王国の勇者達
side アルダビール
長い廊下をコツコツと音を立て歩いている男がいた。
男は値の高そうなローブを羽織り顔に皺が少しあり、髪は後ろに纏めてポニーテールにした初老の男だ。
男は目的地であろう豪華な扉の前に着くと、一息しノックした。
コンコン
「入れ」
中からの声をかくにんすると男は扉を開け入った。
男の目に映るのはブクブクに肥えた体に、常に少し息が荒い一国の王とは思えない男だった。
「失礼します」
「ソレムか、奴らはどうなっている」
男はソレムと呼ばれモーブデブに一礼すると言った。
「黒の勇者、並びに元第1王女ヴァージェル、元第3王女イルは北上しています。おそらく迷宮都市に向かっていると思われます。」
「チッ、あそこは何処の国の権力も届かないな、着く前に仕留めろ」
「はッ!それともう一つ報告です。帝国の、動きが見られます」
「なにっ?あんなのが我が国の勇者だと公になるのは恥だ。一刻も早く消せッ!」
「はッ!」
ソレムは一礼して部屋を出た。
その顔には入る前より眉間に皺が見られた。
実はソレムは先代国王の元で宰相をしていた男で根も真っ直ぐで、先代国王にも大きな信頼を寄せられていた。
勿論、王女達とも子供の頃から自分の孫の様に可愛がっていた。
しかし、モーブデブの暗躍により先代国王が暗殺され、孤立していた2人を守ることで先代国王への忠誠を継続していたソレムには何も残っていなかった。
「くそッ!」
ソレムの声は廊下に溶けていった。
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アルダビール王国城内訓練場、そこに2人の人物がいた。
勇者として召喚された富塚、北村の2人だった。
2人は剣を構え向き合いお互いの隙を伺っていた。
2人の間には常人が立ち寄ることの出来ない歴戦の戦士が出す空気が流れていた。
2人は1週間という短い期間で王国の兵士では相手にならない高みへと登っていた。
富塚がフッと息を吐き、2人の姿が霞み、数回の金属音がすると北村が膝をついた。
「流石だな」
「いや、かおる君こそ流石だよ、ほら」
富塚は自分の鎧を指差すとそこには斬撃の跡があった。
2人は剣を仕舞うと訓練場を後にした。
城に入り2人は各々の向かう所へ向かった。
富塚は北村と別れると第2王女であるデスピスの所へ来ていた。
富塚はノックもせずに扉を開け入って行った。
「あら、コウキ様。訓練は終わったの?」
デスピスは持っていた本をテーブルに置くと富塚へ歩み寄った。
「あぁ、それよりアレはあったかい?」
「禁術の事を書いてある本はやっぱり立ち入り禁止の本棚にしか無いわ」
「そうか」
富塚が肩を落とすとデスピスが後ろから富塚の首に腕を絡ませた。
富塚は抵抗せずに俯いていた。
デスピスは気にせず富塚に顔を近づけて耳元で言った。
「それより今を楽しみましょ」
デスピスは少し息を上げていて顔は紅くなっていた。
富塚は諦めたようにデスピスを抱えるとベッドへ向かった。
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夜になり富塚は隣で寝ているデスピスを確認すると部屋を出た。
(スキル魅力が効き過ぎてしまっている、バレると大変だけど解除の方法がわからないな)
富塚は足音を殺しながら図書室へ向かっていた。
廊下は蝋燭が壁に掛かっているがそれでも暗く富塚は見回りの兵士のみに気を配っていた。
図書室前に着くと入り口に小さな影があった。
近づいて行くとその人物が誰か富塚は分かった。
図書室の司書である、ロイ・ラムナイトだった。
ロイには図書室に入るたびに会っていたので名前だけは知っていた。
「図書室はもうしまっているぞ?」
「少しの間でいい、使わせていただきたい」
富塚がそう言いロイが目を細めて暫くすると言った。
「ダメじゃな」
「?!何故だッ!」
断られると思っていなかった富塚は咄嗟に声を上げてしまった。
「すみません、それで何故ですか?夜だからですか?」
「いや、お主が立ち入り禁止の本の扉を開けようとしているからじゃよ」
「勇者なのに行けないのですか?真場も入っていたじゃないですか」
富塚は前に図書室へ来た時、龍弥が立ち入り禁止の扉を潜るのを見ていた。
それで同じ勇者である自分も入れるとばかり思っていたのだ。
「お主とあの小僧を一緒にするでない」
「勇者や魔王なんて優しい物じゃない」
「えっ?」
「いや、ないでもない。どっちにしろ彼奴とお主は違う」
富塚は聞き返したがロイは2人が違う物だという事しか言わなかった。
「お主もいつか入れる様になるかもしれん、生き抜くための鍛錬を積む事を考えておれ」
「くそッ」
富塚は小さく毒を吐くと自室へ戻っていった。
アルダビール王国城内の一室、そこに1人の少女と大量の本があった。
本の題名は『魔法属性の特徴』『魔力とは』など魔法に関するものばかりだ。
少女はひたすらに右から本を取り読んで左に積み重ねていく。
その読む速度は尋常ではなく殆ど捲っているも同然で第三者が居たとしても読んでいるとは思わないだろう。
少女は右から本を取ろうとして、手を伸ばすが何も掴めなかった。
右あるはずの本は既に全て左に積み重ねられていた。
少女は一息すると自分のステータスカードを取り出した。
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NAMEー時江 亜希
JOBー賢人
LEVELー3
HPー425 (150up)
MPー3000 (2200up)
STRー110 (10up)
INTー1150 (350up)
AGIー200 (50up)
SKILL
・土魔法LV5
・氷魔法LV1
・炎魔法LV1
・雷魔法LV1
・杖術LV5
・無魔法LV1
・速読LV6
・隠蔽LV6
ユニーク
・派生率LV5
EX
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TITLEー異世界人
賢い者
飢えた天使
手に入れた者
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少女・・・時江は自分のステータスカードを見て口を綻ばせた。
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