映研部!!
私には、両親がいない。
私の父は、私が生まれてすぐに亡くなってしまっていて、母は私が3才の頃、私を祖母にあずけ、行方不明になっていた。その時から私は、祖母の家に住んでいる。
さて、そんな私も今日から高2である。
「花音ちゃーん!おーはーよーうー!!」
そう言って新学期早々、高めのツインテールをなびかせて私に抱きついて来たこの子、三谷唯華が、私の一番の親友である。唯華は、目がくりっとしていて、高めの位置に結んだツインテールが特徴的な可愛らしい子だ。
「花音ちゃん知ってる?今日、転校生来るんだって。」
「へぇー。そうなんだ。知らなかった。」
そんな他愛ない会話をしながら、私たちは教室に向かう。
私の学校は、1学年3クラスしかない。しかもクラス分けの仕方が独特だ。その仕方とは、成績順で分ける。
1組の1番の人が学年で1番頭が良い人だ。
そうなると、つまり1組に頭の良い人がたくさんいて、2組はまぁそこそこ、3組はそうでもない、といった具合になる。そして1組は、いわゆる特進。
なので皆、新学年になると3組ではありませんように、と祈りながら廊下に張り出された名簿を見るのだった。
「あっ、花音ちゃん!花音ちゃんの名前あったよ!1組の2番に!1組の1番の片野隼って人、聞いたことないけど、転校生の人かな?」
私は唯華にそう言われて名簿を見ると、確かに私の名前の上に片野隼と書いてある。
「あっ、唯華は1組の4番だね。」
私は名簿を指差しそう言うと、唯華は目を輝かせ、
「えっ、やったー!!花音ちゃんとおんなじクラスだー!」
と叫んだ。
私はそれを笑って眺めていた。
私はその時知らなかった。この片野隼という人が、私の運命を変える人になることを。
「みんな―、注目ー!」
新しく担任になった大原さつき先生が黒板の前で声を張り上げる。
さつき先生は、小柄で可愛らしい先生で、演劇部の副顧問をしている先生だ。担当は社会で、趣味は大仏めぐりという、いかにも社会の先生、という感じの先生だ。
私は、さつき先生のことが好きで、期末テストで良い点数が取れているのは、さつき先生のおかげなのかもしれない。
そんなさつき先生の横に見知らぬ男の子が立っていた。
私は、ははーん、さてはこの人が片野隼くんだな、と直感していた。
隼くんらしき人は、背は170cmぐらいで、メガネ、でも爽やかで、かっこいい感じの人だった。
「はい、皆さん。今日からこの学校に転校してきた、片野隼くんです。みんな仲良くしてねー。じゃあ隼くん、何か一言お願い。」
そうさつき先生に振られた隼くんは、「はい。」と短く返事をしていきなり、
「皆さん、映研部作りませんか!?」
と声を発した。
皆、何が起きたのか分からずに、ぽかーんとしている。
さつき先生はぎこちない笑みを浮かべ
「じゃ、じゃあ隼くんの席はあそこね。」
と、私の前の席を指差した。
そして、さつき先生が何事もなかったかのように話しはじめると、みんなも、はっと我に帰り同じく何事もなかったかのように先生の話を聞きだす。
だがこのクラス、みんなの視線が隼くんに集中しているのを私は、肌で感じる。
そして、私はこの時、映研部に心を動かされていたのだった。
なぜかって?
それは...私の行方不明になった母が映画撮影のスタッフだったらしいからだ。
そして私の父は映画の現場にいた、カメラマン。
この話は、祖母から聞いた話だから多分本当。
だから私は今、映研部に心を動かされているのだった。
朝のホームルームが終わった直後、もう隼くんの周りには、人だかりができていた。
みんな、朝の出来事については何も気にして無いようだった。
私は隼くんに話しかけたかったが人だかりはあまり好きではないので、やめておいた。
昼休みの時、やっと人だかりがおさまってきたので、話しかけようとしたが、隼くんは、教室を出ていった。
どこに行くんだろう。
そう思いながら、私は、あまり良いことではないが、隼くんの後を尾行して行った。
隼くんが向かったのは、職員室で、手には『部活新設届』が握られていた。
しばらくして、
「だから、1人では部活を新設することはできません!あと3人集めて来なさい!」
「でも...」
とさつき先生と隼くんのもめる声が聞こえてきた。
それからすぐに、隼くんは職員室から出てきて、そのままどこかに行こうとするので、私は後を追いかけ、声をかけた。
「隼くん、ちょっと待って!あの、映研部って...」
「入る、映研!?」
隼くんはものすごい勢いでこちらを振り返った。
私はそれに圧倒され、しばらく言葉がでてこなかったが、やっとのことで、
「あの、映研部って何ですか?」
と、聞くことができた。
隼くんはしばらくぽかんとしていたが、やがて納得したようにうなずいた。
「映研部っていうのはね、映画研究部の略で、その名の通り映画を研究する部活だよ。映画を鑑賞したりするだけじゃなくて、自分たちで作ったりもするんだ。」
隼くんの説明は分かりやすく、私はしっかり理解することができた。
映研部入ろうかなぁ...
私の心は揺れ動いていた。
映画のスタッフだった私の母。カメラマンだった私の父。
この2人とつながっている方法は...
「入るよ、映研部に。」
私の口はそうきっぱり告げていた。




