鍛冶屋の黒鉄
「黒鉄くん。いつもおつかれさまだねぇ」
「あっ。ぎんおばあちゃん。お疲れ様」
腰は曲がり杖をついているおばあちゃんがお店に入ってくる。
僕は、お店の常連であるぎんおばあちゃんに声をかけられにこやかに対応する。
ここは、魔法が使えない人間が暮らしている町の商店街にある鍛冶屋『黒鉄』とういう店だ。
どんなお店かというと、武器を修理するのはもちろんのこと、魔法石で作ったオリジナルの武器を売っている。
魔法石は魔法が使えない人間でも、持っているとその魔法石特有の魔法が一つだけ使えるようになる。
「若くてお店を切り盛りしてるなんて大変ねぇ。まだ、17でしょうに」
「いえいえ。亡き父の店を受け継いでるだけですからそんなたいしたことはないですよ」
「それにしても今日もなんか寂しいのぅ。昔はあんなに繁盛してたのに……」
「仕方ないですけど、平和になったことはいいことですよ」
お店は朝の11時くらいなのに閑古鳥が鳴いている。
魔物という人類を脅かす存在は魔法使いによって消されてしまった。
今は、野生の魔物とか存在しないから必要ないけど昔は結構売れてたんだけどなぁ。
「黒鉄くんなにか生活に使えるいいものはないかね」
「あっ。それなら、これなんかどうです。この水色のペンダント。これはどこでも好きな時に水が出せる便利な品ですよ~」
僕は、コップにペンダントから水を注ぐ。
「どれどれ。おぉ~これは、すごいのぅ。どんどん水が出てくる。これはいい品じゃのぅ。何ペニーするんじゃい?」
「ぎんおばあちゃんだから10ペニーでいいよ」
「いつも安くしてくれてすまんのぅ。ほい、10ペニーじゃ」
「いやいや。気にしないで。ありがとね」
僕は、ぎんおばあちゃんからら銀色の硬貨を受け取りそのまま見送る。
「おい。飾り職人いつからそこにいた」
「なんだ。ばれてたのね」
後ろを振り向くと部屋の中を飛んでいた虫は、着物を着付けた黒髪ロングの大人びたお姉さんへと姿を変える。
「よっと。あんたも勘が鋭くなったわね」
「んなことはどうでもいい。いつからそこにいたときいてるんだ」
「あなたがくれた変身の魔法石でずっと蚊に化けてみてたわよ。たしか、おばあちゃんが来たぐらいからね」
「悪趣味だな」
「こんな綺麗なお姉さんが来てやったんだから少しは喜びなさい」
「お姉さんって、言ったって俺より一つ年上なだけじゃねぇか。てか、仕事の邪魔だから帰ってくれねぇか」
「釣れないのね。どうせあなたも売れなくて暇なんだしいいでしょ。それに、私のことは名前で呼びなさいって何回も言ってるでしょう?」
そういうと俺に近寄り足を絡めて顔を近づけてくる。
すこしでも動くと唇が触れてしまうくらいにまで。
相手のやけに艶めかしい吐息が俺にかかる。
「はぁ。わかったよ立花鈴華。これでいいか」
すると、にっこりした後、どこか満足そうに俺から離れる。
そう、こいつの表向きの顔は簪など女性の装飾品を作っている立花鈴華。
裏の顔は俺と同じ解放軍として魔法政府に反旗を翻している。
「それにしても表のあなたより今のあなたの方が私は好きよ。表でも仮面なんか剥がして自由に生きればいいじゃない」
「んなお気楽な世界じゃねんだよ。解放軍だとばれたらやばいだろ。お前も裏と表を分けろ」
「はいはい、わかったわ。ふふっ。ねぇ、昨日の魔法使い(ウィザード)二人を切り裂き殺したのってあなた?」
「さぁ、どうだかね」
「ふぅ~ん。まぁいいわ。あなたも私も暇なんだし外に出ましょうか」
「おい。唐突すぎんぞ。おい。引っ張んな。おい」
俺は鈴華に引っ張られながらお店を後にした。