【20】
「もうっもう駄目だぁあああ。俺は出来損ないの役立たずなんだぁあ」
さやかが異世界来訪を遂げて早十日。
その間毎日毎日元の世界を探してくれていたトルコだったが、色よい成果は上げられなかった。
連続失敗に心折れたトルコは、わんわんと泣き濡れた。水竜が泣けば床には見事な水たまりの完成である。
さやかは慌ててトルコを慰めた。
「無理しなくてもいいよトルコ! 今日は探索お休みしてもいいから! ね? 」
「…ほんと!? 」
さっきまであんなに号泣していたじゃないか!と叫びたい程、トルコはぱっと瞳を輝かせた。
「じゃあ、今日は一日遊ぼう! 絶好の行楽日和だしねっ」
是非を問う間もなくさやかを引きずり、トルコは勢い良く駈け出した。
※
「…どうして俺まで」
「いいじゃんいいじゃん、今回はレイが居ないと意味ないんだってば」
一行が訪れたのは、サガミン湖湖畔。行楽と呼ぶにはいささか近すぎると思うのだが。
「どういう事だ」
「それはねー…レイに水で滑り台を作って欲しいからでーす! 」
じゃじゃーんとばかりにトルコが発表すれば、場に微妙な空気が流れた。
「そんなもの作ってどうする」
「愚問だよ! 滑って遊ぶに決まってるじゃないかっ 」
「…下らない、帰る」
「あぁあ待って待ってー! さやかもやってみたいよね? ねっ? 」
「はっ? 」
急にふらないで欲しい。意味もわからずお弁当を要求され、水に濡れてもいい格好なんて指定まで受ければ、薄々予感はしていたけども。
(レイが作るということは、物凄く長いウォータースライダーで遊べるのか)
…どうしよう、ちょっと心惹かれるではないか。
「やって、みたいかも」
「ほらほらほらー! ここで断れば男がすたるね! いやいやレイがすたるよ! 」
「…」
ちょっとプレゼンが下手過ぎやしませんか、水竜さん。
レイの眉間はグランドキャニオンも真っ青ですよ。
さやかの憂いはよそに、トルコはさぁ!さぁと囃し立てる。
レイは今日も絶好調で幸せを一つ手放し、手を振り上げた。
「うわぁ…! 」
キラキラと光を反射しながら、湖面から勢い良く水が吹き上げた。龍のようにくねり、空へと飛翔していく。
右に左にカーブを作り上げ、それはそれは見事なウォータースライダーが出来上がった。
「準備はいいか」
さやかが頷くと、新たに伸びた一本がさやかを捉えた。
…今度は、壊れ物を扱うようにそっと。
※
木陰で読書を楽しんでいたレイに、一際深い影が堕ちた。
「レイも一緒にやろうよ」
満面の笑みを浮かべながら、さやかはレイを覗き込む。
「俺はいい」
トルコとさやかはこれでもかという位滑り倒し、全長百メートルはあろうかという超巨大スライダーを全力で楽しんだ。
トルコは魚介類を採ると意気込んで、湖に潜っていった。
「楽しいのになぁ」
「…楽しんでもらえれば、それで十分だ」
艶然と微笑むレイは、さやかの心をいとも容易く射抜く。
覗き込んだまま身動き一つ出来なくなったさやかは、その瞬間もはっきりと目にしていた。
レイの身体に水が巻き付く瞬間を。




