表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国激動 ~Tales of the Crumbling Empire City~  作者: 十条クイナ
第1章 黎明
58/101

第1章の12 接触

「あれ?」


 先頭を歩いていた若葉の足が止まる。


「どうした、何か見つけたか?」


「ほら、あそこ・・・。」


 そう言って若葉は一つの建造物を指さす。

 表参道沿いに建てられた石造りの大きな集合住宅。その入り口付近に数人の背広姿の大人が集まっていた。


「何かあったのかな?」


 遠目では判然としなかったが、


「あまり、良い雰囲気と言った風には見えないな。」


 隣で見ていたアーデルハイトも、俺と同様の印象をいだいたらしい。


「ま、近くまで行けばハッキリするだろ。」


 そう言って、俺達は歩き出した。

 そして近付くにつれ、徐々にその様相が明らかになっていく。


「何だか、余りお近付きになりたくない感じの人達だね。」


 珍しく若葉はそんなことをぽつりと呟く。

 だが無理も無い。

 そこに立っているのは、お世辞にも良いとは言い難い人相の男達だったからだ。

 それに加え、その不機嫌そうな様子がその容貌を更に歪めている。

 加えて、絶えず煙草を吸い続けているせいか、その足元には無数の吸殻が散乱している。

 どう見ても、堅気の人間には見えなかった。


「なんだいあれは? アレが日本の極道(ヤパニッシェ・ヤクザ)というヤツかい?」


「何でヤクザだけ日本語なんだよ。

 いや、つーか違うだろ・・・、たぶん。」


 多分、違うはずだ。

 その証拠に、あの強面の男達の背後。

 集合住宅の入り口に貼られた規制線。


「おそらくは、警察だな。

 そんで、あの集合住宅の中で何か事件が起こった、て事なんだろうな。空き巣か強盗か、はたまた殺人か。まあ、あのおっさん達に話を聞けば一番手っ取り早いんだろうが・・・。」


「えー、私は嫌だよ。あの人達絶対怖いよ。」


「私もイヤー。何か通り掛かる人のことスッゴイ睨んでるもん。絶対近付きたくないよ。」


 案の定、若葉とストレルガは猛反対し出した。

 その気持ちは分からんでもない。

 現に今も前を通り過ぎる人達を、尋常ではない程にガン見している。

 そのせいで住宅側の歩道を歩く人が極端に少なく、また通り過ぎようとする人は皆必死で目を伏せ、足早に歩いている。

 ここまでくると、本当にヤクザなんじゃないかと不安になってくる。


 仕方ねえから取り敢えずは、試しにあの刑事の中を覗いてみることにしたが、


「ああ、ダメだ。アイツら、大した情報は持ってねえ。」


 殆ど当てにならなかった。


「えー、何でー。」


「事情を知らされないままに駆り出されたらしい。

 加えてあのおっさん達、仕事サボってやってた賭博の途中で駆り出されたから、あんだけ機嫌が悪いんだとよ。」


「とんだ屑だな。」


 まったくもって同感だ。

 ろくでもねえ不良刑事がいたもんだ。

 いっそのこと、このネタであいつ等を強請ゆすって中に入いってしまおうか、と。

 そんな考えが頭をよぎった時、入り口の中から1人の少年が現れた。


「何者だ、あの少年。」


「さあな。だがあの規制線の内側から出て来たんだ。ただの一般人って訳じゃねえだろうな。」


 そうこう話していると、少年は歩道をこちらの方へ向かって歩いて来た。


「ねえ深夜・・・、」


「わかってる。なら取り敢えずアイツに話しかけて、適当に気を引いてくれ。

 その間に俺は探りを入れる。」


「ん、了解。」


 若葉は頷くと、その少年へと近づいて行った。


「ねえ君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「ええ・・・、まあ、構いませんが。」


 取り繕ってはいるが多少困惑している、といったところか。


「ありがとう。

 それで聞きたいことっていうのは、そこの集合住宅についてなんだけど。」


 そう言って若葉は少年の後ろへ目を向ける。


「どうにもあの人達には近寄り難くってさ。」


「ああ・・・、まあ、そうですよね。」

 

 その言葉で、この少年は大体は察してくれたようだ。


「・・・何か、ごめんなさいです。」


 別に自分が悪い訳でも無いのに、随分と律儀なヤツだ。

 まあ、情報が取れるならは俺は何だって良いんだが・・・。

 取り敢えずのところは、若葉の後ろから静観することに決めた。


    ※


「すみません、そろそろ僕は行かなければならないので・・・。」


 少年は上着のポケットから取り出した時計を見て、申し訳なさそうに言った。


「ううん、こっちだって突然引き留めたりしちゃってごめんね。」


 慌てたように若葉も手を振り、謝った。

 これまでのこの少年と若葉の会話で、ある程度のことは分かった。


『ねえ深夜、どうだった?』


『別に特に何か引っかかる点はなかったな。

 大体がコイツの言った通りだ』


 この中であった人殺しの事件。

 誰が殺されてたか。

 死体の状態。

 そして、これまでの事件との関連性。


『まあ当然、わざわざ一から十まで話してくれる筈も無いが。』


『それでも、嘘はついてないってことだね。』

 

 まあ、そういうことになるな。


「あの・・・、どうかなさいましたか?」


 少年は心配そうな顔で若葉を見上げている。

 その呼び掛けに若葉は、ハッと我に返ると、


「ううん、ごめんね。ちょっと考え事をしてただけ。」


 適当に誤魔化ごまかした。



「・・・? そうですか。

 それでは、僕はもう行きますね。」


 そう言ってこの少年は歩き出した。その瞬間、


「ああ、やっぱりちょっと待て。」


 俺はこの少年を呼び止めていた。

 内心は自分でも驚いていた。何故引き留めたのか自分でも判らなかった。

 だが何となく、何か感じるものがあった様な気がした。


「ええと、なんでしょうか?」


 俺の言葉に少年は再び足を止め、振り返る。

 その表情には面を喰らったような驚きが浮かんでいる。


 そりゃそうだ。

 これまで静観を決め込んでいたヤツに、いきなり呼び止められたんだからな。


「同じことを何度も聞いて悪いんだが・・・、これをヤッた下手人に心当たりはねえんだよな?」


「ええ・・・、警察も、僕達も、その人物を血眼になって探しておりますから。」


 そうみてえだな。

 その部分が黒い霧に覆われたかのように、まるで判然としねえ。


「心当たりもか?」


「・・・はい。」


 数秒の沈黙が流れる。

 その間も、コイツは俺から一切視線を逸らさない。


「・・・そうかい、了解だよ少年。」


 そう言って俺は肩を竦める。


 ああ、そうだ。

 ついでだから、少し揶揄からかってみるか。


「ああ、それと最後にもう一つ良いか?」


「はい、何でしょう。」


「お前、好きな奴はいんのか?」


「は?」


 おおっと、一瞬で思考が凍り付いたな。


「好きな奴だよ。惚れてる子だの、好意を寄せる異性って言い換えても良いぜ。

 まさか同性しか興味ねえ、なんてホモ臭え落ちじゃねえだろな。」


「な、何でいきなり、そんなことを・・・。」


 凍り付いた頭の中が熱を帯び始めた。


「別に深い意味は無え、単純な好奇心だよ。」


「か、仮に居たとして、別にそれを、あなたに教える必要はないでしょうッ。」


 随分と早いもんだ。

 もうすっかり頭ん中は茹ってやがる。


「からかうなら、僕はもう行きます。」


 そう告げると、ソイツは二度と振り返ることなく、足早に立ち去って行った。


「ははッ、随分と青臭えヤツ・・・ッ、」


 そう言いかけた瞬間とき

 ドゴッ!! と、二つの強烈な衝撃が走った。


「ッてェな。何しやがるテメエら!」


「深夜・・・、流石にソレは私でも、”無いわー”って思うよ。」


「全くもってワカバの言う通りだ。

 人の趣味にどうこう言うのは私も好みではないが、出歯亀でばがめも大概にしておけよ。

 先のアレは、心底見るに耐えん下衆の所業そのものだ。」


 怒り心頭の様子で仁王立ちをする若葉とアーデルハイト。

 その後ろに立つ、かなり引き気味のストレルガとレオンハルト。


「・・・、チッ。

 悪かったよ、俺もやり過ぎた。」


「まったくもう。今度からは、ああいうことはしないでよね。」


 心底呆れたような溜め息を若葉に吐かれた。


   ※


「つーわけで、アイツもさっき喋ったこと以上のことは持ってなかった。」


「つまりは、あんまり収穫は無かったってことだね。」


「・・・悪いかよ。」


「いーや、別にー。」


 ねたような言い方だ。

 

「まださっきのこと根に持ってんのかよ。」


「あのねえ深夜、さっきのは深夜の完全な自業自得なんだからね。

 寛大な皆に感謝こそしても、何かを言えるような立場じゃ無いはずだよ。」


「へーへー、俺が悪うござんしたよ。」


 一先ひとまずは引き下がるしかない。

 業腹なことだが、若葉の言ってることは全く持っての正論でしかない。

 ここで食い下がろうものなら、余計にこじれるだけだ。 


「おい、シンヤ。」


 だと言うのに、


「あの時、あの少年だけでなく、どさくさに紛れて私の中も覗いていたな。」


 今度はアーデルハイトの方から絡んできた。

 どうやらこの女はしっかりと気付いていたようだ。どうやら学校でのことは偶然ではなかったらしい。


「別にお前だけを特別扱いしちゃいねえよ。ちゃんとこの場にいた全員を平等に見ていたさ。」


 まあ、それに気付いたのは若葉とこの女だけだったんだが。


「そうかよ、ならせめてもっと他人ひとには気遣うべきだな。

 背後から感じるお前の変質者めいた視線には、正直、怖気おぞけが走るよ。

 犯罪的とすら言える不快さだ。」


「おおっと、それは失敬。

 流石は深窓の令嬢様なだけはある。神経がか細いだけでなく、器量も狭いとこられた。

 俺も多少の礼儀は弁えていたつもりだったんだが、まさかここまで短小だったとは予想もしてなかったなあ。」


「あ?」


「あ?」


 俺とアーデルハイトが無言で睨み合う。

 周りの空気が凍りついていく。通りすがる人間が明らかに俺たちの周囲を避けていくのがわかる。

 一触即発。これ程までに、この場に相応しい言葉もあるまい。

 数秒の睨み合いの後、


「はいはい、二人ともケンカしない。

 こんなところでケンカしちゃ、周りに迷惑がかかるでしょう?」


 若葉がその間に割り込んできた。


「引っ込んでろや、若葉。」


「お前は関係ないだろうがよ、ワカバ。」


 同時に割り込んできた若葉を睨みつける。

 だが、俺達の視線に若葉は全く怯むことなく、


「わかったわかった、そう言うのはもう良いから。」

 

 と言って右から左に受け流す。


「それで、どうだったの深夜。みんなの中を見てみた結果は。」


「・・・チッ。ああ、それなりに意義はあったよ。」


 不本意ではあるが、若葉の静止に従うことにした。

 何事にも好機タイミングってのがある。

 特にも一度機を逸した口上こうじょうに執着するほど、無様なことはねえからな。


「そこのアーデルハイトと、レオンハルト。いや、レオンの方は又聞きか。

 アーデルハイト、お前件の殺人鬼に会ってたな。」


 その瞬間、皆が物凄い勢いでアーデルハイトの方へ振り返る。


「ねえ・・・、それ本当?」


 若葉は勿論、ストレルガにとっても初耳だったようだ。二人の表情には明らかに驚愕の色が浮かんでいる。


「別にあの子供がそうだと決まった訳では無いだろう。」


「だが、少なくともお前はそう思ってる。

 鬼柳千春だったか。相当煮え湯を飲まされたみてェだな。」


「・・・、成程、古今東西、読心術士という人種が嫌われる訳だ。

 貴様のお陰で、今日改めてその理由がハッキリと理解できたよ。」


「イイお勉強になって良かったな。

 この俺に感謝したっていいんだぜ。」


「あ?」


「お?」


 そしてまた俺とこの女は睨み合う訳なんだが、


「ふーたーりーとーもー。

 いい加減にしないと私も本気で怒るよ。」


 俺達がイイ感じに温まったところで、再び若葉が水を差して来た。


   ※


 この後も、結局何だかんだで5人のままで動き回った。

 時折、俺とアーデルハイトが売り言葉に買い言葉で険悪な空気が生まれ、その度に若葉や他の二人が止めに入る、というやり取りが度々《たびたび》起こった。

 てなもんだから、最終的に寮で解散するときは、とうとう俺とアイツは互いの顔すら合わせずに別れる始末だった。


「今日は悪かったな、何度も世話をかけちまって。」


「まったくもってホントだよ。

 私やレオン君、ステラちゃんが何度止めに入ったと思ってるの。」


「あの女が一々癇に障ることをほざくから、ついイラッときてよ。」


「もっと大人になりなよ。」


「そりゃアイツのことだろうが。」


「二人ともだよ。

 あーもう、この先がすごく思いやられるよ。」


 露骨に呆れたように溜め息を吐かれた。


「だから悪かったって。」


「そう思うなら、次からは気を付けてよね。」


 そうして俺達は廊下を歩く。

 大して長い道のりではない筈なのだが、思いのほか時間が掛かった様な気がした。

 そしてようやく分かれ道に差し掛かる。


「私の部屋はこっちだから。」


「ああ。」


「それじゃあ、また明日。」


「ああ。」


 若葉は背を向け、自室へと戻ろうとした。俺はその後ろ姿を数秒見詰めていたが、


「おい若葉。やっぱ少し待て。」


 思わず呼び止めてしまった。


「どうしたの、深夜?」


「やっぱり、お前には伝えておこうと思ってな。」


「・・・?」


不思議そうに首をかしげながら、再びこちらへ戻って来た。


「同潤会の共同住宅の前で会った小僧は覚えてるよな。」


「小僧って・・・、私達とあの子の年齢とし、そんなに違わないでしょうに。」


「んなことはどうでも良い。

 それと鬼柳千春って名前、覚えてるよな。」


「うん。ハイジが遭遇したっていう子でしょ。」


「ああ、そうだ。あの女が連続殺人の下手人だと確信してるヤツだ。」


 ふむふむ、と頷きながら若葉は聞いている。

 ただ俺が何を言わんとしているのかは、掴めてはいないようだ。


「なら俺があの小僧に聞いたことも覚えてんな?」


「あの最ッ低にくずな質問でしょ。そりゃ勿論、ばっちりと覚えてるよ。」


「だから、それはどうでも良いっつーのッ!」


「全然良くないって。一緒にいたこっちまで恥ずかしくなって来たんだから。ていうか、もし次会った時、私はどんな顔してあの子に会えばいいのよ。」


 だから、流石にアレは俺もまずかったって思ってんだろ。


「とにかくだッ!

 俺がその問いを投げた時、初めにアイツの中に浮かんだ人間が、鬼柳千春だったんだよッ!」


 その瞬間、若葉の表情が一気に固まった。


「・・・どういうことなの?」


「さあな、俺にも判んねえよ。」


「ひょっとしてあの子も犯人ってこと?」


「それはねえな。

 あの小僧は誰もっちゃいねえし、殺人鬼を探してる、つうのも本当だった。」


「そう・・・。」


「ただ、無自覚の共犯者って可能性が無い訳でも無い。」


「あの子が探偵をやってるから?」


「そうだな・・・、探偵の近く程、サツの動きが見え易いところもない。

 ましてや、あの小僧自身がその事件を追ってんなら尚更だ。」


 そして俺達は互いに沈黙し、考え込む。

 とは言え、何か核心めいた案が浮かぶことはない。判断材料が少なすぎる中では、大した結論など出るはずも無かった。


「つーわけで、俺が伝えたかったことは以上だ。」


「うん。」


「気を付けろよ。

 コレに関しては、あんま良い予感がしねえからな。」


「うん、わかった。ありがとう。

 何だかんだ言って、深夜って優しいよね。」


「うるせえよ、いいから行け。」


「はーいはい。」


 そう言って笑いながら、若葉はきびすを返す。

 ニヤけ面は気に喰わなかったが、今更若葉に何を言っても暖簾に腕押しなのは分かり切っていることだ。だったらおとなしくその背を見送るのが、一番面倒が無い。

 そうして今度こそ俺達は別れ、己の部屋へと向かった。


「まあ後は・・・、アイツだな。」


 まだ気になる奴はいる。

 廊下側の後方に座っていた眼鏡掛けた地味そうな印象を受ける女子生徒。

 今日の教室で俺の読心術に気付き、その上で跳ね返してきた。


物部もののべって言ったかな。」


 自己紹介の時、あの女はそう名乗っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ