-闇に隠れて悪を討つ-
砂埃が舞う寂しい路地。ゴミが散りばめられ異臭が漂っていた。
そこの角には、兄弟なのか小さな子供たちがボロボロになった服を着てお父さんらしき人物の周りで泣いている。
しかし、綺麗な服を着た大人たちは子供たちをまるで、道端に石ころが転がっているかのように意識しないで歩いている。
そう、奴らは魔法を使える人間魔法使い(ウィザード)である。
彼らは魔法を使ってこの世界の争いすべてを終わらした。
しかし、争いがなくなった時、また新たな争いが生まれた。
それは、魔法使い(ウィザード)が魔法を使えない人間を攻撃するという悲劇を生むしかなかった。
たちまち、人間は魔法使い(ウィザード)に立場を奪われ、人権もなくなってしまう。
そこから、魔法使い(ウィザード)からの差別がはじまり、魔法使えない人間は劣等種と呼ばれるようになってしまったのだ。
「おい、見ろよ。劣等種の子供がいるぞ」
若い男の二人組のうち一人が子供たちを指さしてあざ笑う。
「うっわ。きったねぇ。真ん中の糞じじいにハエたかってんじゃん」
もう一人もそれに気づき二人で笑い出す。
「お前ら欲しかったのはこの薬だろ。俺の父さんが作ってるからたくさんあるんだけどね。それを買えないとか自分の生まれた環境に嘆きな。ハッハッハ」
男はひらひらとカプセルの薬が入ったビニール袋を見せつけるようにしてバカにしだす。
「笑うな!全部お前らのせいだぞ。薬を高くして売るからお父さんがしんじゃったじゃないか」
一人の女の子が立ち上がり彼らを睨みつける。
「そうだぞ」
「魔法使い(ウィザード)なんてっだいっきらいだ」
周りの子供たちはお姉ちゃんと同じように魔法使いを睨んでいる。
「声張り上げて、うっせぇガキ達だな。だまってろ」
「ッッ!?!?」
男が杖を振ると女の子の口にチャックが出来、それが彼女の口を閉じてしまう。
「ンッンッ……ンッ……」
「アハハハハ。劣等種が魔法使い(ウィザード)様に歯向かうからだよ」
「マジ滑稽」
二人の男が女の子の姿を見て手を叩き、腹を抱えながら笑う。
「お、お姉ちゃんを、元に戻せ!!」
男の子が駆け寄ろうとする。
「ほれっ」
「わっ!!」
男が杖を振りかざすと男の子は吹き飛ばされてしまう。
「どうやらお仕置きがたんなかったみたいだな」
「うざいから、こいつらやっちゃうか」
男たちは杖を子供たちにかざし魔法をかけようとする刹那、
シュッ!!!!!!!!!!!!!!
何かが通り抜ける音が聞こえた。
「なんだ?」
「風か?」
男たちの動きが止まる。そして、男たちが振り向こうとしたとき、
「振り向くな!てめぇらの後ろは地獄だ」
男たちの後ろから冷たい声が聞こえる。
「んだとてめぇ!!」
「なめてんのか!オラァ」
男たちが振り返ろうとした瞬間、
ポタポタポタ
と血が地面に落ちていく。
男たちは血が出ている個所を探す。どうやら、腹部から垂れているらしい。
「てんめぇ!よくも」
「ふざけんなよ!!」
男たち二人が完璧に振り返る。
すると、
「ウッ!!」
「ッ!!!!」
男たちの胴体がそのまま地面にドサリと落ちる。まるで人形が倒れ込むみたいに。
そして彼らはそのまま絶命してしまう。
「厄介な連中が増えたな。んっ。おい。そこの女ちょっと動くな」
全顔の下半分を黒いマフラーで隠し、全身を黒い衣装で固めている男は女の子を見たと同時に何かに気づく。
男が口を縫われている女の人に近づいていく。
「お、お姉ちゃんになにすんだ」
「これいじょうおねえちゃんをいじめないで」
女の子を庇おうと男の子たちが立ちふさがる。
「はぁ……。ただ、そいつを楽にしてやるだけだ」
「ら、楽にさせるってお姉ちゃんを殺すんじゃないか。そんなことさせなっ……。あれっ?」
男の子たちの前から男は消えていた。
「魔法だけを斬った。これで大丈夫だ」
男の子たちのいや、女の子の後ろから声が聞こえる。その声の発信源は若い男からだった。
男はそういうと納刀する。
「あ、あれ。口が治ってる」
「おねえちゃん!!」
「お姉ちゃん!!」
男の子たちがお姉ちゃんに駆け寄っていく。
「お、おにいさんありがと」
魔法から解放された子供たちが礼を言う。
しかし、男の姿はなく変わりにいくらかのお金が置かれていた。
男はいつの間にか屋根の上にいて子供たちを見下ろしていた。子供たちはどうやら男に気づいていないらしい。
「フッ。んなこと言われる筋合いはねぇよ。俺もあいつらと同じ地獄に落ちるような人間だからな」
そう言い放ち、男はその場を去っていく。
彼は、解放軍という魔法使い(ウィザード)に反旗を翻す反社会組織の一人。
斬崎黒鉄だった。