ロリコンじゃないよ
通勤通学の電車の中で皆さんは何をしていますか?
英単語を覚えようにもやる気が沸かず、寝ようにも9時間も睡眠を取った健康体はこれ以上の睡眠を受け付けず、携帯ゲームをしようにもゲームをプレイするためのスタミナが足りず、今から会うクラスメイト達とSNSで話しても意味がない気がして、ぼーっとアホずらを周囲にお披露目しながら窓の外から見える景色を眺めていた。
本来この朝の時間帯は通勤ラッシュで混んでいるのだが、俺は始発の駅から乗っているため座れている。
それに前に止まった駅が大きなターミナル駅で人が大量に降りたため席こそ空いていないが、車内はラッシュの時間にしては空いている。
「次は上本庄~上本庄~お出口は右側で~す」
聞くだけで何故かゆったりとする、車掌さんの独特の口調を聞きくと、学校とかどうでもいいからこのまま終点まで乗車していこうかな~なんて思ってしまう。まあ、俺にはそんな度胸はないのだが。
電車は徐々にスピードを落としてガチャンと揺れると停止した。
上本庄駅はそこまで大きな駅ではないため人の乗り降りはそこまでなかったが一人の少女が乗ってきた。
かなり愛嬌のある顔をしている。清楚な感じの黒髪と透き通りような白い肌が見事にマッチしている。
お嬢様学校の生徒が着てそうな制服を着ているが、ランドセルみたいなバックを背負っているとこから まだ小学生だろう。
俺が少女に目が行ってしまったのはロリコンだからではなく、松葉杖をついていたからだ。少女は座ろうと辺りをキョロキョロと見回すが、生憎空席はない。
少女は残念そうにため息をつくと、ドアの前にいては邪魔になると思ったのか、俺の前に移動してきた。
ここは普通席を譲る場面なのだろうが、こないだお年寄りに席を譲ろうとしたら「私はまだ60歳よ!失礼しちゃう」とおばちゃんにガチギレされたのがふと頭に浮かんだ。
いやいや、目の前にいるのは少女だぞ。年齢なんてまだ気にする年じゃないし、自分が怪我していると分かっていれば素直に席に座るだろう。それにさっき空席がなくてがっかりしていたではないか。
よし俺!いったれ!
「あ、あの~」
「はい?何ですか?」
少女は小さなお手てを頬っぺたにあてて可愛らしく首を傾けた。
「よかったら・・・」
俺はバックを手に立ち上がろうとしたが、その動作を止めた。
ちょっと待って。これって敬語で接するの?それとも小さい子に接するときの優しい口調がベターなの?
敬語で接すると真面目そうに思われるよな?残念ながら眼鏡をかけていなくて、イケメンでもない俺が敬語なんて使って接してもいいのか?
しかし、小さい子に接するときの口調はどことなく上から目線な気がする。もし少女が一人の女として己に自信を持っていたら、彼女のプライドはボロボロになるのでは?
俺は中腰のままフリーズする。少女はそんな俺を大きなおめめで見つめてくる。
「えっと~どうかしましたか?」
沈黙に耐えかねたのか少女が心配そうに聴いてきた。うるうるしている大きなおめめで下から目線で見上げられると何も言えなくなる。
「えっと~座る?」
完全フリーズした俺を見た隣に座っていたイケメンが立ち上がって少女に席を譲った。
え?ちょ?俺はどうすればいいの?イケメン?めっちゃ恥ずかしいんだけど。周りの人からのお前何してたん?って目線で死にそうなんだけど。
俺はおそらく真っ赤になっているだろう顔を俯かせながら座り、少女と反対側を向く。ここで少女に話しかけられたら、いや目があっただけでも恥ずかしさと申し訳なさのあまり死にたくなる。
少女はバックから何かを取り出してゴソゴソと何かやっている。
俺は必死に寝た振りをして下車駅までの時間を稼ぐ。
「次は松名新田~松名新田~お出口は変わりまして右側で~す」
三駅ほど俯いたまま座っていると、松名新田で少女がバックを背負って降りる準備を始めた。
よし!これでこの何とも言えない気まずさからは解放される。と内心よろこんでいると電車が止まった。
少女は松葉杖でドアに向かっていく。俺はようやく顔を上げるとポケットに何か入っているのに気がついた。
取り出してみるとイチゴ味のあめ玉と、綺麗な字で『ありがとうございます!嬉しかったですよ』と書かれたメモが入っていた。
思わず駅のホームを見ると少女が天使のような笑顔で、ドンマイとガッツポーズをしていた。
俺はそのランドセルのようなバックを背負った天使のような姿に背筋ピーンとなって再びアホずらになった。