【43】
「一緒に来ないのか? 」
「…どうして? 」
どうして、そんな残酷な事を聞くのだろう。
「アキラはお前の元を離れたのだろう」
「それでも私には仕事があるし。この世界での、生活があるの。危険な目に合うのも沢山」
最もらしい理由をつけて、真意を奥の奥の深くまで隠した。
イノリを一番に想うレイの側になんて居られない。
レイの幸せを誰よりも願いながら、その幸せが他の存在で形作られるのを目にするのは、身が切られる程つらい。
ほんの僅かな可能性にかけたら…希望を持ってしまった後の反動が怖い。
(私は何処までも臆病だ)
真摯なレイの瞳がさやかを貫いて、たまらず視線を逸らした。
沈黙が、重い。
レイの溜息が落ち、手が、離れた。
再び、夢が終わるのだ。
口唇を噛み締め、きゅっと上がったさやかの頬が。
ふわり、と包まれる。
「俺のせいで、怖い想いをさせてすまなかった…もう二度と危険な目に合わせないと誓う」
鼻先が触れるほど近いレイの表情は、見えない。
「必ず、俺が守る」
あぁ、レイは私を殺しに来たのだ。
私の想いにトドメを刺しに来た。
『弱者は弱みになる』
イノリの言葉が、頭に響いた。
レイに、守られる存在はいてはいけないのだ。
「レイの隣には、イノリさんみたいな…強い人しかいられないよ」
もし、魔法が使えたら。
もし、レイを守る力があったなら。
迷わず一緒に行けたのに。
弱いから…レイの側に居る資格がない。
自分がが捕まって、自分が死んで。
…レイが自分を責めるのが何より辛い。
頬を包んでいる両手に、自分の手を重ねた。
残酷な神様は、この心が叩きのめされるまで許さない。
さやかは、覚悟を決めた。




