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第四話 俺から見た二人について。

 天ヶ瀬 桜生と黒宮 幹は、俺の通う上牧(かんまき)高校では知らない奴はいないほど有名だ。

 天ヶ瀬は男子顔負けの長身と観るに耐えれなくなるほど美しすぎると評判の(かんばせ)、成績は常にトップで生徒会長という恐ろしいほどのスペックを持った上にやたら女子からわーきゃー言われてアイドル並の人気がある女子ということで。かたや黒宮は天ヶ瀬に溺愛されていて、いつでも天ヶ瀬の横にいる普通の子という認識だ。

 だが俺は違う。

 ――――――黒宮は可愛い。

 それもとてつもなく可愛い。

 女子にしてはちょっと高めの身長、とはいっても天ヶ瀬の横に並べば小さな女の子にしか見えないが、天ヶ瀬と俺は同じくらいの身長だから俺が横に並んでも小さな女の子になるだろう。あんまり小さいとつむじしか見えなし、いちいちかがまないと顔も見えないが、黒宮は横に並んでもちゃんと表情が見えるし、丁度黒宮が上目づかいになる程よい高さだ。おいしい、おいしすぎる。手なんてこれぞ女の手!って言いたくなるくらい柔らかそうでまっすぐな手をしている。あの雪見○いふくのようなもちもちとした手を触ったり握り締めたり頬ずりしたりして堪能し、そしてそのまま俺の……うん、まあ置いておこう。

 表情豊かな真っ黒い目は大きいし、顔に散らばるそばかすだって愛嬌がある。だいたいそばかすがあるってことは色が白いってことなんだが、不思議なことに誰もそこには突っ込まない。顔は全体に小ぶりで俺の手の中にすっぽりと収まるだろうし……ああ、手に挟んだままあのよく動く唇にキスしたいなあ、そうすると真っ白な肌が真っ赤になって、潤んだ目で俺を見上げて抱きついてくるんだ……といつも妄想に駆られることは黙っておく。髪の毛はいっつも頭のてっぺんで綿菓子みたいに丸くなってる。そういや夜店で売ってる綿菓子の袋ってテキ屋のおっちゃんのもっさい息だと知った時のショックは半端ない。あれ以来ぱんぱんに膨れ上がった袋入りを買うことができなくなって、どうしても綿菓子が欲しくなったときは作ったばっかりの奴を買うことにしている。もしくは近所の駄菓子屋。あとは自分で自作。アルミ缶に穴開けて作るヤツ。実験しているみたいで結構楽しいのは今はどうでもいいが、彼女のふわっふわの茶色い毛は綿菓子のように旨そうだ。顔を埋めてえ。もふもふしてえ。たまに天ヶ瀬があの綿菓子をぽんぽんと弾いているのを見かけるが、綿菓子がぺっしゃんこになるように髪もぺっしゃんこになる。そのたびに黒宮が顔を赤くして怒っているのを見ているのも実に楽しい、つか羨ましい。俺にもやらせろ。

 これでわかったと思うが、俺は黒宮が好きだ。

 ふわっふわなくせにあんなハイスペックな人間が横にいるのに自分を失わない強さも持っている黒宮が好きだ。

 そのことに気が付いて以来、ついつい目線は二人を追いかける。もちろん天ヶ瀬はでかいから夜の海に浮かぶ灯台のように人混みに紛れても目印になって探しやすいし、天ヶ瀬がいればたいてい黒宮も下にくっついているわけで、俺としては天ヶ瀬はどうでもいいが黒宮見たさに天ヶ瀬を探す日々となった。

 まあそれも限界をむかえたっていうか。


 天ヶ瀬のファン共のやっかみが凄い。

 よくあれを俺の可愛い黒宮が耐えているなと誇らしく思いつつ、やっぱ女子であのいじめに耐えきれる奴なんてそうそういないだろうと黒宮の限界を思う。 

 それを見かけたのは、部活の朝練の時だ。

 廊下を歩いていると家にある生ごみ箱に似たような臭いにおいが風に乗って漂ってきた。

 学校でこの臭いはおかしいと臭いの元を探すと、下駄箱で黒宮がせっせと掃除をしていた。

 自分の下駄箱だけ。

 手にはポリ袋、中身はなんでそんなものがある?と突っ込みたくなるような生ごみ。

 念入りに掃除した後にしゅーっと芳香剤を下駄箱とあたりにまいている。


「黒宮……?」

「あれ、彭城(さかき)君。おはよう」


 まるで何事もなかったように朝の挨拶をする黒宮に唖然としながらも黒宮の手にあるものを凝視した。


「あ、これ、内緒にしてね」

「……だけど、黒宮」

「ね、彭城君」


 俺の袖を引っ張りながらあの大きな目で訴えられたら、俺はもう黙るしかない。

 黒宮にはきっちりと約束を取り付けられて、腑に落ちないと思うもののその場を離れた。

 なんか困ったことがあったら声をかけろよとかしか言えない自分が酷く惨めだった。


 次の日も、次の日も、黒宮は芳香剤を下駄箱に撒く。

 そしてゴミを携えたまま教室に向かって、今度は机の中の掃除だ。

 毎日よくやるよなといじめる側の奴の執念深さに敬服するが、黒宮がただ黙って掃除しているだけというのもいけ好かない。


「だって、可愛いじゃない。ちょっと方向性を間違っているけれど」


 可愛い……って、ここで使う言葉か。

 それとも黒宮の度量が深いのか。

 朝練が無くなった最近では、黒宮と一緒に掃除している俺がいる。



 とうとう俺は行動に移すことにした。

 なにせ黒宮だ、俺の考えの斜め上で物事を考える。

 正攻法で好きだと伝えても伝わらない可能性がありすぎて、俺は頭を悩ました。

 よく考えたら俺は黒宮の電話番号もメルアドも何も知らない。

 つながりは朝の掃除だけだ。

 それもほとんど言葉を交わさず、ただ黙々と作業を進めている。

 ……どうするよ、俺。

 結局よい案など浮かばない。

 直接話すか間接的に話すかのどちらしかないわけで。

 俺は、黒宮が決して取り間違えないだろう文章に望みを託すことにした。





「で、なんでお前がくるんだ」

「ふん。自分の気持ちも言えない貧相な根性の持ち主の顔を拝みたくなってな」

「……うぜえ」

「つまらない遠吠えだな。……ほら、これ」


 待ち合わせの体育館裏にやってきたのは、黒宮ではなく天ヶ瀬だった。

 俺を見つけるとにやっと笑ったあの不気味な笑顔にしばらくうなされそうだ。

 投げてよこされたのは暑さ2cmほどの木の板だ。


「それを私に向けて並行に持て」

「……は?」

「さっさとしろ!」


 怒声が響いたと同時にしゅっと風を切る音が聞こえてくる。

 バキッと木の割れる音と強い振動が体にかかって、俺は後ろに倒れそうになった。


「下手なちょっかいを出すと……わかったな?」


 体が勝手に身構えたのは仕方ないだろう。

 風を切る音とともに手が体を守ろうとして、結局天ヶ瀬の望むとおりに板を突き出していたようだ。

 それを天ヶ瀬は見越して俺に足蹴りをかけてきた……ってことだよな。

 そういやこいつ、空手部だったわ。こええ。


「諄いようだが、ヘタレなど幹に相応しくない。本当に幹と付き合いたいなら正々堂々としろ」

「……いや、十分正々堂々としているけど」

「自分の口から想いを告げれないヘタレのくせに偉そうに。ちなみに私は三段だ。それ相応の覚悟で挑めよ」


 言いたいことだけ言って、天ヶ瀬はさっさと校舎に戻っていった。 


「……いや、別に天ヶ瀬は関係ないし」


 こういうのが、負け犬の遠吠えってやつか?


注①:屋台の綿菓子はところによればエアガンで空気を入れています。

注②:空手の黒帯保有者は相手が攻撃してこない限り手出しはしてはいけません。

注③:彭城が途中で「敬服する」といっているのはいじめをしている人に対して完全に嫌味で言っています。 

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