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最終話 被害を受けた俺から見た二人について。

「好きです、付き合ってください」


 ひねりもなんにもない真っ直ぐな言葉で、朝の恒例となった掃除を終えた黒宮に体当たりした。

 こんなこっぱずかしい言葉なんて生まれたはじめて言ったんだから、心臓は今までにないほどバクバクいって煩いし、顔にかあっと熱が集まって真っ赤になっているのもわかってる。かっこよく決めたいって思ってても、ほんと無理。気障に決めたり堂々と話すなんて俺には到底できないから、これが俺の精一杯だ。


「……ええっ!? どうして私なの?」


 黒宮は心底驚いたように目を見開いて俺を見ている。

 ……うん、わかってたけどさ。黒宮が俺のことを何とも思ってないってさ。

 それにちょっと考えれば、今言う言葉じゃなかったっていうものわかってる。

 だから驚きすぎて手に持っている生ごみを俺に向かて放り投げるのはやめてくれ。


「あっ! ごめんっっ!!」

「……もういいけどさ」


 制服にぶちまけたゴミをポケットから取り出したハンカチタオルで拭いてくれるのはいいんだが、どうみてもそれ、制服にゴミを擦り付けているから! つか、力が強えよ。拭いてるんじゃなくて制服にゴミを押し込んでるよ!!


「あああっっ!! ごめんっ!」

「……うん、だからな、もうな、止めようか。その手、動かすなや」


 これ以上被害を被らないように、黒宮の手を俺が掴んだとしてもそれは不可抗力というものだ。

 まさかそれを廊下からガン見している奴がいるなんてわかるわけない。


「ええええっと、制服、脱ぐ?」

「ああ、そうだな。臭えもんな」


 カバンの中にはこちらもある意味異臭を放っているユニホームが入っている。

 どちらの異臭をとるか、それが問題だ。

 いやいや、そんな問題、モーマンタイ。

 汗臭さと生ごみの匂い、どっちがすき?

 思わず有名なショコラCM(※)のセリフを変えてみたりもしたよ。

 そんなの決まりきっている。

 俺は生ごみの臭いが好きな変態じゃねえ!

 汗くさいのが好きはわけでもねえ。

 できれば両方ご遠慮申し上げたいところだが致し方ない。

 俺は臭いも色もえげつないことになっている制服をさっさと脱いで、カバンの中でくしゃくしゃになっているユニフォームに着替えようと黒宮の後ろに置いてある鞄を取ろうとした。


 記憶にあるのはここまでだ。






「すまん、彭城」


 いやなんでお前がいるよ。

 目の前には可愛い可愛い可愛いい黒宮ではなく、世間一般では綺麗かっこいい素敵と言われている天ヶ瀬がいる。

 いつも流している髪が天ヶ瀬の顔を隠しているが、それでもその声色でものすごく何かに反省をしているのがわかる、が。

 いったい何に反省を?

 つか、俺は何で保健室のベッドで寝てるんだ?


「横腹、痛くないか?」


 恐る恐る聞いてくる天ヶ瀬があまりにもいつもと違って、俺は眉を潜めた。

 横腹……痛くないかって?

 そう言われたら途端に激痛が、走る。


「っ……ってえ!! なんだこれっ!?」

「すまんっ! 本当にすまん!!」


 天ヶ瀬は土下座しそうな勢いで謝罪した。


 要はこうだ。

 天ヶ瀬が教室に入ろうとしたとき、丁度俺が黒宮の手を放して服を脱ぎ始めた、そして黒宮を抱きしめようと体を前に倒した……という風に見えたそうだ。

 天ヶ瀬曰く、俺にはすでに警告をした、今度下手のことしたら問答無用で襲うと。

 いやいやいやいや、天ヶ瀬さん。それおかしいから。

 つか、手を握ったところ見たんだったらそのあとの言葉もちゃんと聞いとけよ。

 つか、臭いでわかれよ。臭かっただろうよ、教室がよ。

 ところがそんなことはまーったく目に見えず鼻に臭わなかった天ヶ瀬は、黒宮が襲われている!と勘違いをしたおして扉から一気に俺に向かって走りこんでの跳び蹴りをかましたそうだ。

 ……よく俺くたばらなかったな……。

 その代りばたんきゅーと床に倒れこんだところを、黒宮が天ヶ瀬の顔をひっぱたいた!……らしい。

 うん、見たかったわそれ。

 天ヶ瀬は黒宮を助けたはずなのになぜか涙をためて怒っている黒宮を見て、何かが違うと理解した。そして、そうしてやっとのことでお馬鹿な鼻が臭いを嗅いだらしい。馬鹿すぎる。

 慌てて俺を担いで職員室に行って保健室の鍵を貰い、職員室を大騒ぎにした後保健室に俺を連れてきて寝かせたらしい。

 うん、馬鹿。

 なぜそこで俺を担いで職員室に行く?

 そりゃあ先生もびっくりするだろうよ。

 保健室に連れてきた後は、製氷機から氷を取り出して俺の腹にあてていたらしいが、お前本当に女かよ。俺の裸姿みても動じないとか、いくら同じくらいの身長だからといって体格は違うんだから俺のほうが重いっつーのに担ぐとか。ありえねえ。

 もちろんその間、可愛い黒宮は天ヶ瀬の後についていたらしいが、授業が始まったので教室に戻ったそうだ。

 まあそれは仕方がない。

 ぶちまけた生ごみも回収しなおさないといけないしなあ。

 でも俺としては天ヶ瀬よりも黒宮がここにいてくれたほうが痛みが少なかったような気がする。


「幹から聞いたよ。本当にすまん。明らかに私の勘違いだった」

「いやもういいから。お前もさっさと教室に戻れよ」

「そんなわけにはいかん。私のせいで怪我を負ったのだから私が看病しなくてどうする」


 うん、いらねえから。

 そんな気遣いはいらねえから、どっかにいってくれ。


「……そうか。じゃあ後から飲み物でも持ってくる。せめてそれくらいは受け取ってくれ」


 しゅんとした天ヶ瀬なんて滅多に見れるもんじゃないが、見たら見たで嫌な気持ちになるもんだ。

 勝手な間違いで腹を蹴られたのは許せないが、まあ死ぬもんじゃないし。たとえ有段者だとしても女にキックかまされて意識失うってどうよ、だし。


「それと、昨日のあの言葉、撤回するから」

「……は?」

「彭城は、ヘタレじゃない。……だから、」

「……は?」

「だから、幹と付き合うなら付き合ってもいい」

「……はあ?」

「……っ! そういうことだ! じゃあな」


 なにその捨て台詞。

 意味わかんねえ。

 それにお前に許可なんてもらう必要なんてねえよ!


 追いかけようにも腹が痛くて動けないし、どうしようもないから不貞寝した。




 で、どうなったかって?


 俺の一世一代の告白は、黒宮には綺麗にスルーされていた。

 というか、忘れられていた。そのあとの騒ぎのせいで。

 そのかわり、なぜか黒宮と天ヶ瀬と俺とでつるむようになった。

 世間では俺が無理やり二人の関係に入り込んだんだと思われている。

 んなわけねえ。

 んなわけねえ、が。


「ほら、彭城。顔にお弁当がついているぞ。とってやる」

「遠慮するから」

「彭城君。こっちの卵焼き、甘いよ? 食べる?」

「食べる食べる」

「私のは出汁まきだぞ。食べ比べたらどうだ」

「甘いやつ食べた後に食べれねえよ!」


 天ヶ瀬に懐かれた。

 ……なぜだ。


 俺は黒宮だけに懐かれてえ!




※有名ショコラCM:企画『皆で初恋ショコラ』内ででてくるコンビニスィーツのCM台詞「ケーキとぼくのキス、どっちがすき?」からとりました。

なにせ天ヶ瀬さんは企画ネタで作ったお話に出てきた主人公の娘さんなので。

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