第三話 私から見た黒宮 幹について。
黒宮 幹はとても可愛らしい。
初めて幹を見たときには、私の理想が具現化して現れたのかと目を疑った。
まず容姿。パッチワークのような島出身の某有名赤毛の女の子の、好奇心旺盛で愛嬌のあるくるくるとよく動く瞳と無数に広がるそばかすを持ち、いつも笑顔が絶えない。日本人の平均よりはちょっと薄めの胡桃色の髪はふわふわと空気を孕んで、頭のてっぺんで雪洞を灯してる。ふわっふわを堪能したくてぽふぽふと叩いて潰すと怒られる。でもやめない。
そして体躯。女子にしては少し高めの部類に入る身長は165cm。それに雪洞が付くから見た目170cmほどかな。私と並んでちょうどいいバランスだろうと思う。本人は否定するが顔だって小さいし、指なんて白魚のような指ってこういうのをいうんだろうなって思うくらいに骨ばらずに柔らかだ。足のサイズは身長の割に小さくて24cm。可愛い靴が選び放題なのは正直羨ましい。リボンとかリボンとリボンとかたくさんついているのをぜひ履いてほしいと願ったが却下された。なぜだ。
成績に関しては、幹はずるをする。三百人中百五十位という見事なほど平均ど真ん中の成績は、彼女の本来の成績では決してない。だいたい言葉を交わしているとその子の程度がわかると思わないんだろうか。幹が本気出せば上位に軽く食い込めると私は睨んでいる。が、彼女は本気を全く出さず、ほどほどに頑張って楽しい高校生活を過ごせればよいという考えの持ち主だった。そういう考えもあるんだなと思うが、このままいくと大学が別になりそうで嫌だとごねたら「大学は入試当日の成績だから」とさらっと言う。彼女は私が男前だとよく言うが、どっちが男前なんだかと苦笑するしかない。
性格は男前。どんなに彼女が否定しようが男前。そのくせ女らしいってどんな組み合わせだ。これで惚れなくてどうする。いや、誰もが惚れるだろう。なにせ私もその誰ものうちの一人だ。彼女が横にいると楽しくて仕方がない。強い目線の上目づかいで、私の心を鷲掴みだ。
そして今日も彼女の良さがわかる男どもがアプローチをかける。
「あ」
「……また入っていたのか。今週はこれで何通目だった?」
「んー、三通かな。懲りないよね」
ため息をつきながらゴミ箱に封筒を直行させる。
中を読む気は全くないらしい。
「だってどうせ私宛じゃないし」
「いや、幹宛てだと思うが」
下駄箱を隠れ蓑にちらちらと幹を窺っているヘタレ男子が落胆しているが、あれはどうしたらいいんだ。すごすごと引き下がっていったぞ?
「たまには読んでみてもいいんじゃないか?」
「読みたくないというか、関わりたくない。絶対に絶対に面倒くさくなるもん」
「まあ、なあ。確かに面倒にはなりそうだ」
なにせ自分の口から直接好きだと言えなくて手紙に託す時点で私的にはアウトだ。どこかに幹を呼び出して、そこにわざわざ幹が出向くことによって幹がどう思っているか気持ちを先に確かめてからしか自分の口から気持ちを言えないなんて、どれほどヘタレてるんだと声を大きくして言いたい。というか、言っている。まあ、さっきの奴の顔は覚えたからいつものように後から〆る。早朝の体育館裏は最近の私の居場所だ。幹にはもっと堂々として男らしい奴こそが相応しい。
「そんなことより、桜生ちゃん。今日はどこにいくの?」
「ん? 私の家だよ。幹がこの前食べたいって言っていたスィーツを取り寄せたから一緒に食べよう」
「ええっ!? うわー、桜生ちゃんの家にご招待されちゃった? 嬉しいっ!」
顔がぱあっと明るくなってぴょんぴょんと飛び跳ねる幹はなんて可愛いんだろう。
私にはできない技を幹はたくさん持っている。
こんな可愛い生き物がいるだなんて、神様も罪作りだ。
ぽんぽんと元気のよい雪洞に手を出すと、幹がぶーたれた。
「ひゃあっ! やめてって、桜生ちゃん! 折角のセットが崩れるよ!!」
「大丈夫。セットが崩れたって幹は十分可愛いよ」
「……っ! もう、桜生ちゃんったら」
ぴたっと動かなくなって真っ赤に俯いた幹。
ああなんて母性本能をくすぐるんだろう。
私が男なら絶対幹を嫁にするのに。残念だ。