習作 雪消(ゆきげ)
本文は古文調に書いてありますが、下に現代語訳を載せてありますので、併せてご覧ください。
あくまでも実験的に書いたものですので、細かい時代考証などはしていません。ご了承ください。
我が背はいずこへ去りしか。
些かのあらがいに、私の元を去りし我が背よ。
「我が妻、吾は都へ上ろうと思う」
「何故に? 私は行きとうない」
「今より良き暮らしをしたくはないのか」
「我が背よ。そなたがおればそれで良い」
「吾は、このようなところで朽ち葉となるつもりは無い。汝が行かぬなら、吾一人で行く」
而して、戦へ武者は出で立ちぬ。
我が背よ。父も母も、とうに亡し。
此方は幾年目かの雪消の折節。
雪間より、蕗の薹が頭を出しぬ。
数多積もりし雪も溶けて川を成し、ようやく春は来たり。
我が背、我が背。汝も疾く帰りたもう。
やれ、遠方に誰ぞ見ゆ。
馬上にゆかし鎧武者。
雪消の水は今、涙川となれり。
現代語訳
私の夫はどこへ行ってしまったのか。
少しの口論のために、私の元を去ってしまったあなたよ。
「妻よ、俺は都へ上ろうと思う」
「何故? 私は行きたくない」
「今よりも良い暮らしをしたくはないのか」
「夫よ。あなたがいればそれで良い」
「俺は、こんなところで落ちぶれるつもりは無い。お前が行かないなら、俺一人で行く」
そうして、戦に向かうため武者は出立した。
あなた。父も母も、とっくに亡くなってしまいました。
こちらは何年目かの雪解けの季節です。
雪の間から、蕗の薹が顔を出しました。
沢山積もった雪が溶けて川を作り、ようやく春になりました。
あなた、早く帰って来てください。
あら、遠くに誰かがいる。
馬に乗っているのは懐かしい鎧武者。
雪解け水は今、止めどなく流れる涙の川になりました。




