帝国奇襲!
そんなこんなで昼食を食べ終えてさっさとラッフ亭から出た後。俺とアリシアは商店街やらなんやらに足を運んでいると日はすっかり傾いていつの間にか夕暮れ時になっていた。場所は変わって俺達は広い草原に来ていた。この草原には性格が温厚なモンスター達の憩いの場でよくラピットというウサギ型のモンスターやキャルールというフェレットによく似たモンスターがよく日向ぼっこしていたりする。ちなみにチロはハッピーキャットという幸運を呼ぶ猫とても稀少なモンスターだ。そんな稀少なチロが何故俺らになついているかというとそれはチロの気まぐれである。ある日突然俺たちの目の前に現れて住みついたのだ。そんな草原に二人の男女が並んで夕日を見てる姿はまるで初々しいカップルを連想させる。
「ね、ねぇ…」
「なんでしょうか?アリシアお嬢様」
「あ、アリシアって呼んで!」
「心の中ではそう呼んでおきましょう」
「むぅー!」
頬を膨れさせるアリシア。
「じゃ、じゃあ…」
「?」
「私の…」
何かを伝えようとするアリシアの言葉を俺は遮り押し倒した。次の瞬間、俺の背中に何かがかすめた。その数秒後に爆発音に似た音が遠くで鳴り響いた。その音に驚きアリシアは耳を塞ぐ。
「誰だ…」
俺はいまさっきまで殺気が放たれていた場所を見上げる。そこには鎧でガッチガチに固めた騎士が五人立っていた。そのうちの一人が何かをこちらに構えていた。その武器には見覚えがあった。
「砲投機 小遠、帝国兵か…。でも、なんでこんなところに…」
未だ俺の腕の中で怯えているアリシア。そして、奴のその銃口は完全にアリシアに向けられていた。殺気も俺ではなく全てアリシアに放っていたものだ。
(こいつはガチ目にやばいよな。さて、どうするか…)
俺は今できる最善策を考える。場所は街から少し離れた草原。さっきの音は街まできこえているだろう。けど、いまは商店街が騒がしくなる時間帯だ。聞こえてるとは思えない。いや、そう考えるべきか。
奴らの狙いはアリシア。つまりこの国の女神。奴らは、帝国はこの国を落とすのが目的か…?だとしたら戦争モノだ。
(くそ、あの魔女め何を考えてやがる…!)
この国を統べるのが女神様なら、帝国を今統べているのは魔女。魔女なんて存在は周りの普通と比べて線が一つぶっ飛んでるようなやつだ。何を考えてるかなんてわかりはしない。よって思考切断。今は目の前にいる敵だけに集中。敵数五、武器は小遠が一人、大盾が一人、双剣が一人、槍が一人、そして最後に剣が一人。大盾の騎士は小遠の騎士の前にたっていて完全に小遠をガードしていた。残りの三人は悠々とアリシアに近づいてきている。話し合いは無理だろう。なら、実力行使しかないわけだ。
「ふぇぇ…」
アリシアは泣いていた。恐らく自分が狙われていることがそして、数的に俺ではあいつらに勝てないと、逃げられないと本能でわかったのだろう。そして、俺の服を掴む。その弱々しく細い手で…。その時、俺の心臓が脈を打った。
(久々の感覚だな…)
思考が研ぎ澄まされ世界がスローで動いているようなこの感覚。風の音から呼吸の音、筋肉の動きや血流の流れに関してまで全てがライには見えていた。槍を持った騎士が駆けた。ライは動かない。アリシアは泣きじゃくる。ものの数秒で槍騎士とライとの差は無くなりその一撃を俺ではなく的確にアリシア狙って放った。が、その攻撃は当たることなく空を切った。
「!?」
槍騎士は驚きはしたがその後の反応は早かった。一瞬で判断して後ろに飛び退いたのだ。そして、目の前の敵へと目を向ける。そこには、執事服の青年が立っていた。ターゲットである女神という存在を片手で抱き抱えて。そして、もう片方には帯剣なんてしていた様子はどこにもなかったのにいつの間にか漆黒の剣が握られていた。その剣線には禍々しい紅い線が伸びていた。その姿を見て五人の帝国兵は恐怖を感じた。本能が叫んでいる、「逃げろ」と。あれと戦えば確実に自分たちが死ぬと。
「今ならまだ見逃してやる、三秒で決めろ。死か生か…。」
ライは彼らに最初で最後の忠告をする。左手にアリシアを抱き抱えて。三秒が経った。そして、彼らは死を選んだ。彼らは帝国兵の中でも群を抜くエリート達だ。早々簡単に諦めれるわけが無い。数もこちらが有利だと言わんばかりにこちらににじり寄ってる。ライは一度深く息を吐く。
「それが答えか」
もはや言葉を不要とばかりに大盾の騎士に守られていた小遠の騎士が今度は確実にライに向けてその玉を撃った。だが、その玉がライに当たることはなかった。なぜなら…。
「ハズレだ」
そこにライの姿はなく、後ろから声がした。その声に小遠の騎士は振り返り目を驚愕に見開いた。次の瞬間、まるで鎧がなかったかのように漆黒の剣が禍々しい紅い光を放ちながらその体を斬った。
「かハッ!」
斬られた小遠の騎士は倒れたまま動かなくなった。仲間の声で敵が後ろにいることにやっと気づいた大盾の騎士は瞬時にその盾をライに向けて自分を守ろうとしたが遅かった。一瞬でそのままライに小遠の騎士と同じように斬られて大盾の騎士はガシャンと大きな音をたてて倒れた。
(残り三人…)
ライは敵を見据える。一気にしかもほんの数秒で二人も殺られたことにさすがに驚きを隠せずにいた。それでも彼らは怯むことはなかったリーダー格である剣の騎士が仕草で槍騎士と双剣の騎士に指示を出し瞬時に動いた。それぞれ三方向に別れての同時攻撃。シンプルだがこれが一番の最善策。最初に斬りかかったのは双剣の騎士。その二つの剣をクロスさせてライを襲う。しかし、それはあっさりとライの剣に弾かれる。しかも、その重たい一撃に耐えれず勢いのまま双剣の騎士は後ろに吹っ飛んだ。が、間髪入れずに槍騎士が一閃。ライはそれを蹴りで弾いた。槍騎士は体勢を崩しそのまま転びそうになったところをライは容赦なく一太刀浴びせた。そんな槍騎士がやられたにも関わらず剣の騎士が隙のできたライに、ではなくアリシアに斬りかかる。勝ったと言わんばかりに兜の奥では口が笑っていた。が、その行動を読んでいたライに悠々とかわされた。大振りの斬り方のため隙が大きく生じたところをライが剣の騎士の心臓にティルを刺した。鎧を貫通して自分に突き刺さる漆黒の剣を見て剣の騎士は意識を失った。ライはそれを確認してティルを引き抜く。リーダー格である剣の騎士がやられたところを見た双剣の騎士は見た。漆黒の剣を手に近づいてくる青年を。その姿は死神だった紅く禍々しい光を放つ剣を高々と掲げ、それを容赦なく振りおろした。最後に双剣の騎士は彼の瞳に気づいた。戦う前までは青色だったその瞳はいつの間にか紅色に染まっていたのに。まるでそれは、本物の死神のように…。それを最後に双剣の騎士の意識は途切れた。