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気象予報士 【第3部】  作者: 235
湧き出る怒りはどこから来るか
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4

 中庭の、隅の。

 誰も気付かないような大きな樹の陰に、彼女が立っていた。


 これは、何なのだろう。

 これほど腹が立ったのは、緋天がセンターからの帰りに、襲われたと聞いた時以来で。それと変わらない怒りが、自分の中を巡っていた。


「・・・君も大人なんだし。これから一緒に仕事をしていくんだからさ。ああいう言い方、良くないんじゃないか?」

 相手がこちらに気付かない内から、その背中に声をかけた。急に話し掛けられた事に驚いたのか、びくりと肩を震わせる。

「あんな態度で、センターの奴らにも悪く思われただろうし。やりにくくなって困るのは、君の方だよ」


 振り向きもせずに、反応を示さない。

 それが苛立ちを深める。人からはマイペースだと言われるし、自分でも短気ではないと思う。それでも、さすがにこの態度は腹が立つ。

「蒼羽を好きなのは分かるけど。緋天ちゃんを悪く言うのは、筋違いだ。あの娘を傷つけるなんて、蒼羽が怒るだけで逆効果だね。それに。蒼羽だけじゃなくて、緋天ちゃんに何かしたら、私も許さない」

 昼休みの少しざわついた空気。

「・・・言い過ぎました。申し訳ありません。緋天さんにも謝罪しておきます。仕事も・・・支障ないようにやります」

 彼女が振り返る。何事もなかったかのような、無表情。

「君は・・・何なんだよ? 本当に悪いと思っているの? 正直、そういう風にはとても見えないね」

 こちらが怒ってみせても、怯む様子もない。

 まっすぐ伸びた視線の先には、何も映っていない。

「申し訳ありません。失礼します」

 あくまでも、冷静な声。

「・・・そんなんじゃ、すぐに追い出されるよ?」

 立ち去ろうとするアルジェに、こちらが冷静にならなければいけないはずだが、意地の悪い言葉が出てしまった。

「・・・っ。ご忠告、ありがとうございます」

 追い出される、と言った途端、はっとした顔をして。それから元の冷たい声でそう返された。あきれるやら、腹立たしいやら、もう訳が分からなくて。


「ったく・・・いくら可愛くても、ああいう子とは付き合いたくないな」

 ため息と、本音が同時に出る。

 銀の髪や、白い肌や、きれいな瞳は。とても自分好みなのに。

 その性格は遠慮したい。どのみち蒼羽を好きだったようなので、彼の外見や地位しか見てないような人種なのだろう。

 明日から、彼女と顔を合わせるのがとても気が重かった。





「じゃあ、後は。緋天さんと細かい予定を決めてくれるかな。しばらくはアルジェの方を優先だね。蒼羽には悪いけど」

 オーキッドがにこやかにそう言い残して去っていった。ベリルもその後に続く。

 何がどうなっているのか分からなかった。

 昼休みにベリルがアルジェを追いかけて行った後。二人が何を話したのかは分からないけれど、憮然とした顔のベリルが口数も少なくて。蒼羽はベリルに何も聞かなかったので、自分も黙っていた。


 アルジェの言葉に少し、傷ついたけれど。

 蒼羽が困ったように、ごめん、と何度も言うから。今はもう、そんなに気にならなかった。それに初めに見たアルジェの笑顔や柔らかな空気こそが、彼女の本当の姿のような気がして、どうも違和感を感じたのだ。何か、もやもやとして、自分でも良く分からない気分になっている。

 オーキッドやベリル、蒼羽、それから何人かのセンターの人間を交えて、アルジェとの顔合わせが行われて。ベリルもアルジェも、笑顔を浮かべてその場を過ごしていた。穏やかな雰囲気のまま、すぐにこの集まりは解散して、最後に残されたのはアルジェ本人と、自分。そして心配顔の蒼羽。


「あの・・・ここはちょっと広すぎるし。私の部屋に来てもらえない? 個室を貰えたのよ。まだ、全然片付けてないんだけど。お茶ぐらいはごちそうできると思う」

 おそるおそる。

 そんな感じでアルジェが口を開いた。

 水色の瞳がじっとこちらを見ていて。少し戸惑う。それでも彼女のその口調は柔らくて、なんだか安堵感をもたらした。隣の蒼羽を見ると、同じようにほっとした顔をしている。

「えっと、じゃあ。お邪魔します」

 三人で。なんとなく、小さな微笑をもらして。

 広い会議室を後にした。 


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