シリアスな展開からはじまる一日目
「はぁはぁ…。」
暗い夜道の中、俺は複雑な構造になっている街を必死に駆けていた。傍にいる妹を引っ張りながらも。妹はもう息を切らしていてとても走れるような状況じゃなかった。けれど、それでも走る。後ろから迫ってくるガシャガシャと鈍い金属音をたてて俺達を追いかけてくる死の恐怖から。誰だって死ぬのは怖い。それはまだ齢九歳のおれでも七歳の妹にもわかることだ。だから必死に走った。死神に捕まらないために。複雑な道を走る。走る。走る。隠れる。そうでもしないとさすがに倒れてしまう。倒れたらもともこもないのだから。俺は隠れてる間、妹を励ました。
「大丈夫だよ。兄ちゃんがちゃんと守るから。」
「う、うん…。」
妹の顔は疲労と恐怖でとても震えていた。すると遠くから声が聞こえた。
「おい!あそこだ!あそこに隠れてるぞ!」
その声とともにまた鈍い金属音がこちらに近づいてくる。内心に悪態をつきながら俺は妹をひっぱる。
「リーナ!走るぞ!」
「う、うん!」
俺達は走った。だが、妹はもう限界が来たのだろう、途中の道端でツマづいてこけた。その時、その一瞬に追いつけず妹から手を離してしまった。
「リーナ!」
俺は即座に振り返り妹の元まで戻ろうとする。が、妹はそれを拒むように首を横に振り叫んだ。
「お兄ちゃんだけでも逃げて!」
それが精一杯の叫びだったのだろう。妹はそのまま地面に伏せてしまった。その後、後ろから来た帝国兵に妹は捕まった。俺はしばらくその場に立ち止まってしまった。目の前で妹は帝国兵に髪を捕まれ顔を上げさせられる。
「う、うぅ…。」
「ったく。とんだ手間かけさせやがって。とっとと捕まってればさっさと楽になれたのにな〜。」
そうして一人の帝国兵が剣を抜く。そしてたからかに剣をあげるとなんの躊躇もなく振りおろした。
「リーナ!!」
俺は伏せていた顔を思っいきりあげた。と、同時にスパーンととてもいい音が聞こえた。とゆーか頭痛い。
「なにするんですか、先生。」
「なにをするんですか?じゃねぇよ、誰が授業中に居眠りしてんだよ。」
目の前にはここ、アレーザ剣士育成学院の二の剣組を担当するポル先もといポルーク先生がいた。ちなみにさっきの音の正体はポル先が持ってる教科書で俺の頭を叩いた音だ。
「お前は一体なにしにこの学院に来てるんだ?」
「睡眠学習。」
スパーン。またいい音がなったな。
「先生。」
「なんだ?」
「痛いです。」
「当たり前だろ、痛くないと意味が無いからな。」
「んじゃ、おやすみ。」
そして俺はまた机に顔を伏せる。すると、ポル先は諦めたのか踵を返して教卓へと戻る。途中、こちらに振り返った。
「あぁ、もう知らんぞ。寝るのは別に構わんが妹の名前を大声で呼ぶなよ。お前が重度のシスコンということはここ二週間でわかったからな。それと午後の実技授業はちゃんとこいよ。」
そう言い終えると再び踵を返して教卓へと戻った。そんなポル先の言葉を聞いてまわりの生徒たちがどっと笑い始める。
「はーい、静かにしろー。授業はじめるぞー。」
そうポル先が注意をうながすと一部の生徒は「うぃ。」といいながら授業を再開させる。
(全く、とんだ悪夢を見たものだ。)
俺は机に顔を伏せながらさっき見た夢に冷や汗をかく。
「なんで今更…。」
俺は誰にも聞こえない程度にボソッと言った。
☆
「よーし、今から実技授業をはじめるぞー。それぞれ剣は持ったか?」
あれからあっという間に時間が過ぎて昼休憩が終わった後。二の剣組は実技場に集まっていた。実技場はこの学園の全校生徒千人をらくらく余裕で入ることはできるぐらい広い。つまり、俺たち一クラス百人だけが実技場に入ればそうとう広い。
「じゃあ、各自自由に練習しろ。二十分後にそれぞれ一対一をやるからそれまでにはウォーミングアップは終わらせとけよ。」
「「「「はーい」」」」
それぞれ生徒が気だるそうに返事をする。その反応にポル先は「まったく…。」と溜め息をつく。
「あぁ、それとライ・シュバルツ。お前の持ってるそれはなんだ?」
と、そこでポル先は俺の持ってる物に指をさして聞いてきたので俺はこう答えよう。
「剣ですがなにか?」
「剣ですがなにか?じゃねえ!!!」
そこでポル先は手に持っていた剣をおもいっきり振りかぶった。
「まって!先生、それは洒落にならない!」
俺は咄嗟に弁明する。
「いやだって、これしかなかったんですよ!許してくださいよ!」
「は?そんなわけ…。」
俺がそういうとポル先は目線を実技場の隅にある道具箱に目をやる。
「?本当だな。」
「でしょ!?」
そこでポル先が首を傾げる。
「しかしおかしいな。ちゃんと全員分持ってきた筈なんだが。」
そう困っているところにクラスの中でも一番タチの悪いというか悪い噂しかない。グラウ・ディオスが前に出てきた。
「お前みたいな雑魚にはこれで充分だろ。」
そう言って俺の目の前に太い木の棒を投げつけた。
「いや、流石にこれじゃ無理だろ。」
といいつつ手に持っていた細い木の棒と交換した。俺は知っている、グラウはほんとは優しいやつだということを。
「ざまぁねぇな。」
そう言って俺を一瞥してそこから立ち去った。
「まったく、困ったものだな。ライ、これ貸してやる。」
とポル先は自分の持っていた剣を俺に渡す。
「いいんですか?自分なんかに先生の愛剣を渡しても。折りますよ?」
「折るな!つかわかってるならなおさら折るな!」
そして周りの生徒たちが笑い出す。これがライ・シュバルツの日常生活だった。ポル先が新しく剣を取りに行ったのを見て隣にいた美少女もといラナ・ルイーガことラナが話しかけてきた。
「大丈夫?」
「ん?なにがだ?」
「今日のライ、変だよ?」
「ふぁっ!?」
「あ、ごめん。いつものライだった。」
「ちょっとそれは失礼じゃーないですかね?ラナさん。」
「ううん、私の見間違いならいいんだけど…。そんなことより一緒にウォーミングアップしよ!」
ラナは笑顔で俺を引きずりだす。その笑顔に一瞬見惚れそうになり首を振る。
「どうしたの?」
「いや、なんでもねぇ。」
俺は慌てて誤魔化す。なにしろ相手は学園の三大美少女のうちの一人といわれているくらいなのだから。顔は有名な彫刻家が作ったんじゃないかってぐらい整っている。その目はエメラルドグリーンの色をしておりとても綺麗だった。髪は茶髪でセミロング。それがまたラナの可愛さを引き出していた。前髪には星の形をしたヘアピンをつけていてよく似合っていた。体型だって女性なら誰しも憧れるようなモデル体型だ。それゆえ男子からの注目の的でもあり、なかにはこっそりファンクラブなんかも作れられたりしているときく。
「さて、ちゃちゃっと体を暖めておきますか。」
季節は春。まだ、若干寒いので適度に体を動かしておかないと鈍る。なので俺はポル先の愛剣を構えラナに言う。
「じゃ、はじめるか。」
「ふふ、それでこそライだよ。」
同じく剣を構えたラナがにこりと微笑む。そして、俺とラナはウォーミングアップを始めた。
がんばろう!o(・д´・+)ゞ頑張リマッス♪