セカイガホロブマエ
この話を読む前に下に貼ってある話を読んでいただけるとより、理解が深まると思います。
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――――遠い、遠い昔の記憶。俺は沈んだ。
俺が覚えている一番古い記憶は、親が鬼に殺されているところだった。小さい子供の恐怖、今でも鮮明に思い出す。ただ怖かった。たった少しのことで肉塊へとなった親、嬉しそうに舌なめずりしている鬼、辺りに漂う鉄のような匂い、全てが嫌で拒絶していた。俺は何もできずにその場に座り込んで、その世界を呆然と見ているだけだった。鬼は親を無に還した後、俺を見下ろした。その時の鬼の言葉は今でも忘れない。
「おい、子供。貴様は生かしておいてやる。だからこのことは誰にも言うんじゃないぞ」
その時、俺の何かが壊れた。その何かは思い出すことはできない。
「ウ、ウオオォォォォォォォォ!」
俺は近くにあった親の腕を持って、腕の露出している骨を鬼に向けて突っ込んだ。無我夢中だった。そのまま鬼に突き刺せると思った。しかし、親の腕は鬼の強度には叶わず、腕が砕け散った。その時の血飛沫が視界を覆い尽くす。真っ赤に染まった世界、それは恐怖にまみれた感情をさらなる恐怖に駆り立てる。そう、これは絶望に近かった。絶望というのはある意味希望なのかもしれない。俺はそこで気を失った。
それは一つの後悔。
君を救えなかったこと。
君が消えてしまったこと。
今でも鮮明に蘇る。
あの時、僕がもっと強かったら。
僕が気づいていられたら。
何度も頭を貫くこの感情。
悔しい。悔しいよ。
君を守ってあげたかった。
君ともっと話したかった。
好きって言いたかった。
強く抱きしめたかった。
まだ過ごし足りなかった。
どんなに強く願っても。
君はもう戻ってこない。
これは紛れもない事実。
忘れることなくそれは縛りとなる。
僕はあと何回見ればいいの?
ねぇ、もう疲れたよ。
「ぶはぁ、はぁはぁはぁ、はぁはぁ、はー」
悪夢を見た。あの夢が何だったのかはわからない。僕と君、これが誰なのか俺には全くわからない。ひどく悪寒がする。何かを吐き出したい衝動が襲い、そのまま床に吐き出す。辺りに散っているまだ固まりきってない赤いものと、混ざり合い混沌とした色の地獄を描く。吐き終わって、冷静になった。辺りを見ると鬼はもういなくなっていた。暫くして、ここが俺のいるべき世界、亡者のように這い上がる俺、親と同じ場所に逝くべきだと俺でない誰かが問いかけてくる。
「ウアァァァァァァァァァァァ!」
俺はそのままなにかも叫びだした。このまま空なればいいのに、何もかもなくなってしまえばいいのに、そう強く思った。しかし、思っても現実は変わらない。俺の声は誰にも届かない。
ここから一刻も早く出たい。俺は家から飛び出した。走って、走って、走って海岸に出た。ここで一つ深呼吸をし、目を閉じる。流れる波の音、頬に当たる冷たい空気、裸足で感じる砂の感触……今は何も感じない。代わりにあの時の、鬼の顔が脳内に鮮明に蘇る。頭に生えた二本角、優越に笑う口、見るもの全てを凍てつかせる眼。全て恐怖だった。そして、俺は誓った。
父さん、母さん、俺は、俺はこの世界にいる全ての鬼をこの手で殺すよ。
絶望から決めた誓い、それは俺の根本的な原動力となった。そして俺の生きる柱の依代となった。鬼を殺す、それは簡単なことではない。だからこそ俺は体を鍛えた。朝起きて、腹筋千回、そして腕立て伏せ千回、さらには素振りを日が暮れるまでトレーニングすることを日課とした。俺の中には鬼を殺すことしかなかった。そのためには何だってした。肉体が悲鳴を上げたとしても休まず続けたし、嵐が来ようと欠くことはなかった。そんな極端な肉体改造計画は俺を苦しめたが、その成果によって、一年で強靭な力を手に入れることができた。
そして、俺の人生を変えた時は来る。それはとある日、トレーニングを終え俺は海岸を歩いていた。夜風が汗を冷やしていく。このまま砂浜に寝そべるのも悪くはない、そう思っていた。
「一人で歩いていく、足跡は波によって消されてしまう。でも、君はたしかにここを歩いている。先は長い、ならゆっくり景色を眺めながら歩こうじゃないか」
誰かが話しかけてきたように思った。声のする方を向くとそこには亀と一人の少年がいた。いや、少年……それは人とは異なる特徴があった。小さいながらも角があった。忘れるはずがない。これは鬼の角である。見た途端に吐き気と激しい憎悪が湧き上がった。俺は運良く持ってきた自分の愛刀を見る。それはぜひ、自分を使って鬼を殺してくださいと言っているようだった。俺はそれに応える。
「人に化け、人間社会に溶け込もうとしているのか。忌々しい。ここで殺す」
俺は鬼にゆっくりと悟れないように近づき、斬れる距離まで来た。
「貴様、鬼だな。父上の敵、ここで討ってやる」
ミスをした。これまでの恨みが口を結ぶことができなかった。舌打ちと共に斬り上げる。しかし、予想通りに剣先は鬼に当たることなく弧を描く。鬼はつかさず剣を抜いた。
「いきなり斬りかかるなんて失礼だぞ!」
「は? 鬼に無礼なんぞあるか。ここで殺す」
鬼に礼儀なんてない。俺は斬り上げた剣の向きを変え、斜めに斬る。いわゆる左袈裟斬りだ。鬼は刀身を横にして受けるが、脇腹の守りがガラ空きである。俺は今までのトレーニングの成果によって鍛えた筋肉を生かして刀で押さえたまま脇腹に蹴りを入れる。ここでうまく入った。
「――――クッ!」
鬼の苦悶の声。俺は少しばかりの満足感と共に燕返しをする。蹴りを入れられた鬼が刀に力が入っていなかったのか、刀が弾け飛んだ。夜風が俺と鬼の間をすり抜ける。それは微かであったが、確かに声を運んでいた。咲夜、咲夜と必死に叫んでいた。咲夜、この鬼の名前なのか。こいつの剣術はどこか迷いがあった。残虐な鬼とは少し違う。俺はその考えを取り敢えず振り切って声を上げた。
「死ね」
自分の驚くような冷静で冷たい声だった。俺はそのまま右袈裟斬りを鬼に当てる。一日に何回もやった素振り、それは強力な速さとなり鬼の胴体を切り裂いていく。鬼が二つに割れた後、親の腕が砕けた時以上の血飛沫が視界を埋め尽くす。俺は目をつぶり、その後目を開けるとそこには切断された鬼が倒れていた。奴はまだ生きているらしい。呼吸をしていた。このまま放っておけば死ぬ、そう判断し俺は納刀する。立ち去ろうとするところで鬼が最後の力を振り絞っているかのように口を開ける。
「き、君……何者だ?」
俺は初めて鬼に対して迷った。俺のしたことは正しかったのか、この鬼は本当に人を襲うような憎き悪魔なのか、俺は……これで両親の敵討ちとなれるのか。様々な思いがよぎるが、頭を振って冷静になって鬼へと返す。
「別に、鬼に殺された者の子供だが、俺の親を殺した鬼とは違うようだな。貴様、貧弱すぎる。その頭についている角は飾りだったのか?」
すると鬼はどこか哀れんだ目をした。そしてどこか納得したように
「そっか……」
鬼はそこで意識を失った。これで鬼は死んだ。ひとまずホウッと安堵のため息をつく。色々と思うところはあるが、それは後で考えればいい。これで両親の敵討ち達成に一歩近づいた。
「あ、申し訳ございませんが、あなたは人間ですか?」
突然の声に俺は振り返る。そこには亀がいた。あぁ、さっき鬼と一緒にいた亀か。俺の行動を一部始終見ていた。こいつが生きたら鬼殺しのことを話すだろうか。それは面倒だ。こいつも殺すのが妥当だろうか。俺は再び剣を抜こうとする。そこで
「私を殺して何になりますか? あなたの利益にはならないはずですが……それでも私を殺しますか? 安心してください。私はあなたにとっての不利益なことはしません」
「――――なっ!」
心の中を見られたような気がした。俺の狼狽した表情を見て亀は一方的に言う。
「貴方様をお待ちしておりました。私の主が貴方様をお呼びになっています。どうか、私の背中に乗ってください。主のもとまでお送りします」
「お、おい。どういう意味だ? そんな話、誰が信じるか!」
俺の思っていることは一般の人が思うことだ。亀の言っている意味が全くわからない。仮に亀の言うことが本当だったとして、誰が俺を呼んでいるのだ? 俺には知り合いなんていない。つまりは亀の言っていることは人違いか、嘘ということだ。
「仕方がありませんね。このまま強引にでも連れて行きます」
亀の言葉を聞いて抵抗しようとしたが、急に力が入らなくなった。これは眠り粉なのか。俺は声を上げようにも上げることができなかった。そしてそのまま意識が薄れていった。
読んでくださり、ありがとうございましたm(_ _)m
感想をいただけるとありがいです。待ってます。




