第二話 わたしこと、黒宮 幹について。
…………………………………………………………………………もぶ。
もしくは、代萩。
もはや雑草。
……端的すぎたので、やり直し。
私こと、黒宮 幹は……まあ一言で言えるほど平平凡凡な容姿にそれにふさわしい体を持ち、見事に平均点しか取れない頭脳を持つ、いたってモブな女子高生だ。その辺にごまんと生えている代萩といえる。つまりはどこにでもいる存在。
私の唯一の自慢といえば、生徒会長の天ヶ瀬 桜生ちゃんと友達だということだ。
周りからは桜生ちゃんの引き立て役だって言われている。
彼女は太陽、私はその光を受けてちょこっと光っている月。……え? 盛りすぎた??? ですよねー。月は月で美しいもんねー。月読尊様もいらっしゃいますし。私ごときにたとえられては神様もたまったもんじゃないですよねー。はい、調子こきました、すいません。
さてさて。
モブであるはずの私はおかげで結構有名人だ。
引き立て役でもモブであるなら周りの人たちも顔を覚えてくれなくてもいいと思う。が、世の中そんな甘くはない。
桜生ちゃんが放つ存在感の半端なさで、彼女の横っちょにいつもいる私という存在が嫌でも知れるわけで。
桜生ちゃんは大好きだけど、正直、妙に顔が知られるのは有難迷惑だったりする。だからといって友達をやめるつもりは毛頭ない。
もういっそのこと某有名ホラー映画のテレビから出てくる名前も呼べないあの人のように顔を隠すための必須アイテム、長い黒髪を手に入れようかと最近髪の手入れに半端なくなった。リンスインシャンプーのほうが安いのにさ。リンスとシャンプーと分けて買うなんて経済的にどうよと思う今日この頃。世間ではトリートメントと称する髪を綺麗にするアイテムが売っているそうだけど、そこまでは手を伸ばさない。なにせ貞○。手入れが悪すぎて途中でぶち切れない程度に長けりゃいいだけだし。不経済だし。
閑話休題。
桜生ちゃんと友達してるのはとても楽しい。
けれど周りの反発がすごい。
女子からはやっかみ、男子からは取次のあてとして目されている。
なにせモデル並みの姿に男前な桜生ちゃんは某男装演劇団の人のようにもてる。主に女子に。
そのくせ某男装演劇団の親衛隊の方々のようには規律もへったくれもなにもなく、ただわーきゃー言いたいだけの集団というたちの悪さで桜生ちゃんに迫ってくる。私の立ち位置は彼女たちに取れば垂涎もののうえ、できるなら立場を変わらんかいっ!の世界なため、やたらめったら私に構う。それもいらない方向に。
たとえば朝の下駄箱掃除は私の日課になった。
たとえば朝の机掃除は私の日課になった。
たとえば朝のロッカー掃除は私の日課になった。
そうして私の体は結構体力が付いた。毎日持ち帰る大量の勉強道具および体操服のおかげで。
桜生ちゃんが一緒にいるときにはこういった典型的ないじめは起こらないので安全だが、そのかわり女子たちの嫉妬の炎で私のうぶ毛がちりちりと燃える。うぶ毛処理しなくてよくなったのは黙っておく。
そして男子は掃除たばかりの下駄箱を狙って封筒を入れる。
なにその乙女。
近代兵器であるメールやSNSを使用せず、何世代も前に廃れかけた恋文を、本人に手渡せずにどうして私の下駄箱に入れるのだろうと思っていたら「天ヶ瀬さんに紹介して」という図々しいお願いだった。モブな私には言えても、桜生ちゃんには直接言えない乙女ぶり。うん。もうあきらめて。彼女の男前な性格を知っているのになぜそれをするのかまったくもってわからない。私を介してもきっと一刀両断だよ? わからろうよ。だいたい私は友達を売らないから。いくらモブでも乙女さんたちの思い通りには動きません、あしからず。
「うーん。ちょっと違うと思うけど」
「何が?」
「幹はわかっていないと思うよ」
「だから何が」
桜生ちゃんは、たまにこうやって謎をかける。
わかってないならないでもいいけどね、とつんと指で額をつつかれる。
きゃーわー軍団が周りで煩いけど、私は桜生ちゃんの言葉にいつも悩む。
「ま、鈍感なとこも可愛いよ」
ふっと息を抜いたように微笑む桜生ちゃんに、今日も陥落です。