惑うピエロVS龍弥①
マリアが姿を消した事に気付いたと同時に、龍弥達は足元から拡がった影に飲み込まれた。
龍弥は闇の中で真奈達の気配も消えた事に気付いた。
(不味いな、真奈達の気配も消えたな)
暫くすると視界が晴れ、龍弥は砂漠のど真ん中に居た。
龍弥は冷静に自分の魔力を空気に溶かし、周りの情報を集めた。
(完全に砂漠だな、砂も本物だ。となると、ここは結界系の魔法の中か)
集めた情報から瞬時に状況を判断すると、次に術者を探した。
しかし、龍弥が探し始めるより先に、目の前の砂が盛り上がっていった。
その砂はみるみる人の形になり遂に砂を破り、男が姿を現した。
「・・・」
龍弥は静かに出てきた男を観察した。
男はボロボロの黒い外套を頭から深く被っていて顔は見えないが、身長は170cm前後で龍弥あまり変わらない。
龍弥は鑑定眼を男に発動した。
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NAMEータシオン
JOBー惑う師
LEVELー34
HPー1300
MPー800
STRー300
INTー250
AGIー500
SKILL
・誘術LV4
・幻魔法LV4
・小刀術LV4
・投擲LV5
ユニーク
・ペテン師LV3
TITLEー虐殺者
欺く者
遊戯の妖精の加護
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龍弥が男のステータスを覗いていると、男は突然外套を脱ぎ捨てた。
男の姿は奇妙なもので、全身がカラフルなピエロの格好をしていた。
龍弥が男を観察しているとピエロが口を開いた。
「やぁ!君がアルダビール王国の勇者だね?」
「・・・」
男の声は高く聞いているだけで嫌悪感を感じる様な声だった。
龍弥は静かに男を見ていると続けて言った。
「ボクの名前はタシオン!戦う前に一つ聞きたいんだ!いいかな?」
「なんだ?」
「キミはウィルブス?ホーネリック?どちらを信仰してるのかな?」
タシオンの言っているのはこの世界で広く信仰されている宗教の2つだ。
ウィルブスは主に邪神を信仰し特に魔族に信者が多い。
ホーネリックはこの世界の創造主と考えられている神を信仰していて、魔族以外での信者が多く人族が特に多い。
因みに龍弥が召喚時に会った女神ウェヌスとホーネリック教は全く関係のないものだ。
「それがこれから戦うのに関係あるか?」
龍弥は一応どちらの宗教の事も知っているが、特に興味もないのでタシオンの質問に持った疑問を聞いた。
「大有りだよ!ボクの信仰しているウィルブスでは同じ信仰者は肩を貸し、異教信者には情けをかけるな。っていう教えがあるんだ」
「どこが関係あるんだ?俺がウィルブス教の信者なら見逃してくれるのか?」
実は龍弥はタシオンのステータスを見た時点で微かな可能性だが戦闘を避けたいと思っていた。
その理由はタシオンのユニークスキルにあった。
タシオンのユニークスキルペテン師は龍弥がスキルの選択をした時、絞り込んだ候補の一つがこのスキルだった。
「そうゆう訳では無いけど殺さないであげるよ!それで、キミはウィルブス教かな?」
「・・・邪神か」
「うん、宗教に入ってないなら今からでも!」
戦闘の筈が何故か邪神を信仰する宗教への勧誘に龍弥は苦笑した。
「いや、そんなネーミングセンスの欠片も無い厨二神を信仰する気にはなれないな」
龍弥はわざとらしく手を上げ首を振った。
ブチィッ
途端、何かが切れる音がした。
そして俯いたタシオンの気配が急に強くなっていく。
「〜〜〜〜〜」
「なんか言ったか?」
ブツブツと何かを言っているタシオンにそう聞くと、ガバッと顔を上げて叫んだ。
「ぶっ殺す!」
タシオンは何処からか出した無数のナイフを龍弥に投擲した。
投擲されたナイフの先端には毒々しい紫色の液体が塗ってある。
龍弥は難なく避けるとタシオンに肉薄しその首に投擲されたナイフの一つをつかみ、突き刺した。
「ガフッ!」
タシオンは前に倒れこみ、口から血を滝のように流し動かなくなった。
龍弥はつまらなそうに見て言った。
「茶番はいら無い、さっさと立ち上がれ」
龍弥がそう言うとタシオンはサッと立ち上がった。
「キミは死人に酷いことを言うね〜」
死んでいたのならどれ程いい事か、龍弥はそう思いながら、ペテン師の内容を思い出していた。
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ペテン師
・自分自身に関わる運命の変数を偽る。(効果を解除、死亡時に偽ってきた全ての変数が解除される)
・自身のAGI、STRに補正(中)
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このペテン師のスキルはそれだけで反則級のスキルなのだ。
今の場合も自分にナイフが刺さったという運命の変数を0にした場合、それはなかった事にしたのだ。
それは死亡する事への変数も同じ事で、殆ど不死身と言っていい強力なスキルだ。
ただし、解除出来るのは一部でなく、これまでに偽ってきた全ての変数だ。
他にも龍弥はこのスキルの弱点を見つけていた。
その事を龍弥は塾考し貰うスキルの中から外した。
しかし、それを抜いてもペテン師のスキルは強力で、相手にしたくない事には変わらない。
「もう勝てない事は分かってるんじゃないかな〜?」
「大した自信だな」
「ん〜、自信と言うより、事実だよね!」
「同じ事だな」
「まぁ、いいや!ボクは一応国の任務で此処に来てるから、降参するなら殺さないであげるよ?」
「・・・」
龍弥は無言でタシオンの額にナイフを投げた。
刺さった筈のナイフはいつの間に地面に刺さっており、タシオンは詰まらなそうに言った。
「キミは詰まらないね。もういいや降参するまで嬲る事にするよ!」
そう言い地を蹴るタシオンに対し龍弥は再びナイフを投げた。
「そう簡単に当たるわけ無いだろ?」
タシオンは余裕を持ってそれを避ける。
龍弥に詰め寄ったタシオンはどこからかナイフにしては長いく変わった形、日本で言う小太刀を出し、斬りつけた。
龍弥は余裕を持って避けたが、避けた筈なのに胸には浅い切り傷があった。
(惑う師のスキルか、あの小太刀の長さの見た目を変えてるな。たが、もう長さは把握した、次はペテン師の弱点を突く)
龍弥が頭の中で作戦を考えている中、タシオンは龍弥への攻撃を休めない。
「そろそろ、やっちゃおうかな〜」
タシオンの言葉に疑問を持つ中いつの日か聞いた乾いた音が鳴った。
パンッ
龍弥は自身の膝に力が入らなくなり見ると、小指程の穴が空いていた。
再びタシオンを見ると、その手には銃剣が握られていた。
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