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お稲荷さんのイノシシ  作者: ふわふわの雲
2/9

二話

「ウーさん、おはよう!!」


私はお稲荷さんに向かって元気にあいさつする。

すると、パカッと扉が開いてウーさんが出てくる。


「おお、カナちゃん。おはよう。今日も来てくれたんか〜。ブシシ」


ウーさんはうれしそうに笑いながら、私の頭をなでなでしてくれる。

今日で三日目だ。


「あ、先にお参りをしてくるね」


「すまんのう〜」


私はお賽銭箱の前にぶら下がっている太いロープを持って、左右にゆする。

ガラガラと大きな鈴の音が鳴った。


「ウーさんが元気になりますように」


私はいっしょうけんめい、お祈りをした。


「うむむ…。なんか、力がわいてくるど〜」


ウーさんは、大きなハナからブフーっとハナ息を吹いています。それを見るのがおもしろいのも、ここに来てる理由の一つ。ないしょだけど。


それからは、ウーさんにいろんなお話を聞く時間。

今日は、ずっと昔にあった神さまたちの会議のお話。


「孫悟空も来てたの!?どんな感じだった」


「さあ。ワシは、下っぱじゃからして、すんごい遠くからしか見てないんじゃ。ただ、だいぶ丸くなったみたいじゃのう」


じろうしんくん?って神さまと、なかよく話していたんだって。あとでおじいちゃんに聞いたら、孫悟空をやっつけた神さまみたい。


「ウーさんはどれくらいえらいの?」


「ワシか?全然偉くはないど。そうじゃのう。交番のおまわりさんみたいなもんじゃな」


「おまわりさんえらいよ。それにカッコいい。私、迷子になったとき助けてもらったもん」


「そか。カナちゃんは優しいのう」


ブフーとハナ息を吹きながら、ウーさんは笑っています。


「おまわりさんなら、花咲町のパトロールをするの?」


「いんや。こんな小さい町に、悪い妖怪はまず来ん。たま〜に人や動物の迷った魂が来るから、話を聞いてあげてあの世に送る手伝いをするくらいじゃのう」


「やっぱり妖怪っているんだ!!」


私はこうふんして、くわしく話を聞いた。


「おお。京都とか東京みたいなでっかい町には、妖怪もいっぱいおる。人がたくさんおる町に、あいつらは集まって悪さをするんじゃ」


「やっつけたことあるの?」


「昔、ワシが若かった頃、お師匠様と一緒に退治しとった」


「すごーい!!でも、オシショウサマってなに?」


ウーさんのお話には、むずかしい言葉が多いです。


「ワシの先生のことじゃ。その人がワシに色んなことを教えてくれた。神力の使い方も」


その先生がいた時は、お祈りする人がいなくても、ウーさんはたくさん不思議な力が使えたみたい。


「その先生も神さまなんだよね?やっぱり、イノシシさんなの」


「いんや。人のお姿をしておった」


ウーさんが上を向いてブフーっとハナ息を吹くと、お空に写真みたいに絵がうかんできました。

まるでアイドルみたいに、すごくきれいな、男の人の絵でした。まっしろな服と刀を持っています。


「わあ〜、きれいな人だね〜」


「んじゃろ、ブシシ!!この霊糸で編んだ腹巻きも、お師匠様が作ってくれたんじゃ〜」


ウーさんはおなかをポンポン叩いて、とってもうれしそうでした。


「それで、この先生はどこにいるの?」


ウーさんはとたんに元気が無くなりました。


「…分からんのじゃ。ある日、突然、ワシの前からお姿が消えてしもた。」


ウーさんはとってもさびしそうで、私は胸がきゅんとなってしまいました。


「また、きっとウーさんのところに帰ってくるよ。」

私はウーさんのおなかに抱きついて、背中をなでてあげました。ふわふわの毛がモフモフとして、まるでぬいぐるみみたい。


「ほんに、カナちゃんはええ子じゃのう。もうちょっと待っとってくれ。カナちゃんのおかげで、だんだん神力(しんりき)が戻りよるとこじゃから」


シンリキがもどったら、お父さんとおじいちゃんを仲直りさせてくれると、ウーさんは約束してくれました。


「お母さんも帰ってくる?」


「おお。ワシにまかしとき。ブシシ!!」


「わ〜い、ウーさんだいすき」


私は、ウーさんのモフモフしたおなかに顔をくっつけて喜びました。


その時、お稲荷さんの鳥居から声がきこえました。


「誰かおるんか?」


私はウーさんのおなかからはなれて、階段をおりました。

そこには首に白いタオルをかけて、帽子をかぶった知らないおじさんが立っていました。


「見かけん子やな。どこの子や?」


「私、かなえです。速水のおじいちゃんのとこにいます」


「ああ、お孫さんか。大きゅうなったなあ」


おじさんは私の頭をなでました。


「さっき誰かとしゃべってなかったか?話し声が聞こえたけど」


「いえ。なにもしゃべってません」


私はウソをついた。ウーさんのことは、ふたりだけのひみつ。おじいちゃん、おばあちゃんにも言ってないから。


「ふうん、そうか。遊ぶんはええけど、ここの階段は急やから、気をつけるんやで」


「はい。わかりました」


おじさんは笑いながら手をふって、階段をおりていきました。


おじさんの姿が見えなくなると、私の後ろにふわりと風が吹きます。


「行ったよ、ウーさん」


「ありゃ、山口の坊主じゃの。しばらく見んうちに、ずいぶん歳をとったもんじゃ。よう、このお稲荷に来ては遊んどったわい。」


「ウーさんって、そんな昔からここにいるんだ」


「それもこれも、あのメギツネがワシをだまくらかしよったのが原因なんじゃ。」


ウーさんは、ブフーブフーとハナ息もあらく、怒っています。いったい、何があったのかな…。


それを聞こうとしたら、私のおなかがぐうと鳴りました。


「昼飯時じゃな。それを食べたら、また遊びに来るとええ」


「あ、今日は、お昼からおじいちゃんと買い物に行くの。だから、また明日」


「そか。気いつけて行くんやど〜」


ウーさんは私が階段をおりるまで、ずっと見おくってくれたのでした。



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