六話
それからしばらく私たちは階段を走りつづけました。テンペイさんや二郎さんは追いかけてきません。あとでウーさんに聞いたのですが、ごくうさんが一人で大あばれしたせいで、階段がこわれちゃったそうです。
「おい。そろそろ、天印の準備をしとかんと、吹き飛ばされるど!!」
「分かってるよ!!」
私が上を見上げると、きらきらとにじ色に光るかべが見えました。階段をふさぐように立っています。
タマエさんが四角いハンコを右手で持って、じゅんびしました。
びゅうんっ!!
ジェットコースターで下りていくみたいな、おしりがずんとする感じ。あっという間に、きらきらするかべを抜けていました。
「次の踊り場に出たら、白い扉を抜けな!!そこが、天の岩戸がある大和の天界だよ!!」
「よっしゃ!!」
そしてウーさんたちはスピードアップしました。私はウーさんのおなかにかおをくっつけて、しがみつきます。
そして、これまでで一番広いところに出ました。
「白い扉ちゅうたかて、どこじゃ?」
回りはぐるっとたくさんのドアでいっぱいです。タマエさんが言うには、どれも色んな天界につながってるそうです。
「正面の扉だよ。アタイの尻尾の毛がついてるだろ。」
「おっ、あれかい!!」
そして私たちはドアを開けて中に入りました。
あれ?
地面がありません。
「しょえーっ!!」
「きゃーっ」
まっさかさまに落ちる私たちを、タマエさんがシッポでつかまえてくれました。あ〜びっくりした。
「ドアホ!!空に出るなら最初にいわんかい」
ウーさんはブフーッブフーッとハナ息を吹いておこってます。私も、しんぞうがドキドキです。
「なら、飛べばいいじゃないか。神力は戻ってるんだからさ。」
「お?そういや、そうじゃった。百年ぶりで忘れとったわい。」
ウーさんはブフーッと鼻息を吹くと、あっというまにタマエさんのそばまで上がりました。
「さあ、行くよ」
「おお!!」
私たちは雲の中をぬけて、風みたいに早く飛んでいきます。
「カナちゃん、寒うないか?」
「うん。だいじょうぶ」
ウーさんが、抱っこしてくれるから、とってもホカホカです。ねむくなるくらいにきもちいい…。
いつのまにか、私は寝ちゃってたみたいです。そのあいだに、ウーさんの先生がいるアマノイワト?についたのでした。
私が通っている学校くらいの大きさの三角の山が、空に浮かんでいました。ピラミッドみたいにカクカクしてなくて、おにぎりみたいな岩山です。おぼんのような平たい岩の上に、アマノイワトは乗っていました。きれいな真っ白な石でできています。
私たちは、その平たい岩に降りました。私の学校のグラウンドくらいの広さです。
前を見ると、とっても大きな岩のドアがありました。工事のトラックよりも、もっと大きなドアです。
「で、どないするんじゃ。神力は無効じゃ。力ずくで開けようと思うたら、タヂカラオ神とか、ギリシャのヘラクレス神でもなけりゃ無理やぞ。剛力の神にツテでもあるんかえ?」
「ないよ。」
「おま〜な…」
「あのね。ここまで来たら勝ったも同然だろ。アタイらの声は天岩戸の中に届くんだから。天照大御神も宴に誘われて、出てきたのを忘れたのかい」
「おお、なるほどのう。」
「…だが、それをすることは出来ぬ」
ひくい男の人の声がうしろできこえました。
おそるおそるウーさんたちがふり返ると、まゆ毛の太い恐そうなおじさんが、ぎん色の大きな剣を持って立っています。私の学校の体育の先生みたいな感じ。その回りにはテンペイさんが、たくさんたくさんいました。
「我はタケミカヅチ。天命により、不届き者どもを捕らえに参った」
「タケミカヅチ?あれれ?ウーさんの先生じゃないの、あのおじさん」
「ちゃうちゃう!!やっぱり別人じゃ」
「下界の童まで連れ込むとは…、この罪は重いぞ。しかし、どうやって無限螺旋階段に入り、しかも天印を必要とするこの階層まで上がって来たのだ?確かに報告通り、千年級の天孤と天猪ではあるが」
首をかしげているタケミカヅチさんに、テンペイさんが話しかけました。
「どうやら中国の孫悟空が手助けをしたようです。二郎真君様が迎撃なさいましたが、そのせいで無限螺旋階段の一部が破壊されたとの報告です…」
「なに!?だから前から言っていたのだ。あのエテ公は改心などせぬと。これは中国神群にも抗議をせねばならん」
タケミカヅチさんはおこっています。すると、青い雷がバチバチと回りではじけて、テンペイさんたちは逃げました。
「さ、さらに、ギリシャの主神ゼウス様の天印が使われたとのことです」
「ギリシャもか!!どうなっておるのだ、この騒ぎは!!この大事な時に」
ピシャーン、ドカーンと、あちこちに雷が落ちておおさわぎです。ウーさんたちも、右に左に走り回っていました。
「い、いまのうちじゃ。タマエ、呼ぶど!!」
「ああ!!」
そしてウーさんとタマエさんは大きな声で、ウーさんたちの先生に呼びかけました。
「お師匠様ーっ!!ウリオウですじゃ!!」
「主様ぁーっっ!!タマエにございますーっっ!!出てきて下さいましーっ!!」
「こら、お主ら!!」
タケミカヅチさんはおこって、私たちに近づいてきます。ぎん色の大きな剣はピカピカ光って、当たると痛そう。
その時、私たちの回りに強い風がビュウッと吹きました。すごい風だったので、私は目をつむってしまいます。
そして、あの人の声がきこえました。
「おい、おっさん。さっきおいらのことをエテ公とか言ったよなぁ」
「ごくうさん!!」
目をあけると、孫悟空さんがにょい棒をもって、私たちの前に立っていました。
「大和の問題に横槍を入れるか、孫悟空!!ならば中国神群の長に厳重抗議をするぞ!!」
「おいらが怖いから、玉皇大帝に泣きつくのか?あんた、仮にも武神だろ。それとも、大和神群の武神ってのは、そんなに弱いっちいのかよ」
「…よう言うた。」
タケミカヅチさんは真っ赤な顔で、とっても怒っています。そしてあの大きなぎん色の剣をごくうさんに向かってふり下ろしました。ごくうさんも、にょい棒を風車みたいにふり回しました。
「…!!」
私は思わず耳をふさいで目をつぶりました。ものすごい音がすると思ったからです。
…でも、いつまでたってもしずかなままでした。
「…やれやれ。騒がしいと思ったら、何事ですか」
きれいな声が聞こえました。私が見てるアニメの王子さまみたいなカッコいい声です。
私は目をあけました。すると、黒いかみの毛に黒い目をした、すごくきれいな男の人が立っていました。
ごくうさんのにょい棒を右手で止めて、タケミカヅチさんの剣を左手の指ではさんでいます。
「我の剣を指で止めるだと!?誰だ、貴様!?」
タケミカヅチさんは、すごくびっくりしてます。太いまゆ毛が上がって、目が大きくひらいていました。
「誰と言われても、そこの岩戸に入っていた者ですが…。ああ、イザナギたちしか知らないのでしたね」
「なにっ!?」
そしてきれいな男の人が指をはなすと、タケミカヅチさんは後ろにひっくり返りました。
「なあ、おいらの如意棒も離してくんねえかな。どうも、あんた、おいらより力が強えみてえだし…」
ごくうさんは笑っていますが、何だかこわい笑い方でした。
「まさか。山を二つ持ち上げるようなあなたに、かなうわけがありませんよ」
男の人はにょい棒をはなしました。それから、私たちを見ました。
「おや、二人とも。どうしたのですか?こんなところに来て。」
「お師匠ーっ!!」
「主様ぁーっ!!」
ウーさんとタマエさんは男の人に抱きついて、いっぱい泣きました。私はその前に、おりていました。
「ブキ〜ブキ〜…。会いたかったですじゃ〜」
「えんえんっ…ぬしさまぁ〜」
「ほらほら、ウリオウ。タマエ。いい歳をして子供みたいに泣くものではありませんよ」
男の人はやさしい顔で、ウーさんたちを抱っこしています。
「よかったね…。ウーさん」
私がよろこんでいると、ごくうさんがとなりに来ました。
「喜んでる場合じゃねえよ。ほれ、あれ見な」
ごくうさんが指をさした方向には、台風みたいなつよい風が吹いて、カミナリがなっています。
「大和の神々のご集合だ。さあ、どうすんのかねぇ。嬢ちゃん、おいらの服に掴まってな。吹き飛ばされるぜ」
言われたとおりに、私はごくうさんの赤い服をにぎりました。
そして、ヤマトの神さまたちがきました。