【17】
ベッドに他の気配がないと気付いて辺りを見渡せば、レイはソファで静かな寝息をたてていた。
眠れたのだ、という安心感と、窮屈そうな姿に申し訳なくなった。
ソファからはみ出している足まで、新しいシーツをそっと掛けた。
※
「おはようトルコ」
「おはよーさやか。あれあれ~、さやか目に隈があるよ。寝不足になるような事でもあった? 」
「ううん、別に」
「…どうしたの? 」
訝しげな表情を浮かべるトルコに、なんでもないよと返す。いつもなら食ってかかるのに、流したのがいけなかっただろうか。トルコが聡いのか、さやかがあからさまなのか…ふるりと一度頭を振って気持ちを切り換えた。
「ほんとになんでもないからっ! 今日お天気悪いじゃない? ちょっと憂鬱になっちゃって」
「あー確かに。雨降らないといいねぇ」
洗濯物乾かなくなっちゃうしね、と相槌を打ちながら、さやかは朝のお茶を用意する。この世界に朝食という概念はなく、朝は温かい飲み物を飲んで身体を起こすそうだ。
青い魔石がはめ込まれた食材庫――地球で言うところの冷蔵庫を開けて、牛乳を取り出した。
今日は濃厚なミルクティーにする予定だ。
「不思議に思ってたんだけど、トルコは何でも食べられるの? 」
「おうともよー。好き嫌いない優等生だよ? 逆にレイは有り過ぎて困るんだ」
「そうなんだ」
「うんうん。魚介類全般食べないし、キノコも嫌い。好きな食べ物はカレーとハンバーグ」
お子様かっての!というトルコの突っ込みに、さやかは小さく吹き出した。
そんなさやかに、水竜は目を細めながら、
「ふふ、それそれ」
「うん? 」
「さやかは笑顔が一番可愛いよ。食べちゃいたいくらい」
「何それ。トルコが言うと洒落にならないんだけど」
「あはは、確かに? 」
二人でひとしきり笑い合うと、トルコはご馳走様と立ち上がった。
「さて、そろそろ探しに行くかな。洗濯物は後干すだけだから」
「分かった。無理しないでね」
これってアツアツ夫婦みたいだよねーなどと軽口を叩きながら、今日もトルコは時空の海へと旅立っていった。




