帰り
side龍弥
洞窟を出ると辺りは静かで空は琥珀色に染まっていた。
「さて、帰るか」
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街に着く頃には空は黒く染まり、街を囲む壁は高さ10メートルはあるため街の明かりは見えず、門は閉まっており検問用の小さな扉の脇に松明があるだけだ。
扉に近ずくと見張りの兵士が龍弥に気付き声をかけた。
「街に入るなら身分証明を」
「あぁ、これだ」
そう言って龍弥はギルドカードを提示する。
「依頼ご苦労だったな、通っていいぞ」
「ありがとう」
そのまま龍弥ギルドに行くのではなく城へ向かった。
(まずいな、かなり遅くなっている、部屋の鍵は閉めてあるから平気だと思うが)
龍弥は城から出た時の穴から庭に入り松明の明かりを利用し気休めの陽炎を使い壁を登り自分の部屋に戻った。
部屋の中に誰かが入った形跡があるか見渡す。
「一応誰も入ってないな。かなり汚れているし風呂に入るか」
この世界では風呂は金持ちが持つものだ、当然王城の客室にもあった。
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「ふ〜、バレずに済んだか」
風呂から出た龍弥は今日の事を振り返る。
(金は真奈、マリアを買うには十分だ、あとは裏通りとかで、足がつかないように宝を売るか)
トントンッ
部屋の扉がノックされる。
「タツミ様、夕食ですよ!」
どうやらイルが夕食で呼びに来てくれたらしい。
「着替えてるから待ってくれ、直ぐに行く」
「わかりました!」
龍弥は直ぐにたんすを開けて服を着る。
(ん?)
龍弥は掛けてあった自分の制服が少し乱れていることに気付く。
(明らかに誰かが来ているな、俺のことを探りに来たか?明日は宝を売ったらこの城を探るか)
龍弥は乱れている制服を整えると、着替えて部屋を出た。
「行きましょう、タツミ様!」
「あぁ」
イルと食堂に向おうとしたとき後ろから声がした。
「タ、タツミ!」
そこには少し頬を染めたヴァージェルがいた。
「ヴァージェルか、どうした?」
「ヴァージェルなんて・・・親しみを込めてジルと呼んでください。私はたまたまここを通ったので、夕食を知らせようと思ったのですわ」
「お姉様、顔が赤いようですが大丈夫ですか?」
「イル・・・居たのですね、大丈夫ですわ」
(一瞬顔が曇ったが催眠が効き過ぎたか?)
「では、お姉様も一緒に行きましょう!」
「えぇ」
ジルが頷くと龍弥達は食堂へ向かった。
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龍弥達が食堂に入ろうとすると前から来た見たことのある眼鏡君・・・富塚と鉢合わせた。
「やぁ真場君、君は訓練場で見なかったけどどうしたんだい?」
龍弥は今日、龍弥以外の勇者は訓練場で戦闘や魔法の訓練をしていたのでその事を言っているのだろうと思った。
「図書室で魔物の事や魔法の事を調べていた」
「おぉ、ステータスが低くて戦えないから僕達のために補助の知識を付けてるのかい?ありがとう!」
(この眼鏡君完全に浮かれてるな)
龍弥は富塚を無視して食堂に入ろうとしてすると肩を掴まれる。
「そこのお前?聞いているの?」
そこには龍弥と同じくらいの歳で赤い髪をして肩までの長さでポニーテールをした少女がいた。
「誰だ」
「だ、誰かですって?!私はこの国の第3王女デスピス・シーン・アルダビールですわ!」
「そうか」
そう言って龍弥は食堂に入ろうとするがデスピスが叱声を放つ。
「お前!この第2王女が質問しているのに無視をするの!?」
「なんだ?」
「ひっ」
龍弥が少し怒りを込めた声を出すとデスピスは悲鳴を上げた。
「真場君?何してr「タツミ様行きましょう?」・・・なんだ君は?」
「私はアルダビール国第1王女ヴァージェル・シーン・アルダビールですけれど、何ですか?」
「だ、第1王女・・・」
「タツミ様行きましょう」
「あぁ」
龍弥達が食堂に入って行くのを見ている富塚の瞳には嫉妬と怒りが宿っていた。
『僕が勇者だ。正しいのは僕だ。あいつ・・・真場龍弥は間違っている。僕が、僕が、僕が・・・・』
誰にも聞こえない富塚の声が小さく呟かれていた。
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食事は龍弥、イル、ジルの三人で行われ、富塚達は他のテーブルだった。
「タツミ様!今日はどこにいたのですか?」
「今日は部屋で寝てから城を見回っていた」
「そうですか、今日もタツミ様とお話しをしようと城の中を探していたのですけれど」
「たまたま会わなかったんだな」
「それなら仕方ないですね!明日はお話しをしてもらえますか?」
「午前は用事があるから、午後ならいいぞ」
「分かりました!庭の花畑で待ってますね?」
「あぁ」
イルはそう言うと嬉しそうに食事を続けた。
「タ、タツミ様、今日も私の部屋で『お話し』をして貰っていいですか?」
(『お話し』か)
「分かった、後で行く」
「ありがとうございます」
「お姉様、皆んなでお話ししましょう?その方がきっと楽しいですよ」
「イル、お前は明日だろ?」
「む、分かりました!明日、沢山お話ししましょうね!」
その後、話しながら食事は終わりお互い部屋に戻った。
龍弥は直ぐにジルの部屋へ向かった。
コンコンッ
「はい」
「俺だ」
「どうぞ」
龍弥は返事を確認し中に入る、中には昨日より薄い服を着たジルがベットの上に腰掛けていた。
「タツミ様・・・」
ジルの頬は既に薄く染まっており、うっとりしていた。
「その前に俺はお前のステータスを見たいが、いいか?」
「ステータス、ですか?いいですけど」
「ありがとう」
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NAMEーヴァージェル・シーン・アルダビール
JOBー虐殺者
LEVELー20
HPー1200
MPー1000
STRー200
INTー500
AGIー300
SKILL
・光魔法LV3
・魅了LV2
・刺剣術LV2
・二刀流LV2
ユニーク
・最狂の乙女LV1
TITLEー冷徹者
チェイサー
狂愛を持つ者
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(ユニークスキルるもあるしステータスも高いな、使えそうだし利用するか)
「ジル」
「は、はい」
「俺はイルとは関係なくこの国を出る。出来ればその時王に俺が勝手に城を出てギルドの依頼で呆気なく死んだと言って欲しい」
「え?タ、タツミ様はこの国を出て行くのですか?」
「あぁ」
「わ、私も連れて行ってください!」
「無理だな、お前はこの国の王女。しかも第一王女だ」
「そ、そんな地位要りません!」
ジルは子供の様に龍弥に言う。
(演技で無いとしたら催眠の効果は結構なものだな。あぁそうか、国の宮廷魔術師でもINTは300、俺のINTは900、ステータスの中では低くても、この世界では高いのか)
龍弥は催眠の効果の良さに納得し会話を続ける。
「俺の中でもジルはこの世界ではかけがえのない人物だが、この国は俺が邪魔なんだ」
「そ、そんな・・・分かりました、タツミ様が消えた日に父上にはそう伝えておきますわ」
「ありがとう」
(これで出た後は暫くは静かか)
「うぅ・・・タツミ様・・・」
「おいで、ジル」
ジルは静かに泣きながら龍弥の胸に抱き着く。
その後、ジルは「タツミ様・・タツミ様・・タツミ様」という声からだんだん嬌声に変わっていった。
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