【6】
今自分の顔を鏡に映せば、酷い表情をしているに違いない。
それほど事実を受け止めきれずにいた。
気が動転していて気付かなかったが、窓の外は静かな闇が広がっている。
今、夜空を見上げる勇気はなかった。
「帰る方法は、あるんでしょうか」
否定されるのは怖いし、つらい。
けど、聞かないのはもっと怖かった。
憔悴しきったさやかに、レイは大きく息を吐く。
ゆるりと視線を合わせれば、何処か気遣わしげなレイの瞳とぶつかった。
「スイリュウに落とした場所を探させる。見つけ出せれば、元の世界に帰す方法がある」
「本当ですかっ!? 」
ぱっと顔を輝かせたさやかに、隣に座っていたスイリュウも目を細める。相も変わらず牙びっしりな口が薄く開き、何となく笑っているのかなと思う。
そんなスイリュウは、自身の胸を一つ大きく叩いた。
「任して! 頑張って見つける! できるだけ迷子にならないようにするよっ」
え、迷子?
希望がさしたさやかの胸に不穏な単語が引っかかる。
「…元々この指輪は迷子になりやすいスイリュウの為に作ったものだ」
「…」
微妙な沈黙が場を占める。
(うん。帰れない、訳じゃ、ない)
方法があるのならば、まだ最悪の状況ではない。
取り返しのつかないものでなければ、いくらでも挽回のチャンスはある。
さやかはそう思っていたし…知っていた。
誰よりもわかっていた。
(彰、必ず帰るから)
固く決意表明をした…まさにその時。
グゴゴゴゴゴ。
さやかの耳に地鳴りの様な音が響いて、場の沈黙はやぶられた。
「!? 」
慌てて辺りを見回す。
揺れを感じていないが、この世界特有の超常現象でもあるのだろうか。
異常事態はまだ続くのか。
焦るさやかに反して、対面に座っていたレイは静かに腰を上げた。
「…夕食にしよう」
パタリ、とドアの閉まる音がして数拍。
ブフッと右隣から音がした。
「レイ、お腹の音大き過ぎ」