【7】
「いただきます」
スイリュウに案内されてたどり着いたそこには、簡素な調理台、シンプルな木造のテーブルと椅子が四脚。日本でいうところのリビングダイニングだろうか。どっしりとした存在感の石窯もある。ピザでも焼けそうだ。
席についたさやかの前には、スープとパンが置かれていた。
「…」
いただきます、と手を合わせてみたが、目の前のものを頂いていいのかとさやかは悩む。
気後れは勿論あるが、何よりも。
(スープが苔色…)
ほうれん草のスープと判断するにはあまりにも濃い緑色。
失礼な例えをするならば、掃除前のプールのようだ。
ちらり、と他の2人を盗み見ると、レイは非常に優雅な動作でスープを口に運んでいた。
スイリュウの方はというとスプーンを持ったまま微動だにしない。
背中にちょこんとついている翼もしっぽもうなだれていた。
もしかして、しょんぼりしているのだろうか。
各々違う反応に困りながら、せっかく出されたものを無駄にするのも失礼だと思い、意を決してスープを一口含む。
「!!」
(こ、これは)
何ということだ。
これは驚愕せざるを得ない。
もう、それはそれは素晴らしく。
完璧なほどに。
(まずい!!!!!!!!!!!!!!!!)
もう一杯は全力で辞退します!という程に不味い。
何に驚いたかって?
この殺人的に不味いスープを淡々と食べているレイにだ。
二者択一はスイリュウが正解だったようである。
一体何をしたらこんな味になるのであろうか。見た目通りの青臭い草の味。青汁の方がまだましだと思うくらいにエグい。強烈な辛味に、じわじわと侵食する酸味。
水を下さいとは言いづらく、さやかは慌ててパンを一口ちぎって頬張る。
早く口の中の味を消したい!とばかりにパンを思い切り噛めば。
ゴリ、と鈍い音がした。
(固い!!!!!!!!!!!!!!!!)
これ一つで現代人の顎の細さは解消されます。
そんなキャッチコピーで売れそうな程、破滅的に固い。
自分の顎が軟弱なんだろうかと思ったが、スイリュウの口からもゴリゴリと音が響いている。パンを一口で食べきったスイリュウは、ぎゅっと目を瞑ってスープを一気に流し込んでいた。
「すまないが、先に失礼する」
驚いた事にスイリュウとほぼ同時に食べ終えたレイは、食器を片付け足早に戸口へと向かう。
ノブに手をかけ、ピタリと静止すると。
「手荒な真似をして悪かった」
消え入るような声を室内に残し、退室していった。
(手荒な真似…水辺での事だよね)
呆然と扉を見つめるさやかに、スイリュウはぽつりと呟いた。
「レイは命を狙われてたんだ。だから、過敏に反応しちゃうんだと思う」
そう言ったきり、スイリュウは口を閉ざしてしまう。
(命を狙われる…? )
どういう事なのかと聞きたい衝動も、スイリュウの沈黙に憚られる。
気軽に詮索していい内容ではなかった。