表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/46

【23】

「初めまして、イノリ・プレイヤです」


にこやかに右手を差し出され、さやかは息を飲みながらその手を握り返した。


「初めまして、サヤカ・ササキと申します。本日はよろしくお願いします」


ぎこちない笑みを浮かべながら、さやかは自己紹介した。この緊張を目の前の人物に気づかれないといいのだけど、と一抹の不安がよぎる。

素敵な女性だと想像していたイノリは、実際目を見張るほどの美人だった。さやか自身の予想など大きく裏切っているほどに。

プラチナブロンドの髪は丁寧に編み込まれ、きっちりとまとまっている。髪と同色の睫毛はライトブルーの大きな瞳を色っぽく縁取り、笑みを浮かべた唇は艷やかだ。

スラリとした長身は白のかっちりとした衣服に包まれ、左胸元には紋章がキラリと光っていた。騎士団の制服なのかもしれない。

イノリは僅かに眉を下げながら、微苦笑をもらした。


「こちらこそ。午後から職務がある為このような堅苦しい格好で失礼します」

「いえ。お忙しい中すみません」

「とんでもない。私も今日は楽しみにしていたのですから」


形の良い唇がさやかの右手にそっと触れる。何だか新しい世界が開けてしまいそう。宝塚にはまる世の女性達の気持ちが少し分かった気がした。


「服もとても良く似合ってますね。可愛いですよ」

「あ、ありがとうございます。成人した身としては似合ってるかどうか不安なんですが… 」

「十八才でしたか」

「いえ…二十三です」

「それは失礼しました」


僅かな驚きに留めたイノリは、よく出来た大人の女性だ。自分も少し見習わないといけない。

はぁ、と溜息が聞こえて、無意識の内に出てしまったのかと思えば。

少し離れた場所でトルコが肩を落としていた。


「いいなぁー、イノリ。さやかとデートできるなんて」

「ふふ、羨ましいでしょう。君も長時間変体できるようになればいいんだよ」

「うぅ…出来ないって分かってるくせに」


しょぼくれるトルコに、さやかは慌てて駆け寄った。


「ごめんねトルコ。ちゃんとお土産買ってくるから」

「約束だよ? …じゃあ、俺帰るから」

「ここまでありがとう」


今居るのは、首都トウキに程近い街道を少しそれた場所――街道から森を一つ挟んだ草原だった。タマー平原というのだそうだ。

牧歌的な風景が広がっており、遠くの方に見えるのは鹿だろうか。さやかは野生の鹿を生まれて初めて見た。

どうして少し離れた場所かというと、トルコが街中に入ると大騒ぎになるらしい。

遁甲したトルコが先に辿り着き、指針を示して転送されたさやかを導いたのだという。

元の世界に帰る時も同じ原理で行うそうだ。


レイの名前を口にして、トルコの姿は掻き消えた。


「さて、それでは向かうとしましょうか」

「はい」


イノリは数歩移動し、木に括りつけていた手綱を掴む。おとぎ話に出てくるような白馬が繋がれていた。パンの入った籠を荷袋に詰めた後軽やかな動作で跨ると、馬上からさやかに手が差し出された。

ごくり、と唾を飲み込んで、緊張した面持ちで馬に近づく。思いの外強い力に引っ張りあげられて、瞬く間に視界は高くなった。


「ゆっくりと進みますが、落ちないようにしっかりと鬣を掴んでいて下さい」

「わかりました」


ごめんねと小さく口にし、ぎゅっと鬣を握る。しっかり掴んだのを確認したイノリは、さやかの身体を包み込む。長い足が馬の腹を軽く挟むと、緩やかな振動が伝わり始めた。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ