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お稲荷さんのイノシシ  作者: ふわふわの雲
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四話

次の日の朝はやくに、私がお稲荷さんに上がって行くと、鳥居のそばにむっくりした何かが見えました。

ウーさんが立っていたのです。

あれれ。いつもは呼ばないと出てきてくれないのに。それに、なんだかそわそわしています。


「ウーさん、おはよう」


「おお、カナちゃん。早いのう」


先生からもらったじまんの腹巻きにりょう手を入れているウーさん。

なんだか、ウーさんの目が私のビニールぶくろをじっと見ています。


「うん。かりんとうを持ってきたよ。ウーさん、食べて」


「いや、なんか催促したみたいで悪いのう…」


ウーさんはてれくさそうに頭をかいていましたが、食べはじめると。


「うまいのう〜ブッシッシ!!」


ウーさんは、それはもう、大よろこびでかりんとうを食べています。見ている私がうれしくなるくらい、ニコニコしています。

もっと早く持ってきてあげればよかったなと私は思いました。


でも、ウーさんは半分くらいで食べるのをやめてしまいました。


「どうしたの?」


「後は、カナちゃんのぶんじゃ」


なんだか、ちょっぴりざんねんそうな声です。


「ううん。それ、ぜんぶウーさんのぶんだよ。私のはちゃんとあるから」


「ホンマか!?」


またウーさんは、大よろこびでかりんとうを食べました。


「あ〜うまかった。ありがとうよ、カナちゃん」


大きなおなかをさすりながら、ウーさんはお礼を言ってくれました。


「こんどは、あんパンを持ってきてあげるね」


「いや、そないに何回も悪いがな…」


ウーさんはえんりょしていましたが、私が何回も言うと。


「そか!!ほんなら、楽しみに待っとるわい」


そう言って、うれしそうに笑いました。 神さまなのに、食べたいものも食べられないなんて、フキョウはたいへんです。


「それもこれも、あのメギツネのタマエが悪いんじゃ!!」


ブフーブフーとハナ息あらく、ウーさんは怒りました。

ウーさんは、その時のようすを紙芝居みたいに見せてくれました。


『ちょっと天界に行くだけだからさ。留守番頼むよ。あんた、京都にいてもヒマだろ』


白いキツネの耳をしたきれいな女の人が、ウーさんに話しかけています。ウーさんは今とおんなじで、ずんぐりむっくり。ぜんぜんかわっていません。


『アホか。ヒマなわけがあるかい。ワシかて忙しいんじゃ。』


『ウソばっかり。ここ百年は護王神社で昼寝しかしてないじゃないか。妖怪や悪霊退治をしないまんまじゃいつまでたっても神力も増えないだろ。だからアタイのお稲荷を貸したげるって言ってんのさ』


『む…』


『田舎はいいよ〜。手頃な妖怪や悪霊も多いし、それに拝んでもらったら、神力も独り占めできるしさ。地元のお供えものなんかも食べられる』


『ほほう…』


ウーさんの耳が動いています。


『で、ちょっとって、どれくらいじゃ?ワシも昇格試験を受けなあかんから、あんまり長いと困るど』


ウーさんによると、一回お社に入った神さまは、代わりの神さまが来るまで、そこをはなれられないそうてす。そして、この時のウーさんは、えらい神さまになるためのテスト勉強をしていたのでした。


『すぐ帰ってくるよ。ホントにすぐさ』


そう言って、キツネのタマエさんは神さまの国に行ってしまったのですが。


「…あれから百年が過ぎておる。妖怪も悪霊もめったにこん。拝む人もおらん。おかげでワシの神力はすっかり錆び付いてしもた」


ウーさんはすごくゴキゲンななめです。

みごとに、だまくらかされたとプンプンです。


「でも、タマエさんにも、なにかあったんじゃないのかな?」


「カナちゃんはタマエを知らんからのう。あいつはワシと同じように、千年以上前からお師匠様の弟子だったんじゃ。修行時代にも、何回もだまされたもんじゃ」


オヤツをとられたり、そうじをおしつけられたり、なんだか、さんざんだったみたいです。それよりもびっくりしたのは、ウーさんが千年も生きていることでした。


「すごいね〜。ふる〜い、おつきあいなんだね」


「これは腐れ縁というもんじゃ」


ブフーっとウーさんはハナ息を吹きました。


「電話とかでお話できないの?」


「あいつは念話を切ってしもとるんじゃ。何をしとるのやら」


ウーさんは空を見上げてため息をつきました。

悪口を言っても、タマエさんをきらいではないみたいでした。ひょっとして、カノジョだったのかな?

それなら。


「ねえねえウーさん。私がカノジョになってあげるよ」


「ブキ?なんのこっちゃ。」


「だって、カノジョのタマエさんがいなくなったから、元気がないんでしょ」


「………」


ウーさんは目を大きくひらいたあとに。


「ブッヒャヒャヒャヒャッ!!」


大笑いをしながら、お稲荷さんの庭をころげまわりました。私はびっくりして、それを見てました。


しばらくして、ウーさんは私の前にピタッと止まり。


「いや、すまんすまん。あんがとな、カナちゃん。けど、タマエがワシの彼女とか、そないなおもろい勘違いを、どうやったらできるんじゃ」


「ちがうの?」


「当たり前じゃ。ワシはイノシシやぞ。あいつはキツネ。それに、タマエとは同じお師匠様の元で修行した兄妹みたいなもんじゃしのう」


ウーさんはまだ笑っています。


「第一、カナちゃん。彼女とか意味が分かってて言うとるんかいな?」


「大すきな人のことでしょ。まえに、お父さんが言ってたもん。私、ウーさんが大すきだもん」


「あ〜。」


ウーさんはこまった顔で、私の頭をなでてくれます。ウーさんの手は大きくて、ネコさんの足のうらみたいにプニプニして気持ちいいです。


「も、ちょっと大きゅうなったら、カナちゃんもわかるようになるわい。そんでも、ありがとうよ」


「うん!!」


お礼を言ってもらえたのがうれしくて、私はウーさんのおなかに抱きつきました。

その時。


「や〜れやれ。えらい言われようだねぇ。せっかく、とびっきりの話を持ってきたのにさ」


頭の上のほうから、きれいな声がきこえました。なんだか、お母さんの声ににてる声。

見上げると、鳥居の上に誰かがすわっています。白い着物を着た、きれいな女の人。ふさふさした白いキツネの耳。

あれれ、この人は。


「あ!タマエさんだ」


と私が言う前に、ウーさんはものすごいいきおいでジャンプしました。テレビのヒーローみたいに、鳥居の上に乗ってしまいます。


「ブキーッ!!オノレ、よくもだまくらかしよったな!!おかげでワシの昇格試験パアじゃ」


ウーさんは、ブフーッブフーッとすごいハナ息を吹いています。そのせいで、女の人の着物がゆらゆらゆれていました。


「まあ、落ち着きなよ。けど、思ったより元気そうじゃないか。はは〜ん。そこの可愛いお嬢ちゃんのおかげかい」


タマエさんはふわりと私のそばに下りました。

近くで見ても、女優さんみたいにきれいな人です。


「可愛いね〜。よしよし。」


タマエさんは私を抱っこして、頭をなでてくれました。ふんわりと優しいにおいがして、私はまたお母さんを思い出しました。


「こりゃ!!カナちゃんまでたぶらかしたら、ワシが承知せんど」


ウーさんも下りてきましたが、ドスンとしりもちをついて、地面に穴があいてしまいました。


「相変わらずどんくさいねぇ」


「やかまし!!おま〜がこないな仕事を押しつけんかったら、今ごろは…」


「護王神社のイノシシの置物」


「…………おま〜、どーでもワシを怒らしたいらしいのう?」


ウーさんのキバが、きら〜んと光りました。


「きゃ〜、カナちゃん助けて。暴れイノシシがいじめるのよ〜」


タマエさんは私のせなかにかくれます。その時に、長いふさふさしたシッポが4本見えました。


「………ブフ〜〜」


ウーさんは、なが〜いハナ息を吹きました。あきれているようです。


「…で、何のようじゃ?まさか、お稲荷の仕事を代わってくれるつもりで来たわけじゃなかろ?」


「天界であの御方を見つけたんだよ。百年かけて、やっとね」


「なんやと!?お師匠様かえ?」


「でも、あの御方は天の岩戸に閉じ込められている。だから、あんたの力を貸して欲しいのさ」


「なんで、あの優しいお師匠様が閉じ込められなあかんのじゃ!!」


「知らないよ。天界の掟を破ったからとだけウワサにはなっているけどね。」


「よし、いくど!!」


ウーさんは、お相撲とりのように、いさましくおなかを叩きました。


「といっても、あんたそのまんまじゃ何の役にも立たないだろ。せめて百年前の状態に戻らないと」


タマエさんが私の手をにぎります。


「さあ、カナちゃん。あのうるさいイノの背中に触ってあげて」


「え〜っと」


「頼む。」


ウーさんは、私に大きな背中をむけました。その背中に私の手がふれると。


「きゃ!」


「おーっ、きたどきたどーっっ!!」


私の体を春風みたいなさわやかな何かが通りすぎて、ウーさんの中に流れていきました。後でウーさんに聞いたら、私の心がタマエさんからのシンリキを大きくして、ウーさんに入ったみたい。


「これで百年ぶんの借りは返したよ。」


「なにぬかす。それ以上の神力をガメてきたんじゃろが」


文句を言いながらも、ウーさんは体がすごく軽そうです。ビュンビュンとお稲荷さんの庭を風みたいな速さで走り回りました。

心なしか、ほんわかと光って見えました。これがほんとのウーさんなのかな?


私が首をかしげていると。


「おお、カナちゃん。大事なことを忘れとった。お父さんたちのことじゃが、もうちょっとだけ待っとってくれ。帰ってきたら、必ず何とかする」


ウーさんは、りょう手を合わせて私にあやまりました。


「帰ってこられる保障がどこにあんのさ。安請け合いするくらいなら、やめときな」


「…あぶないの?」


「危ないっていうより、こりゃ掟やぶりだからね。赤信号が見えていて渡るようなもんさ」


「おまわりさんに怒られるよ」


「そうだね。た〜くさん怒られるだろうね。」


タマエさんは私の頭をなでながら笑っています。


「てんかいにウーさんの先生を助けに行くの?」


「そうだよ。ウリオウだけじゃない、アタイの大切な御方をね」


よく分からないけど、タマエさんもウーさんの先生が大好きみたいでした。


「私も…私も行きたい。ウーさんやタマエさんの先生を助けに」


だって、こんなに優しいウーさんやタマエさんの先生が、悪い神さまのわけがありません。前にウーさんに見せてもらった絵も、とっても優しそうなかんじに見えました。


「いや、カナちゃんあのな…」


「いいよ。ウリオウが断るなら、アタイと一緒に行こう。」


「こら。そないなこと、ワシは許さんど」


「天界の掟、106項。みだりに人を傷つけるべからず。特に汚れなき幼子。この子がいれば、あっちも荒っぽい真似はできないだろ。」


「むむ…」


「ウーさん、お願い。私も一緒に行かせて」


私はウーさんのおなかに抱きつきました。

ウーさんはしばらく考えていましたが。


「分かった。カナちゃん、ワシらを助けてくれ」


「うん!!」


そして私は、タマエさんに抱っこしてもらって、ウーさんと一緒にお空へ上がったのでした。

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