寝ていたが、目を開けると真上に大きいクジラが泳いでいた。しかしながら、潰されることはなった。透明な膜みたいなものがあるのか、クジラは一定の距離より俺に近づけないようだった。クジラの大きさに感心しているとどこからか足音がした。

「そこの君、ここに来てクジラの鑑賞とは中々見どころのある者だね」

 女の声だった。俺は反射的に体を起こして身構える。そこですぐに目に入ったのは澄んだ赤い目だった。綺麗と思って、刀に手を掛ける時間が少し長くなってしまった。相手が敵だとしたら、この時間が致命傷となり勝負の命運を分ける。舌打ちしつつ俺は抜刀する。

「貴様、何者だ。女だろうが怪しいものはすべて斬るぞ」

「私? 私はただの研究者だよ。ロボットの研究をしているんだ。ここはそのロボットの性能点検をしている所なの。ハハ、深い海の底に作ることでロボットの情報の漏洩が防げるからね。中々いい考えと思わない?」

 ロボット? 山と海に囲まれながら育った俺にはそれが何なのか全くわからない言葉だった。

「そういえば、まだ名前を言ってなかったね。私の名前はミカと言うの。年は十八歳。ついこの前、私の新しいロボット『ハーキシン』が完成したところで、今日は『ハーキシン』の試運転をするところ。でさ、君の名前は?」

 俺は問いかけに答えようとするが、思いとどまった。まだ会ったばかりの人に自分の名前を言うのはいささか危険である。敵ではないようだが、味方とも限らない。ここは偽名を使うべき。それに、俺の本名はとある事情によりあまり明かしたくないのである。

「俺の名前は安」

 偽名を言いかけたところでミカの言葉が遮る。

「おっと、偽名と使おうとしても私にはわかるんだからね。見た感じ私のほうが歳上なんだから敵味方以前に年上に敬意を払ってほしいね」

 こいつは俺の心を読めるのか? 超能力者なのかもしれない。ここは本名を言ったほうが良さそうだ。本当は言いたくないが、仕方がない。

「分かったよ。俺の名前はこちょう。漢字で『恋』する『蝶』と書くんだ。年は十四歳」

 するとミカがどっと笑った。

「君の名前は女の子みたいだね。男の子らしさゼロだよ。『恋』する『蝶』ね。クヒヒヒ、笑いが止まらないよ」

 これだから本名は言いたくなかったのだ。なぜ親はこのような名前をつけたのか、小さい頃聞いたことがある。その時の答えが、女の子が生まれると思っていたということである。なぜ男の子が生まれると考えなかった、なぜ女の子と男の子両方の名前を考えてなかったなどと様々な疑問が生まれる名前である。もうちょっといい名前が欲しかった。

「そう、落ち込むなって、確かに女の子っぽい名前だけど、でも君は恋蝶なのだろう? なら、自身もてよ。親が君のことを思ってつけた名前だろう? 無駄なんてことはないから。」

 諭されるような言葉。その声は何だが今まで聞いてきた声より大人びて聞こえた。その声はまるであの時、海岸で話しかけてきた時の声に似ている。あなたは、海岸にいたのかと聞こうとしたが、聞こうとしたときにはミカは奥に歩いていた。俺は立ち上がってミカの後を付いて行く。

 ここは本当に何かするところだったらしい。ミカに連れられて俺は広い場所に来ていた。そこには人が一人いた。

「ここで一体何をするつもりなんだ?」

 真っ先にみんなが思うであろう疑問を投げかける。誰もが思うよね? それに、ミカはいつの間にかいなくなって、気づいたら声だけが聞こえていた。

「それじゃあ、実際に実験を始めるよ。そこにいるハーキシン、シリアルナンバーで言うとA-0001のキミハが君の手伝いをしてくれるんだ。よろしく頼むよ」

 いやいやいや、手伝いってなんだよ。それに、ものすごく雑な説明で全く分からないのだが。ここに来る途中の説明も、今から実験するからちょっと付き合ってよ、などと言われただけである。俺は一体何をしたら良いんだ? 俺にできることなんて何もない。それに、こいつは前提を忘れている。

「いや、俺これに協力するなんて言ってないよ」

 すると。先程の声より数倍大きい声が返ってきた。

「すーるーの! 恋蝶はしなきゃだめなの! しなかったらお仕置きだからね!」

お仕置きってなんだよ。会って間もない人に対して失礼すぎるだろ。もう少し礼儀ってものを教わったほうが良いのではないだろうか。もしかして、研究者というのはみんなこういったものなのだろうか。そうだとしたら……

「ほら、ボサッとしていないで恋蝶が何かできることをしてよ」

 いい加減にこいつの声をずっと聞いているのも飽きた。俺にできること、それは戦うことぐらいしかないだろう。俺は覚悟を決め、剣を抜く。さっき鬼を斬った時の血がまだついている。赤黒く塗られている剣をミカは見たのだろうか、どこからか驚きの声が響き渡っていた。俺は構わずに目の前にいるロボットと言われる人を斬りにいく。まずは左袈裟斬りから入っていく。一方のロボットは俺が斬ることを予想していたらしく、腕で受け止めていた。ありえない。受け止めたら最後、腕が吹き飛ぶであろう。吹き飛ぶのであればまだ良い、骨のところで斬れずに止まってしまったら吹き飛ぶより痛いだろう。つまり、腕で受け止めることがどんなに異常であるか、このロボットは知らないのだろう。俺の心には罪悪感があった。何をしたら良いのか分からなかったが、いきなり斬るのは鬼でない限り無礼というものだ。せめての償いとして楽にしてやろうと思って切り下げた剣先をロボットの胸に向けて、そのまま突き刺す。これで死ぬはず、そう思ったが、俺は目の前にあるロボットの状態に愕然としていた。それもそうだろう、あるはずのない手で俺は剣を握っていたから。俺は急いで剣を引き抜こうとしたが、ロボットの握力が強くて引き抜けない。そして、ロボットの手からは血が出ていない。どうなってる、こいつは人なのか。

「お前は人間なのか?」

 刀を押し付けたままロボットに問いかける。ロボットは余裕そうな口調で答える。

「何を驚いている、私はハーキシン、機械でできた作り物である。そのような代物では傷はつかないぞ」

 なるほど、機械だから硬く、血が出ていないのか。相手が機械と分かれば次なる手は決まってくる。電気で感電させれば……

「ちょっと、ちょっと! なんで戦いなるの! そういう意味の実験じゃないの! ハーキシンは戦闘用ロボットじゃないんだよ!」

「いや、俺にできることはこれくらいしかないのだが……」

 俺は正しいことを言っている。確かにいきなり斬りかかるのは駄目だが、俺には相手を倒すためにできた筋肉しかないのだから、自分にできることとしてロボットを倒すしかない。しかし、これにミカは納得していないようだった。

「なんでできることが斬るしかないんだよ! 他に料理や洗濯とかはなかったの?」

「そんなこと知るか! できることと言ったら俺にはこれぐらいしかできないんだよ!」

 料理とか洗濯とかそういった家事は苦手なんだよ! 悪かったな! それとも他になにか期待していたのか? 期待通りにできない俺で悪かったな。しかしながら、ロボットは戦うためにはできていなかったのか。それにしては俺の剣術を持ってしても全く刃が入らない、これはどういうことだ? ミカはただ家事をさせるためにロボットを作ったのか。それとも何か別の意味があって作ったのか。

「ねぇねぇ、ちょっと私の所まで来てよ。話があるからさ」

 私の所っていつの間にかいなくなっていたのに、何処にいるのか分からないよ。そう思ったが、部屋の端にある壁が動いて道が見えた。まるで忍者屋敷のようだった。俺はすぐに行こうとしたが、隣にいるロボットはどうするのか気になって声をかけた。

「お前はどうするんだ?」

 するとロボットは当然のような口調で答える。

「私はここにいる。ここから離れるなと開発者に言われているからな。お前一人だけで行け」

 と言われて俺は一人で部屋を出た。海の中だろうか、ひんやりしていて動かした後の体にはとても気持ちよかった。


複線の回収ができるか心配の筆者です。続きがんばります。

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