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最終話

 その瞬間から実に二百年前、同じ『島』の同じ広間では、一人の老人と虹色の髪をした青年のような何かが共に佇んでいた。陽光が入り込む余地の無い場所だというのに、そこには人の気持ちを穏やかにするような光が満ちている。


 しかし、二人の表情はまったく違う物だった。青年は広間の光と合わせるように機嫌良く、いかにも幸せそうな顔をしていたが、老人はそれとは遠すぎる悲しそうな顔をしている。


 虹色の髪をした青年は感触を確かめるように老人の肩を何度か叩き、それが良い結果である事を悟って何度か頷く。


「……うん、上出来! これで君は、君がそうだと思う限り、生きていられるよ! 良かったね嬉しいね!」


 多幸感に包まれたかのような声で青年のような姿をした何者か、つまりエィストは老人に声をかけた。やけに機嫌が良さそうなエィストは、暗い顔をする老人を元気付けるように笑う。


 それに吊られたかのように、老人、つまりマーカスは笑った。だが、それは無理矢理作ったような、悲しい笑顔だった。


「ええ、良かったですよ、エィストさん。これで私は貴方を待ち続ける事が出来る」


 言葉を聞いたエィストは、少し悲しそうな顔をする。そう、彼はこの『島』から離れようとしているのだ。自身が生まれた時よりエィストと共に生きたマーカスにとって、それは自己の全てを失うような物だった。


 そもそも、『死なない』ようにして欲しいと、他の者達は望まなかったそれをエィストに頼んだのも「『島』を守りたい」という気持ちから来る物だが、その一方で、「エィストが帰ってくるのを待ちたい」という気持ちがあるのはごまかせない。


 それを理解しているのだろう。エィストは笑みを浮かべて思いついた事を発言する。


「良かったら、君も一緒に行くかい? 待ってみるよりも、楽しいと思うけどな」


「……いえ、遠慮しましょう。私は『島』の皆を助けていかねばならない。きっと、ここから離れていく者も居るでしょうな」


 例えば、貴方のように。そう続けた彼の言葉にエィストは困り果てた、しかし、それでも楽しそうに未来を見るかのような瞳でマーカスを見つめる。


「そうだね、きっと。そうなる。あの周りには町が出来るんだろうね。そしたら、きっと……今より、楽しくなるよ」


 幸せそうなエィストに、マーカスは苦笑した。彼がそのような事を言うのもいつもの事だ。エィストは楽しいと思った事は何でもするし、何でも出来るのだから。


 しかし、そんな彼とも今日限りである事をマーカスは実感して、悲しそうな顔をする。それに気づいたのだろう、エィストはまた何事かを考え込むような顔をして、数秒した後に思いついた顔でマーカスの肩を掴んだ。


「じゃあ、こうしよう!」


 希望を与えようとする彼の表情に、マーカスは少し期待を込めた瞳で彼を見る。エィストはとびきり幸せそうな顔のまま、口を開いた。


「もし、『島』に何か面白い事が起きて、それを止めてくれた人が出てきたら、私はその人の願いを叶えてあげようかと思うんだ! 例えば、完全な不老不死とか、大切な人との再会とかね」


 楽しそうなまま呟かれた彼の言葉に、マーカスは目を見開いた、と、同時に彼らしいなと納得する。素直に「いずれ戻る」と言わない所が、特に。


 そんな彼の内心を知ってか知らでか、エィストは照れている事を見せつけるように頬を紅潮させ、言葉を続ける。


「そう、事件が起きたら、絶対見ていてあげるから。絶対に戻ってきてあげるから、ね? だから、君は……泣かずに、その時まで待っていてくれる?」


 そこまで言われて、マーカスは自身が泣いていた事に気づいた。慌てて涙を拭い、彼は何とか笑みを戻す。作り笑いではなく、出来るだけエィストの言葉に応えられるようにと思い切り笑って見せ、それを維持しつつエィストの言葉に答えようとする。


「……分かりました! 私は、そう、私は……貴方の事を何時までも……!」


 駄目だった。言葉は最後まで続かず、結局彼は嗚咽を堪えてしまう。それでもエィストに答えようと、彼は笑みを浮かべようとして、彼は涙を流しながら笑う事になった。


 エィストは少し困った顔をして、マーカスの肩を何度も叩き、元気付ける。何故か、彼が肩を叩く度にマーカスの気分は楽になっていった。傍目には何が起きたのか分からなかっただろうが、マーカスには理解できる、彼が、やったのだ。


 それに気づくと、マーカスは何とか泣くのを止め、彼に感謝の瞳を向ける。正確に伝わったそれは、エィストを照れさせた。


「あはは……うん、まあ、仕方ないねぇ。うん、仕方ない」


 困ったような、それでいて照れるような彼の挙動に、マーカスは苦笑する。何を言っているのか互いに理解しては居なかったが、何故だかそれが楽しかった。


「……ん?」


 そんな中、エィストはふと広間の出口の方へ目をやる。声から察すると、誰かが近づいてくる事に気づいたようだ。


 だが、もしかすると最初からそれに気づいていて、その上で言わなかっただけかもしれないとマーカスは予想し、心を読んだかのようにそれが当たっている事を肯定してエィストは一度頷いた。


「ああ、そろそろ他の子にも挨拶をしないと……じゃあ、『また』いつか」


「ええ、『また』会いましょう」


 マーカスは少し名残惜しそうにしつつも、大人しく彼の言葉に従い、広間から出ていく事にする。彼の言う『他の子』が誰なのか、彼には分かっていたのだ。




 マーカスが広間から離れてから数秒後、マーカスが出ていった場所とは違う所から一人の青年が現れた。それを確認したエィストは満面の笑みを浮かべて近づいていく。何となく、マーカスと居た時よりも愉快そうに見えた。


「やあ……君、何か話したい事があるのかな?」


 言葉をかけられた青年は少し俯いていた顔を上げ、エィストの顔をしっかりと見る。どこか覚悟を決めた様に見えるその瞳には、燃え上がる何かがあった。


 エィストは、彼が何を言うのか、そして、そう言われた自身が何をするのかを知っている。だからこそその覚悟を真剣に受け取って、その上で笑う。それがどのような結果となるのか、あえて知らないでおこうと考えて。


「お願いが、あります」


 エィストの笑みを受け取りながら、青年は言葉を続けた。




 マーカスも青年も、二百年後に起きる事件について、この時はまだ何も知らなかった。もしかすると、エィストは知っていたのかもしれないが。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 そこから二百年後の広間にて、マーカスは自らの持つ仕込み杖が突き刺した相手を見て思わず首を傾げた。強盗達にボスと呼ばれる男の心臓に刺すつもりだった刃は、隣に居た男の腹に突き刺さっていたのだ。


 その男は、彼に手紙を送ってきた男だった。最初に送られてきた物を見た時、どこで知ったのかは分からなかったが『島』の事を良く知っている事だけは理解出来た。不思議な事でもない、二百年は長いがある意味で短い、当時の事を言い伝えとして残している者達が居る事も彼は良く知っている。


 懐かしい気持ちになりつつも、彼はその手紙に書かれていた事を利用する事に決めた。最早『島』に住んでいた者達の名前も顔も忘れてしまった彼だが、それでもエィストの言葉は一つも忘れなかった。


 そう、彼は覚えていたのだ。何となく思いついたような、エィストの提案を。それは二百年という時間の中で精神が限界に来ていた彼にとって、とても魅力的な選択だった。すぐさま彼は『チケットを配布する』という名目で手紙の送り主に一枚を送ったのだ。「是非来てくれ」という、意志を込めて。


 勿論、先日財布を奪おうとした青年がその送り主だったというのは完全に予想外で、今その彼がアベリーという名の強盗団の頂点を庇っているのもまた、予想外だったのだが。


「……アンタなら、いやエィストさんなら、『島』にあらかじめ予告を送って強盗に入る、なんて連中をどうこうする筈無い、そう信じたんだ」


 刃が突き刺さったまま、凄絶さすら感じられる笑みと、自嘲を同時に浮かべた表情でビルは呟いた。そこには敵意や憎しみではなく、落胆や失望が見て取れる。まるで、同胞の変わりようを嘆くように。


「『島』を占拠した強盗団を、誰かが倒して英雄となれば……エィストさんはもしかしたら現れてくれるかもしれない」


 そんな彼の態度に居心地の悪い物を感じたマーカスは、普段とは違う、自らでも驚くほどの冷たい声で話し出した。二百年という時を生きた彼の心は、本人が思った以上に冷えきっていたらしい。


 実際、彼は二百年の間エィストとの再会を待ち続けた。他の者達が「死んだ後で再会する」と告げて先に逝く中、彼は「生きたまま再会する」事に拘った。何せ、彼は生きる気力が尽きぬ限り、生きられる。しかし、二百年という時間は人の身には長いのだ。


「彼を待ち続けて二百年……! 私は毎日をひたすら『島』の維持に費やした! あの人がどう考えていようが、ここが私の最初の居場所で、最後の死に場所だ!」


 マーカスは、形振り構わず叫んだ。出来れば、この声がエィストに届いて欲しい、と。だが、声を返してきたのはエィストでは無くビルだった。彼はマーカス以上に冷たく、普段の態度に似合わない言葉を、躊躇する事無く吐き出す。


「知るかよ」


 それを聞いたマーカスは一瞬、我を忘れる程の怒りを覚えたが、同時に、心に突き刺さるような物を感じて怒りは四散した。何故だか、その言葉がエィストと似た雰囲気で発せられた気がする。原因は、わからなかったが。


「もう一度言うぞ? 知るか。俺はアンタの都合も気持ちも知った事じゃない。ただ、『安全に、楽しく』強盗がしたかっただけだ」


「……それ、強盗か?」


 血を流しながら笑うビルの耳に、少しばかりの怒りと苦笑を込めた声が響いた。そう、アベリーの物だ。ビルの傷を気にしながらも、言葉には遠慮がない。当然といえば当然だ、彼はビルの行動を知らなかったのだから。


 チケットは当たったのだとビルはアベリーに言っていたのだ。まさか、強盗に入る相手に事前に手紙を送るようなありえない事をするとはアベリーにも予想出来なかった。


「まったく……どこの世界にそんな事をする馬鹿が居るんだ?」


「少なくとも、ここに一人居るね。そうだろうビル君?」


 意味有りげなマーカスの視線をビルは睨みつける事で制し、アベリーに対して思い切り申し訳なさそうな、ともすれば自害してしまいそうな顔をする。チケットを失った時以上の失態だ、有り得ないほどに。


「俺は、その……」


「ああ、分かってる。分かってるんだよ、お前が俺達の安全を確保する為に動いたって事は。まあ、結果はともかくな」


 そう言われたビルは明らかに安堵の表情を浮かべる。そんな、有り得ない程愚かな行動をした彼を、しかしアベリーはあまり怒る気になれなかった。その怒りの方向は、ビルではなく、マーカスに向かっていた為に。だからこそ、彼はビルを怒るのを止める事にした。罰は、与えるのだが。


「まあ、いいさ。その代わり、今日の夜全員で寝てるお前を一人一回靴でぶっ叩いてやるから、そのつもりでな」


「おお、やってやりましょうボス。今日の夜は覚悟しろよ、ビル」


「お前が明日中は泣いたり笑ったり出来ないように、してやる」


 アベリーが何か恐ろしい事を考えているのではないかと怯えるような顔をしたビルはそれを聞いて笑った。周囲の仲間達の様子を探ってみたが、アベリーと同じような顔で口々に彼の言葉に同意するのみだ。


 アベリーが言外に「全員無事に戻る」という意志がある事をビルも、それ以外の者達も気づいている。


「ああ、俺は本当に良い、いや『面白い』仲間を得たんだな。本当に、幸せ者だ」


 ビルは、心の底から幸せそうな顔をした。今も腹部に刃が刺さり、そこから血が流れ出ているというのに、彼はそれを気にした風でもない。とはいえ少し顔色は悪くなっていたが、アベリーが危険と思う程でも無かった。


 次いで、ビルは自慢げに見せびらかすような表情を浮かべてマーカスの方へ顔を向ける。そこには、少しの嘲笑も含まれていた。


「どうだ? これが、俺の仲間だ。エィストさん以外に誰も居ないお前とは、違う」


「そうでもないさ」


 返答を行ったのはマーカスでは無かった。彼の背後に居る者達、観光客の一人がそう言ったのだ。声を聞いたビル達が改めて彼らの方へ目をやると、そこには驚くべき光景があった。ビルは、少し唖然とした雰囲気で呟いた。


「ああ、確かに誰も居ないわけじゃないらしい」


 そう、観光客達は全員が全員、銃を持っていたのだ。それも、機関銃を。ここに至って、ようやくアベリー達は事の真相に辿りついた。どうやら、先ほどまで有った怯えの類は、全て演技だったようだ。


 ビル達の会話を横で聞いていたスタンリーは思わず舌打ちをする。恐らくは、この観光客達は全員が『島』の関係者なのだろう。彼が当選する筈も無い。


 そんな彼とは別に、アベリーの仲間達は即座に懐から銃を取り出し、観光客、いや、敵達へと向ける。こちらは拳銃だ。広間という障害物がほぼ無い場所では、有利とは言えないだろう。それでも彼らは出来る限り集中して、アベリーの指示を待った。


「……お前等、まだ撃つなよ」


 アベリーは、出来るだけマーカスが敵の射線に入るように立ち位置を変えながら指示を出した。刺されているビルは、いつの間にか気づかれない程度にその刃を掴んでいる。勿論、逃がさない為だ。


 彼の指示を受け取った仲間達は小さく頷き、敵達の挙動に集中する。銃弾を避ける事はほぼ不可能でも、彼らは相手の動きで先を読む事は出来るのだ。


「……ふむ、仕方ない、のだろうなこれは」


 マーカスがどこか諦めを覚えたような表情で立っていた。手の仕込み杖は握り締めたままだが、その姿は人生に疲れきった者のそれを感じさせる。


 次に出るであろう言葉がアベリーには予想出来た。その為、彼は警戒心はそのままにしつつも、僅かな期待をマーカスに向ける。それを受け取ったマーカスは、疲れた表情で言葉を続けようと口を開く。


「……お前達、銃を」


「やあマーカス!」


 が、次の瞬間、全ては台無しになってしまった。あまり人が集まって居なかった為に警戒が他と比べると若干疎かになってしまった出入り口から文字通り飛び込んできた女によって。


 それを認識したアベリーの仲間達は即座に引き金に力を入れかけて、寸前で『この世の地獄でも見たような表情の』アベリーに止められる。それを見れば、嫌でも何者なのかが彼らには理解できた。


 それに気づいているのか、彼女、カミラは一瞬だけそちらに目をやったが、特に気にする事ではないと判断したのかすぐにマーカスの方へと視線を戻す。


「よく分からないが、こいつは本物の警備員なのか?」


 カミラの片手には人間が抱えられていた。それはマーカスも、観光客と名乗る『島』の関係者達にとっても見知った顔だった。警備員の一人だ。それも、『万が一に備えて隠し通路に配置した』者の一人だ。それを理解した者達の行動は早かった。


「……! 伏せろ!」


 アベリーがそれを見ると同時に叫び、仲間へ警告する。それと同時に、機関銃がカミラへ向けて撃ち込まれた。それを持っていた全員が一瞬で、だ。それは早い動きだった。


 それでも、アベリーの言葉にスタンリーを含むほぼ全員が反応して伏せる。だが、まだ刃が刺さったままのビルは別だった。マーカスを背にしている為に射線から外れる事は出来たが、危ない事には変わりない。


「やっべぇ! クソっ、邪魔だ!」


 危険を感じたビルは、銃弾が飛んでいる事など意識せず即座にマーカスを蹴り飛ばした。何故か、マーカスは素直に仕込み杖から手を離して倒れる。それを確認するより早く、ビルは刺さっていた刃を引き抜き、アベリーに無理矢理伏せられた。


「痛って! 何するんで」


「黙って伏せてろ馬鹿が!」


 ビルの言葉を遮るアベリーの怒鳴り声で、彼はやっと周囲の状況を確認する事が出来る程度には落ち着いた。どうやら、唯一体を伏せていないカミラが銃弾を避けているらしい。あまりにも派手に動く為に流れ弾がそこら中に当たるのが恐ろしい話だったが。


「ああ、やっぱりとんでもないな、あいつ。っていうか、何でカミラがここに来てるんだろうな」


「……さあ? まあ、気にするだけ無駄って奴なんだろうな」


 ビルの隣で伏せるアベリーは何も感じさせない声で返した。驚いた顔ではない。その声はカミラよりも優先すべき事があると言ってるような気がしたが、頬を銃弾が掠めた性でそれ以上意識はしなかった。




 カミラは別に、銃弾を全て避けていた訳ではない。山のような機関銃から出る銃弾の山だ。流石にどうやっても人が避けきれる隙間が無い。だが、それでも彼女は殆どを避けて見せた。当たってはいても、全て掠り傷だ。


 大量の銃弾に集中し、避けきれる物を避け、掠り傷で済む物をわざと受ける。やはり人間業ではない。だが、当人はあまり嬉しくなさそうだった。むしろ、情けなくて悲しい気持ちになっている程だ。


「ああ、まったくっ……ニルさんならっ、これ、くらいっ!、避けるのも、当たるのも掴むのも! 当たっても効かないのも効くのも自由自在なん、だっ! だというのに私と来たら……!」


 カミラは銃弾を避けながらも言葉を出す隙を見つけては喋っている。にも関わらず、より銃弾を鋭敏に避けて回っていた。自身が避けた先の銃弾は四方八方に飛んでいったが、彼女は気にしていない。


 だが、他の者達は気にしていたらしい。銃弾が飛んでいった全ての方向から罵声と悲鳴がカミラに向けて投げつけられた。だが、殆どは聞こえていないように無視する。実際、聞いていないのかもしれない。


「おい! 何とかしろ馬鹿!」


「おっと、悪いな! だが、流石にっ、これはっ、難しいかも、なっ!」


 余裕を感じられないスタンリーの悲鳴混じりの声だけが唯一、カミラの耳に届いたらしい。彼に向かって小さくウインクをしながらも、彼女は銃弾を相手に構わず避け続けた。スタンリーは舌打ちをする。彼女の言う通り、この状況で背後に構いながら避けるのはとんでもなく難しいのだろう。


 その事がよく理解出来たスタンリーは、頭を抱えながらも事態の解決策を見つける為に頭を動かす。観光客の中にあのよく分からない者が居なかったのは幸運と言えた。何故だかは分からなかったが、敵にしてはいけない気がしたのだ。


 カミラが機関銃の嵐で足止めを受けている以上、自分がどうにかする方法を考えなければ、この状況に至ってようやく頭を働かせた彼は、気づいた。その途端、凄まじい悪寒が走った彼はそのまま口を開いていた。


「カミラ!」


 言葉は続かなかった。彼が口を開くと同時に、機関銃の銃声の中に六回の異なった銃声が混じった。カミラにはその音の正体が理解できた。そう、拳銃である。


 誰よりも早く銃声に気づいたカミラがその方向に目をやると、そこには意外な光景が広がっていた。


「マーカス?」


 そう、彼女に銃弾を放ったのはマーカスだった。彼の雰囲気とは似合わない銃という武器を持つ姿には違和感がある。が、それを考えるよりもカミラは自身が危険を感じざるを得ない状況であると理解する方が早かった。


 逃げ場が無いのだ。機関銃の嵐が逃げ場を奪い、六発の銃弾が致命傷を与えようと近づいてくる。それは、まさに檻の様だった。恐ろしい程の速度で動ける彼女だが、動けないのであれば、意味がない。冷静に、そして全力で隙間を見つけようとした彼女だが、それでも、逃げ場は無かった。


「あぁ、これはまずいな」


 思わず呟いた彼女の体を六発の銃弾が貫いた。



「……おい、今の銃」


「俺のですね」


 アベリーと、隣のビルはマーカスの持つ銃を即座にビルの物であると判断した。ならば、とビルは何時それが奪われたのかを考えて、すぐに真実に思い至る。


「さっき、俺が蹴りを入れた時に奪ったんでしょうね」


 やられた、道理で軽々と離れた訳だ。とビルはため息をついた。彼らから少し離れた場所では、カミラが血を流して立っている。機関銃を持った者達はそれ以上彼女に発砲する事は無かった。


 マーカスが血を流すカミラを確認したその瞬間、目で機関銃を制止したのだ。ほぼ同時に、銃声は止んだ。しかしカミラは何も言わない、ただそこに佇んで、自分に空いた六ヶ所の血が吹き出す穴を眺めているだけだ。


「ああ、お嬢さん。君には、少しばかり黙っていて貰いたいんだ」


 微笑んだまま、マーカスはカミラにそれだけ言って、ビル達の、いや、アベリーの目の前に戻る。片手には相変わらず、銃が備えられていた。


 マーカスの目は穏やかだった、だが、同時に、深い絶望を思わせた。明らかに危険な目だ。ビルは思わず哀れみを持って呟いた。


「そんな事をしたって、エィストさんは来ないぞ。何せあの人は、死んでからだって会えるんだからな」


「……まだ、可能性は残ってるさ。君を撃てば、ね」


 それだけ言って、彼は銃をアベリーに向けた。ビルは慌てて起きあがり、他の全員が反応出来ないほどの速度でアベリーを庇って銃の前に出る。その当人であるアベリーは思わず目を丸くし、それ以外の者達はビルに次いで早くマーカスへ銃を向けた。


「お前、そんなに強かったか?」


「ははっ、火事場の馬鹿力って奴ですよ」


 目の前に銃を突きつけられているというのに、ビルは不敵な笑みを浮かべていた。まるで銃など恐れていないかのように、彼は泰然として立ち尽くすのみだった。


「ふむ、君には興味無いんだが……出来れば、そこの彼だけを撃ち殺して終わりたいね」


「今更鬱陶しい奴だ、まあいい。で、ボス? さっさと逃げてくれませんかねぇ?」


 ビルは自然な動きでアベリーに目をやり、頭を抱えてため息をつく。アベリーの足と腹には銃弾で穴が空いていたのだ。他の仲間達も気づいたらしい、機関銃を持った者達への警戒を怠らずとも、心配そうな表情は崩さない。


「もしかしなくても、俺を庇った時の傷ですよねぇ?」


「さぁ? どうだろうな」


 アベリーの表情はとぼけていたが、今回ばかりは仲間達すらごまかせなかった。ビルの言う事は当たっていたのだ。


 アベリーは居心地が悪そうに、ついでに痛みで身を震わせる。だが、そこには心から仲間を想う気持ちが見て取れた。


「本当に、君達は仲が良いのだね。嫉妬してしまいそうだ」


 マーカスは、心底羨ましそうに声を漏らす。今の仲間を信じていない訳ではなかったが、彼の心は二百年前で止まっているのだ。今を生きている彼らが、マーカスには眩しかった。


 だが、撃たねばならないのだ。「『島』を救った人の願いを叶える、姿を見せる」それが嘘でも、本当でも、彼にはもうそれしかないのだから。


「本当は、カミラお嬢さんの願いを叶えてあげたかったんだがなぁ……」


 マーカスは小さく呟く。そう、彼はカミラの事を先日会う前から知っていたのだ。知った上で、彼女に願いを叶えさせたいとマーカスは感じた、同じ、「再会を待つ者」である為に。


 だが、カミラは強盗団にすら気づいていなかった。そうとは知らず待っていたマーカスの元に、自らに手紙を送ってきたビルという男が現れたのだ、自らの部下が発砲してしまった事もあって、彼はカミラに願いを叶えさせる事を諦めたのだろう。


「ああ、畜生。全部俺の責任だ」


 そんなマーカスの思考を呟いた言葉だけで察したビルは、後悔のあまり倒れてしまいそうな顔をする。今回起きた出来事の大半が彼の行った事の結果だ。落ち込むのは当然の事だった。


「ああもう、退いてろ」


 沈み込む彼を見ていられないとばかりにアベリーが勢い良く彼を退けた。ビルを退けた事で、マーカスの持つ銃はアベリーへ真っ直ぐに向いている。しかし、アベリーはやはり恐れなかった。


「おっと、お前等。撃つなよ?」


 一度振り向いてそれだけ言うと、彼はマーカスの方を見た。仲間の中にはマーカスへ銃を向ける者も居たのだが、大半は機関銃を持った者達への警戒を優先して睨み合っている。下手をすれば地形でも武器でも圧倒的に不利な戦闘になりかねないだけに、彼らは慎重だった。


 アベリーは予想通りの仲間達の行動に満足げな顔をして頷いた。隣のビルが慌ててこちらに近づいてくるが、それは思い切り睨み付けて止める。


「悪いが、やらせて貰う」


 そうしている内に、マーカスが少し申し訳無さそうな顔でアベリーに向けた銃の引き金を引き-----



----銃弾が射出される寸前に飛んできた何かによって、銃身ごと吹き飛ぶ事になった


「何っ!」


 そして、マーカスが驚いた一瞬の隙を突き、広間の出入り口から飛んできた数発の銃弾が彼の肉体を一瞬で吹き飛ばした。


 避ける暇すら与えず致命的な傷を与える凄まじい技量、それが何者による行いかはマーカスには理解できない。だが、それこそが自身の命を奪う者だという事だけは、理解出来た。彼はもう、生きる気力を無くしているのだから。


 唐突にやってきた死だ。しかし、不思議な事だが恐怖も、忌避感も、嘆きも無かった。どうやら、自分は思っていた以上に二百年に耐えられていなかったらしい。エィストに会う為に、人を操り、誘導までしたというのに、目的は果たせていないのに、もう何も未練が無い気さえしてくる。


 ふと、彼は先ほど自分と話していたビルという青年が明確にエィストの事を知っているかのような口振りだった事を思い出した。エィストとの再会にばかり意識が行ってまったく気に留めていなかったのだが、今は違う。


 どうしてビルがエィストの事を知っているのか、と彼は考えて。ようやく、彼は理解した。何故ビルは自身に手紙を送れば安全になる等と考えたのか、考えてみればそれらしき動きは沢山あった。すぐに分かる事だったのだ。


 ああ、と、小さなため息が血と共に溢れた。どうやら、自分は二百年の中で仲間の顔も、名も、全て忘れてしまっていたらしい。情けなさの余り、頭を抱えたくなった。もっとも、薄れゆく意識の中でそのような事をする余裕は無かったのだが。


「そう、か……私は、年を取ったの、だな……」


 それだけ呟いて彼は床に思い切り倒れ込み、微笑んだまま、死んでいった。



「助かったぞ、ガキ。よくやった」


「銃をぶちぬくんて初めての経験だった! けど気分良い!」


「新記録だ!」


 マーカスが倒れるのとほぼ同時に、銃弾と何かが飛んできた方向から三人の人間の声が聞こえてきた。その内一人はスタンリー達のよく知る男、ダグラスの声だ。どうやら戻ってきていたらしい。


 アベリー達は安堵の息を吐いた。これで、船に残っている者達以外の全員が揃ったのだ。ようやく行動する事が可能になったのである。


 そんな彼らの前に、ダグラスは姿を現した。脇には二人の少年が立って、銃身を投擲で打ち抜いた事を興奮げに話し合っている。アベリーはそこでこの二人が自分を救った事を理解した。


「で、だ。ボス。とりあえず、アレは撃っていい奴だったんだよな?」


「……射線を見て避けるつもりだったんだけどなぁ」


 ダグラスは、確認を取るためにアベリーに話しかけた。恐らく、戻ってきた時にアベリーが撃たれそうになっていたのを見た彼はマーカスを撃ち殺したのだろう。普段の彼らなら絶対にしない事だ。


「いやそれが……こっちのガキの方が早かった。俺は、その後でやっと撃った感じでな」


 そう、逃げるニコライとヘクターの背後に立ったのはダグラスだった。何とか目を覚ました彼はアベリーに報告をする為に広間に向かって歩きだし、その途中でこの二人に会ったのだ。二人の少年から経緯を聞いた彼は、事態が思っている異常におかしくなっている事を確信し、広間の場所を知りたいという二人を連れてここまで戻ってきた。


 すると案の定、アベリーが銃を向けられ、観光客らしき男達が機関銃を持って仲間を牽制しているではないか。ダグラスは一瞬で状況を察して、極力気配を殺しながらマーカスへ銃を向けた。


 が、それより先にニコライが持っていた金色の何かをマーカスの銃めがけて投げつけたのだ。とんでもない速度と狙いで放たれたそれは、銃をあっさりと打ち抜き、壁に突き刺さった。あまりにも凄まじい技にダグラスは驚いたが、それで銃の引き金を引く速度が落ちる事は無かった。


「はは、まったく。驚いたぜ、こいつらただの騒がしくて頭のおかしいガキかと思った」


「む、失礼な!」


「失礼だな! ……ところで、マーカスさんって誰? さっき持ってたの、その人に渡さないといけないんだ」


 ダグラスの言葉に二人は一瞬だけ眉を顰めたが、すぐにそれよりもと話題を変える。彼らがここまで来た理由がマーカスに投げた物を渡す事なのだから、当然の事だ。


 しかし、その質問を投げかけた者達は揃って顔を見合わせ、黙り込む。数秒でそれは収まり、二人の方へ視線が送られたが、ほぼ全員、どう返答すればいいのか分からない、と言いたげに彼らを見つめるだけだった。


「え、何?」


「何?」


 何故そのような目で見るのかと二人は思わず首を傾げる。だが、それに答える者はやはり居なかった。



 大半の者達がそんな事をしている間、例外である数人の内、スタンリーとダグラスは二人の言動に意識をほとんど割かず、油断無く機関銃を持った者達を見つめていた。


 機関銃を持った観光客らしき達は、マーカスの遺体を見つめ、全員が唖然としたように立ち尽くしている。どうすればいいのかが分からない、そんな困惑が見て取れた。だが、機関銃の引き金に手が掛かっている事は変わりない為、彼らが警戒を解く筈もない。


 勿論、ニコライとヘクターに困った表情を向けている者達もそれを忘れている訳ではない。彼らが何か行動を起こそうとすれば、すぐに反応するだろう。だが、彼らからその気配は見られず、やはりただマーカスの遺体を見つめ続けていたが故に、アベリーの仲間達の大半は二人の言葉に反応する『余裕』があった。


 そんな彼らを余所に、ビルはまったく関係の無い事をしていた。マーカスの持っていた自分の銃を吹き飛ばした物が壁に刺さっているのを見つけると、誰にも意識されないようにゆっくりとそれへ近づき、引き抜いて自分の懐に入れたのだ。余りに自然な挙動すぎて、アベリー以外の誰もが気づかなかった。


 金色のそれを見つめて、笑うビル。その姿に、アベリーはやはり見覚えがあった。ビル自身の姿は見飽きるほど見ているのだが、それと近い者をどこかで見たような気がするのだ。だが、自身の傷を忘れるほど考えてもそれが何なのかはまだ分からなかった。


 そんな彼らの行動も、思考も置いていくかのように、二人の少年は話題を変える。どうやら、誰も質問に答えてくれない事を知ってそうする事にしたらしい。急に機関銃を持った者達の方を見ると、今気づいたという表情で二人は首を傾げた。もしかすると、本当に彼らの存在に気づいていなかったのかもしれない。


「ところで、どうしてこの人達はこんな凄そうな銃を持ってるの?」


「……そうか! この人達は観光客を装ったテロリストで、『島』に生物兵器を持ち込んで政府を脅迫するつもりなんだ!」


「こっちの人達は?」


「きっと強盗の人達とこれから銃撃戦なんだ! 凄い事になりそうだな!」


「おお! ところで観戦料とか払わなきゃ駄目なのかなあ?」


 二人は大声でよくわからない会話を始める。それが耳に入ったのだろう。機関銃を持った者達はやっと我に返り、その中の一人が指示をしてマーカスの遺体を数人でどこかへ丁重に運ばせる。


 アベリー達はそれを邪魔しなかった。いや、出来なかった。機関銃を持った者達の目が語っていたのだ。「邪魔をすると銃撃戦が始まるぞ」と。危険を感じた彼らは銃を降ろしはせずとも、彼らの邪魔はしなかったのである。


 それが終わると、指示をした者が他の者より一歩前に出た。アベリーの仲間達は敵討ちかと一瞬警戒心を強めたが、その者の目には怒りや憎しみの類は無かった。むしろ、そこには安堵や慈しみがあったのだ。


「……我々が動くのは、最後の手段のつもりでした」


 男は、ゆっくりと、微笑んだまま話し出した。


「マーカス殿は、事前に警備員達に通達して貴方達の好きにさせました。何せ、抵抗すれば殺しあいになるのはわかっていましたからね」


 独り言のような男の言葉に、当人であるアベリー達以上にスタンリーが納得した。あの屈強そうな警備員達と戦って、この強盗団が全員無傷というのは考えにくかったのだ。


「ですが、五十人程度の警備員を最近作った隠し通路に入れて、万が一の為に待機させておいたのです。まあ、貴方達に見つかってしまったようですが」


 そこまで言って、男は苦笑する。彼の目には相変わらず危険な物はなかったが、アベリーは嫌な予感を覚えて背後へ手を回し、仲間に合図を送った。そう、逃げる準備だ。


 気づいていないのか、それに男は一旦息を大きく吸って、話を続ける。


「我々は、『島』に残った者達の子孫です。皆、マーカス殿には世話になりました。本当の祖父のように慕っていましたよ。観光客としてここに居たのも、彼の頼みだったからです。なので、私達としては……見た事もないエィストという方に興味は無いのですが……」


 マーカスの事を語る男の目は輝きに満ち、エィストを語る時の彼らはどこか、悔しそうだった。


 そんな彼らをただじっと見つめていたビルは、ある事に気づいて懐の銃へ手をやろうとし、実弾入りの物をマーカスに奪われ、ニコライに壊されてしまった事を思い出して、ため息をついた。


 ビルがそのようにしている中、男は唐突に二人の少年の方へ目をやった。複雑な感情を込めた瞳だったが、その内で最も大きい感情が何なのか、彼らには理解出来る。そう、哀れみだ。


「……そこのお二人」


「ん?」


「はい?」


「観戦料は要りませんが、流れ弾にご注意を」


 男がそう言った瞬間、四方八方の入り口から警備員が流れ込むような勢いで入ってきた。アベリーの部下達は見覚えのあるその姿で判断を下し、即座に銃弾を放つ。そう、その警備員達は、彼らが眠らせて服を奪った者達だ。その為服装こそ違う物だったが、武装が同じだ。すぐに警備員だと理解出来た。


 銃弾は数人を倒したが、焼け石に水だ。前方に居る機関銃を持った者達も含めて、山のような人間が彼らの周囲を囲み始める。


 アベリーは即座に撤退を命じる合図を出し、自らも数人を撃った。嫌な予感の正体がこれである事は、彼にもビルにもわかっていた。が、機関銃を前にしていた為に派手な行動が出来なかったのだ。


 だが、もはやそれを気にしている場合ではない。それは二人の少年と後一人を除き、全員が理解していた事だ。


 撤退の為に組織的に行動を始めたアベリー達に、男は声をかけた。彼らは仲間が発砲されたというのに何故か反撃もせず、ただ、静かに立っていた。しかし、その奥に何かがある。


「そう、仇は、取らねばならないでしょう?」


 その瞬間、男を含む全ての者達から殺気と憎悪が膨れ上がり----



----弾ける前に、十人程度の者達が纏めて吹き飛んだ。



「あは、アハハハハ! あはははははは!」


 それが異常だとその場に居る全員が認めるよりも早く、人間を紙屑を吹き散らすかように倒して見せた女、カミラは自らの流した血で服が汚れているのも構わず、狂ったように笑っていた。


 六発の銃弾は確かに彼女を撃ち抜いた。だが、その全てが彼女を殺すのにも、『黙らせておくにも』不十分な物だった。マーカスが手を抜いたわけではない。機関銃の檻の中、彼女を撃った六発は確かに当たった。しかし、それらは全て致命傷にならない可能性が高い部分に誘導させられるように当たったのだ。彼女の優れた肉体が、それを可能にした。


「あははははは! そっか、マーカスはそんな事を考えていたのか……羨ましい、会う方法を本人から聞かされていたなんて」


 どうやら、彼女はただ自分の血を眺めているように見せかけて、マーカス達の話を聞いていたようだ。そんな彼女の言葉にようやく警備員達が我に返って反射的に彼女へ銃を向けた。


「今だ! 行くぞ!」


 だが、そこに出来た隙を逃すアベリー達ではない、即座にその者達の所へ飛び込むと、銃や拳でなぎ倒して広間に出口を作る。


 そこまでの流れでようやく機関銃はまたアベリー達へと向いたが、その前にカミラが数人をまた吹き飛ばしてしまった。結局、機関銃の弾は一発も強盗団に当たる事無く、首を傾げた二人の少年を脇に担いだダグラスが出た事によって、強盗団達は広間から脱出した。


 それを確認したカミラは口から血を流しつつも満足げに微笑んだ。そんな彼女の耳に、スタンリーの声が響く。どうやら、出口のすぐ近くで自分に声をかけていたらしい。


「カミラ! 分かってるだろうが、船に戻れよ!」


「あはは! 分かってる! 待ってなくてもいいが、待っていてくれるとうれしいな」


 スタンリーの返事は聞こえなかった。今の発言をしたと同時に逃げたようだ。カミラは楽しそうに笑った。その場に居る警備員と機関銃は合計で百を越えている。その上、味方を撃たないように計算された配置で、だ。余りにも自然に組まれた物だったが、彼女にはそれが理解出来た。


「おお、凄いな君達。中々、面白い…………おっと! 追わないで貰えるかな?」


 何十人かが彼らを追おうとして出口に走りだし、いつの間にか目の前に現れたカミラに吹き飛ばされる。他の者達は慌てて彼らの様子を見ると、全員息はしているのが確認出来た。どうやら、殺す気はまったく無いらしい。それを理解した先ほど仇討ちを宣言した男は、疑問の声を上げる。


「何故、貴方が私達の邪魔をする? 殺す気も無いのに?」


「ん? ああ、そうだね……どっちに味方をするか色々考えたんだが、約束があってね、彼らの敵にはなれない事を思い出したんだ」


 そういうカミラは肩をすくめ、いかにも面白がっているかのような笑みを浮かべている。口振りこそ気安げだったが、その中にある何かを感じた男達は背筋に寒い物を覚え、思わず震えた。


 しかし、それでも一番前に居る男は震えず、自分の持つ機関銃を握りしめて彼女に殺気を向ける。無意味と分かっていても、男は口を開く。


「……退いていただけないなら、撃ちます」


「好きにすればいいんじゃないか?」


 男の予想通り無意味だった脅しを聞いたカミラは挑発するように周囲を見回す。その行動に、思わず引き金が動いてしまったのだろう。数人が発砲し、それに釣られたかのように他の者達も彼女に攻撃を開始した。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「カミラが全員どうにかして、こっちには追っ手がこない可能性はあるか!?」


「ほぼ確実にそうなると思うぞ!」


 そう言って、スタンリーは強盗団の一人の質問に答えた。アベリー達とスタンリー、そしてダグラスに抱えられた二人の少年は現在、逃げている真っ最中だった。


 どうやらカミラが広間の人間を留めている、もしくは壊滅させている最中らしく、追っ手はまだ現れていない。それでも気にはなるのだろう。アベリー達はしきりに背後へと意識をやっている。


「ところで、足、大丈夫なんですか?」


 そんな中、アベリーの仲間の一人が心配そうに彼の足を見つめた。そう、アベリーはマーカスによって銃弾を受けている。広間を脱出するまではそれどころでは無かった為に誰もそれを指摘しなかったが、今はそうではない。


「ああ、大丈夫だ。心配しなくてもいいぞ」


 彼らの言葉に、アベリーは笑って答える。実際、彼からは他の者達に合わせて走るくらいの余裕が感じられた。


 それでも気になるのだろう、他の者達はアベリーをやはり心配そうに見る。


「本当に、大丈夫なんですか? 何なら、俺達でボスを背負って走ったって……」


「勘弁してくれ、お前等に背負われる何ざ恥ずかしすぎる上に危険すぎて泣きたくなる。もっとこう……」


 アベリーはそこで言葉を終えた。恐らくは具体例を出したくなかったのだろうが、スタンリーにはそれが何を意味しているのかがすぐに分かった。何せ、アベリーの目がさっきまで近くに居た者を指しているように見えたのだから。


「カミラとかか?」


「……あいつくらい強ければ、心配要らないだろうな」


 アベリーは、言い当てられた事に嘆息していた。が、そんな彼の感情とは別に話は続く。そんな事をしていても走る事や周囲への警戒は怠らないのだから、彼らはある意味では優秀だった。


「好みのタイプって奴ですかねぇ?」


「アレと一緒に居たら、多分一日に一回は命捨てる事になるな。間違いなく本人より強くないといけない」


 ダグラスがため息混じりにそう発言した事によって、周囲はスタンリーを含めて同感だと頷いていた。だが、それに異を唱える者が居る。


「む! あの人はいい人だぞ! だから命を捨てるにしても三日に一回くらいのペースで済むに違いない!」


「一週間に一回くらいかもしれないじゃないか!」


 ニコライとヘクターは、ダグラスの両脇に抱えられながらも彼らの発言の訂正を訴えた。しかし、本人達も相当おかしな事を言っている為に誰も聞き入れる事は無かったし、誰も気にしない。


「おっと、来たぞ!」


 そんな微妙な空気の中で、アベリーが叫ぶと同時に何者かが侵入してきた。三人の警備員だ。恐らく、先ほど広間に居たのが全員ではなかったのだろう。機関銃を持った彼らからは、明らかな殺気が感じられた。


 が、強盗団の大半はアベリーの周囲を走り、まるで彼らに気づいていないように話を始める。


「なあ、ところでダグラス? 俺達はお前がてっきり死んだと思ってたんだ。ここまでに何があった?」


「ん? ああ、カミラにやられた。気絶させられたのさ。このガキ二人を眠らせようとしたら、このザマさ」


 いやあ死ぬかと思った、とダグラスは気楽そうに話している。彼まで警備員達の事をまったく気にしていないようだ。アベリーもまた、一度警戒を促す為に叫んでからは大して彼らを驚異と扱ってはいない。


 何故なら、警備員達が出てきた瞬間、三人の男が彼らの前を走り出したからだ。そう、必要以上の人員は不必要なのである。彼らが何もしないのは、それを一瞬で判断したからだった。


 実際、他の者達が何かをする必要はなかった。三人は前に出たかと思うと三人の居る場所まで一気に詰め寄り、彼らが何らかの行動をする前に返り討ちにしてしまったのだ。


「ああ、こいつら、強いと言えば強いが……今日の俺にとっちゃ敵じゃないな」


「そうか? そこそこ強かったと思うが……」


「まあ、逃げる時の俺達は特にな、強いんだよ」


 スタンリーと強盗団の男、そしてビルの三人は一瞬で警備員達を倒した事に対する何の感慨も無く、相変わらず走りながらも話をしている。


「……ビル、お前そんなに強かったっけ?」


 周囲の想像よりも強かったビルに対して、意外そうな目を向けていた者達の一人が彼に疑問を投げかけた。それも当然だ。ビルは彼らの中では最も弱い、という認識だったのだから。


「二百年ぶりに『島』に来たやら何やらでテンションが高いんだろ、放っておいてやれ」


 しかし、同じように彼を最も弱いと言っていた筈のアベリーは何度か頷きつつ周囲に話した。


 周囲の人間、ニコライとヘクターを除いたほぼ全員が納得したように頷いたその言葉に、ビルは目を丸くして見せた。その言葉は、まさに彼の『正体』を見抜いていなければ絶対に出てこないであろう物なのだ。ビルは思わず、間の抜けた声を出した。


「あれ? 気づいてました?」


「お前、あれだけエィストがどうの言ってて気づいてなけりゃ、俺達は底抜けの馬鹿だろ。それにな、お前が幾ら馬鹿でも、知りもしない奴に『宝をくれ』なんて手紙、送るか?」


 ため息混じりの仲間の言葉に、他の者達も頷く。そんな彼らを見て、ビルは仲間の言葉を肯定しながらも肩を落とした。本人としては、隠しているつもりだったようだ。


 そんな彼の態度を見るよりも早く、アベリーは懐から何かを取り出してビルの近くまで走り、彼の目の前にそれを突き出す。


 それは、写真だった。虹色の髪の青年と、少年が仲良く写っているそれの、少年の方をアベリーは指さした。


「これ、お前だろ。どっかで見たと思ったら、やっと繋がったぜ」


「ん……あぁ、そっか。その写真、まだあったんだ」


 言葉がビルの耳に入るよりも、ビルがその写真を懐かしそうに見て、普段の彼とは全く違う、子供のような口調で独り言を呟く方が早かった。その後でビルはアベリーの言葉を聞き、何も言わずに静かに頷いた。


「どうやら、マーカスはお前の事を忘れていたらしいな。覚えていたら、もっと平和的にやれただろうに、残念だ」


「……ええ、本当に。挨拶ついでにドッキリ気分で財布を寄越せ、なんて言ってみたら、忘れてやがったんでね、つい本気になって、ああ、残念でならない」


 そういうビルは若干ふざけるように、しかしその底に悲しさを浮かべていた。


 話を終えると、ビルは少し不安そうにアベリー達を見る。次に何を言ってくるのか、彼らにはよく理解出来た。


「で、どうします? 俺はエィストさんに頼んで自分が望む限り生きていられるようになった。こんな俺は、まだボス達と強盗やってていいと思いますか?」


 どうやら、本当に彼は二百年生きているらしい。実感を得たアベリーは、しかしビルに対する認識を改めなかった。周囲の者達も同じ考えであるらしく、ビルに対して呆れるような顔を向けている。


「当たり前だろ、何年生きようがお前が重要なチケットを落としてくる馬鹿なのは変わらん」


「ぶっちゃけ、お前が実は爺でもどうでもいい話だよな。馬鹿すぎて」


「これから強盗に入る相手に手紙送ってお知らせするような奴の扱いを変えるのは、無理だよなぁ?」


 ビルの仲間達は、口々彼を罵倒混じりの言葉で受け入れる意志を表明した。皆、口振りからは悪意が見えても、目や雰囲気はビルを認めているのだ。そして、最後とばかりにアベリーは笑う。


「まあ、お前が何であっても、今日の夜は寝てるお前を靴で叩いてやるのは変わらないがな」


「……それ、マジでやるんですか」


 苦笑したビルの言葉に、周囲はもちろんだとばかりにいい笑顔で頷いた。


「まぁ、いいけどな……あ、出た」


 思わず肩を落としていたビルが、唐突に何かを見つけたような顔をする。出口、ではない。それはもう他の者達にも見えている。彼が言いたいのはそれではない。


 ビルが独り言のように呟いたその時、ほぼ同時に他の者達も事態に気づき、銃を構えた。それと同時に、銃を持った集団が視界の外から現れて、即座に出口を塞ぐように陣を敷いた。全員が全員、やはり殺気立っている。


 逃げ場はなく、直線上に存在する機関銃の山に、しかし彼らは恐れなかった。いや、恐れる前に呆れた。何故なら、それらが現れた瞬間、スタンリーが何故か苛立ったような、疲れたかのような表情で前に出て、


「まったく入る余地の無い話を隣で延々とされると、なんか居心地悪くなるんだよなぁ!」


 と叫び、恐らく先ほど現れた警備員達から奪ったのであろう二丁の機関銃を乱射したのだ。話をしていた彼らより、スタンリーは素早く相手の存在に気づいていたらしい。


 そんな彼の行動で相手は出口を塞ぐ事などあっさり忘れて、ある者は逃げ去り、ある者は足を負傷し這って逃げ、ある者はやっとの事で銃を構えた瞬間、飛んできた小石が銃口に入り込んで撃てなくなった。


「抱えられながらでも入るんだな! でもこれってどういう記録になるんだろ?」


「うーん、凄い記録?」


「凄い記録! ちょっと適当な感じだけどそれでいいや!」


 小石を投げたのはニコライだった。実は話に聞き入っていたヘクターとは違い、ニコライは話に飽きて暇潰しで転がっていた小石を拾って弄んでいたらしい。


 そんなスタンリーとニコライの活躍で、出口は一瞬にして開かれた。その状況にアベリーは思わず安堵の息を吐いて、まずニコライに感謝の言葉を告げる。


 ニコライはそれに少し嬉しそうな顔をしつつも、自分を抱えているダグラスの顔を見た。


「礼ならいらないぞ!」


「広間まで道案内してもらったからな!」


 どうやら、この二人は本気で言っているらしい。それを知ったアベリーはダグラスの顔を見て、彼が小さく頷いたのを確認するとただ「そうか」とだけ言い、二人の少年への礼を終えて、スタンリーの方を向いた。


「本当に助かった。俺達だと、犠牲者が出ていたかもしれないからな」


 そう、スタンリーは話に入っていけない事に苛立っていた訳ではない。乱射しているように見えた機関銃も、よく見ると『相手が逃げるような』位置に当てられていたのだ。


 双方に死者が出ない戦い方だ。そこまで気づいていたアベリーの言葉に、スタンリーは笑った。


「やっと気づいたんだが、お前等、かなり甘いだろ。だからな、死人は出ない方向で行ったんだ。撃たれかけた時は冷や汗かいたけどな」


「はは、そうだな。どこまで行っても俺達は悪党だが、まあ、死人は出ない方がいいのは確かだ。改めて、礼を言う」


「あ、礼はいいんだ。その代わり……」


 スタンリーはそう言うと、ビルの方を見た。怪しげな視線に、ビルは思わずスタンリーから心理的にも距離的にも十歩程遠ざかる。


 そんな彼の態度を見たアベリーがやはり心理的に一歩遠ざかりつつ、スタンリーにまるで恐ろしい物を見るような目を向ける。


「お前……まさか……」


「そんな趣味ねえよ、頭の中死んでるんじゃねえか。そうじゃなく、ビル君、いや年上だしビルさんか、本当に二百年前ここに住んでたのか?」


「あ、ああ。そうだ」


「話を聞かせてくれ。実際に生きてた奴から『島』の話を聞けるなんて、どんな歴史書を読むより価値がある」


 そこでようやくビル達はスタンリーの視線の意味を理解する。つまり、彼は『島』の歴史に強い好奇心を抱いているのだ。ならば、当時を生きるビルの話に興味を持つのも仕方のない話だった。


 アベリー達は心理的な距離を元に戻し、スタンリーに謝罪を入れるとビルの方を見た。彼らも、その話には興味があると言いたげだ。ビルは小さく頷いて、スタンリーに近づいた。


「ああ。勿論いいさ、マーカスと違って、俺は今も昔も若い、ちゃんと二百年前の事も覚えてるぞ。それが脳で覚えてるのか、それとも別の何かなのかは、知らないけどな」


 ビルは何らかの意図を含めた言葉で、スタンリーの頼みを承諾し、視界に入ってきた物を理解して笑みを浮かべた。丁度その時、少し離れた場所に船が現れたのだ。そう、彼らがこの『島』に入ってきた時の船が。


 しかし、大半の者達は訝しげにその船を見ている。まるでありえない物を見たような、そんな目で。


「……何故動いている?」


 アベリーの呟きが全てを表していた。船は現在でも彼らの仲間が制圧している筈なのだ。途中、スタンリーに倒されるという事態が発生したが、全員が意識を取り戻しているのは報告されていた。そんな彼らが居る以上、船が勝手に動くというのはあり得ない。


 だというのに、船は動いている。アベリー達の大半はそのおかしさに気づいて、船を観察しているのだ。


「……いや、大丈夫そうだ。そんな気がする」


 彼らの困惑や戸惑いを分かった上で、スタンリーはそんな事を言う。根拠は無いが、自信を感じさせる。そんな口調だ。


 勘で分かるのか、とアベリーがそんな目を向けたその時、スタンリーの銃から逃げていなかったのであろう数人が現れた。気配を極力抑え、アベリー達が近づいてくるのを待っていたのだろう。


 その者達は容赦無く銃を構え、アベリー達がその前に相手を射殺しようと同じように銃を構えた瞬間、目の前に居た者達の銃は次々に壊された。


「何! ……いや、これは……」


 彼らの銃を破壊したそれが恐ろしい程の精度で放たれた銃弾である事をアベリーは即座に理解し、それと同時に銃を失って困惑していた者達を気絶させる。


 彼らを気絶させたアベリー、そして彼の仲間達は銃弾の主が何者なのか考えて、すぐに思い至った。というよりも、その主、見覚えのある男が自ら近づいてきたのだ。


「ボス、無事ですか!? って血が……!」


 そう、現れたのは彼らのよく知る仲間、船の制圧を頼んだ者の一人だった。その男は慌てた様子でアベリーのすぐ近くまで走り、彼が足や腹のあたりに傷を負っている事に気づいて心配そうな顔をする。


 そんな仲間の態度を見てアベリーは心の底から安堵の息を吐いた。船を制圧させた者達には何も情報が行っていない筈なのだ、意識を取り戻した警備員達に攻撃されている恐れがあると彼は警戒していたのだが、何があったにせよ彼は無事のようだ。


「大丈夫だ、気にするな」


「いやでも……血ですよ?」


「気にするな。それより、船はどうなってる? お前以外は生きてるか?」


 なおも心配そうな目をする男に、アベリーは少し困った顔をしつつも船の状況と、仲間の無事を確かめる事を優先する。


 目の前の男は傷一つ負っていないが、それ以外の者達が無事である事はまだ分かっていないのだ。


 そんな彼の思考を理解した男は、少し嬉しそうな顔をしつつ、彼の言葉に答える事にした。


「とりあえず全員無事です。周辺を警備してた俺以外は船室で船を移動させてる真っ最中ですけどね」


 帰ってきたのは理想の回答だった。アベリー達はまた安堵を覚え、全員で安堵の息を吐く。そこで、アベリーは一つ疑問を覚えた。


 船を動かす、という行動は計画になかった事だ。敵の襲撃があっただけならば、アベリー達が逃げ損なう事の無いように船を動かさず、彼らの帰りを待っていただろう。だが、船は動いていたのだ。


「どうして船を動かしたんだ? お前らには何も伝えなかった筈だが……」


 その疑問をそのまま男に聞くと、男は少し困惑した表情を浮かべた。船を動かした事に対する物ではない、それがアベリーにはなんとなく伝わってくる。


 では何なのか、とアベリーが考えながら男の言葉を待っていると、男は起きた事をそのまま伝えるような口調で言った。



「それが……フードを被った奴が攻撃されてた俺達を助けて、何が起きているのか教えてくれたんですよ」



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 そんな会話が行われているのと同じ頃、広間では大量の人間が倒れていた。まるで死体の山のようだったが、そく観察した者なら全員が全員、息をしているのが分かっただろう。


 その人間が倒れている場所で、一人の女が壁に寄りかかって座り込んでいた。その女は血を大量に流し、疲れきった表情を浮かべている。何も知らない人間であれば、それを行った何かの犠牲者だと感じてしまうような光景だ。


 だが、そうではない。何故なら、彼女こそがその状況を作った張本人であるからだ。


「はは、疲れたな……流石に、この人数を無傷で倒すのはきつい」


 そのカミラは小さく呟いた。声にも普段ほど力が感じられない。それでも笑みだけは絶やしていないが、やはりそこからも疲れた雰囲気が感じられる。


 カミラは広間に居た警備員達、そして観光客の格好をした者達の全員を殺さずに気絶させていた。初めから殺す気など無かった為に、それは彼女にとって満足出来る結果だ。しかし、彼女はあまり嬉しそうではなかった。


「ああ、まったく。随分傷を負ったな。流石に見飽きた」


 そう、彼女は多数の傷を負っていた。元々六発の銃弾を受けた事によって、少しばかり動きが鈍っていたのだろう、普段の彼女であれば避けられる攻撃を受けてしまったのだ。


 彼女はそれが不満らしく、自分の傷を見ては何度かため息をついていた。


「こんな連中じゃなぁ……ダグラスみたいな強いのにやられたなら嬉しいし、言い訳も立つが……」


 カミラは大げさな程嘆いていた。しかし、彼女と戦った者達は決して弱かった訳ではない。むしろ、マーカスの仇を取る為という意志もあって、アベリー達ほどでは無いにせよそれなりの実力を持った彼らの動きは、彼らにとって人生最高の物だっただろう。


 しかしカミラにとっては傷を負った事を嘆く程度でしか無かったらしく、彼女はまたため息をつき、少し吐血する。


 彼女は常人なら致命傷になっている傷も幾つか負っているのだ。出血量も含めて、彼女でなければ何時死んでもおかしくない状況と言えるだろう。


 それでも彼女は体を動かす気はあるらしく、疲れきった動きではあるが、壁に寄りかかりながら立ち上がった。


「あーぁ……スタンリー達は無事に逃げたかな……」


 ダグラスや二人の少年、そしてスタンリーの安否を気にしながらも、彼女はゆっくりと歩き出す。しかし、彼女は内心では『島』から出る事をほとんど諦めていた。彼らが逃げる事に成功したのであれば、船はもう無いのだ。


「一時間もすれば、普段通り動けそうだが……今は無理かな」


「……一時間すれば治るのか、それ。ああ、船は間に合うぞ? 何なら、送っていってやろうか?」


 とんでもない事を呟いたカミラの耳に、驚愕を感じさせる声が背後からやってきた。その声に、カミラは疲れも忘れて振り向き、心から嬉しそうな顔をする。


 その声の主は、フードを深く被っていた為に顔が見えなかった。だが、カミラにはそれがどのような人物なのかがよく分かった。何故なら、その者こそ、この『島』彼女が知りたかった事を全て教えてくれた人物なのだから。


「いえ、治りません。でも、一時間あれば体力が戻ってくるので。もしかして、心配してくれたんですか? カイムさん」


 やけに丁寧で、相手を敬う気持ちを前面に出したカミラの言葉を聞いたフードの何者か、カイムは自身の顔を隠していたフードを取って、彼女と顔を合わせた。ニルの雰囲気が少しだけ感じられる、その顔を。


 カミラは人生で上位に位置される程幸せを表した顔をする。彼女は目の前の者に対して浮かべるに値するのはそれだけだという確信があった。カイムは照れくさそうな顔をして、微笑む。


「そうなのか、ならいい。で、だ。送っていって欲しいのか、欲しくないのか?」


 カイムは目を細め、別の何かを見つめるような顔をする。カミラにはそれが何を意味するのかがよく分かった。カイムは、娘であるニルの姿を知らないのだ。


 カミラはその気持ちを理解しつつも、他に聞かねばならない事がある、と、その考えの邪魔をする事を心から悪く思いながらも彼に質問をする。


「ところで、船は大丈夫ですか? 予想では、誰かが襲いに行くと思ったので」


「ん、ああ……襲われた所を助けてやった」


 カイムの声はどこか楽しげだった。助けた事を喜んでいる訳ではない事が、彼女には理解出来る。カイムの外見はニルとあまり似ていなかったが、精神は、それなりに似ているのだ。


「私と話すのはそんなに楽しいですか?」


「ああ、そうだな。楽しい、凄く楽しいさ。俺の知らない俺の娘を知ってる奴と話すのは楽しい物なんだな」


 二人は楽しそうに互いの顔を見つめる。カミラは自分の予想が正しかった事を確信して、満足げに笑う。カイムは、彼女がそんな事を知っていると理解して、少し苦笑した。



 しばらくそんな事を続けた二人だったが、カイムが唐突に何かを思い出したような顔をする事でそれは終わりを告げ、カミラもその表情で何かに気づいたのか、少し焦った表情を浮かべた。


「船の事を忘れてたよ、お前を送っていくのをな」


「……どうしよう、遅れたかもしれません」


「いや、大丈夫さ。もう出航したようだが、間に合う」


 何故この場に居て出航した事が分かるのか、そしてどうやって送るつもりなのか、カミラは疑問に思ったが、すぐにそれくらい出来て当然かと納得した。


「ああ、送って欲しいで……わわっ」


 カミラは思わず声を上げた。彼女がカイムに意志を伝えた瞬間、彼は彼女をいきなり抱えたのだ。俗に言う、『お姫様抱っこ』で。あまりにも自分に似合わない運ばれ方に、カミラは少し身じろぎする。


 それが伝わったのだろう、カイムは笑みを浮かべて彼女にその意図を話す。


「俺は瞬間移動とか、そういうのが出来るわけじゃな……いや出来るが、人を連れては出来ないんでな、普通に移動するなら、これが一番楽だ」


 彼の口調は少し早かった。どこか慌てるようなそれを聞いて、カミラはその理由を察し、その上で言及しない事を決める。その代わりにからかうような雰囲気を込めて少し笑い、カイムの目を自分から逸らさせた。


 カイムの反応が自分の思った通りの物だった事に満足したカミラは、自分がカイムの腕の中に居る事を思い出して楽しい気分になった。自分にそんな事が出来る物に会うのは、何時ぶりだろうか、と。


 それを見たカイムが訝しげにカミラを見ると、彼女はクスクスと笑い出す。


「ふふっ、すみません。あなたを見ていると、ニルさんを思い出すから、助けてくれると幸せな気持ちになるなって」


「嘘だろそれ、嘘だろ……まあ、いい。送ってやる」


 深くは聞かない事にしたのだろう。カイムは彼女の言葉を聞いてすぐに走り出した。恐ろしい程に早かったが、カミラは特に驚かず、むしろ思ったより早くない事に彼女は一瞬疑問に思ったが、すぐに理解した。何も言わないが、カミラを抱える態度に気遣いが見えるのだ。


 思わず、カミラはカイムに礼を言っていた。が、その理由がわからなかったのだろう。カイムは少し驚いたような表情になり、そんな表情がニルと重なって、カミラはまた笑い、自分にかかる風を感じながらも一言だけ呟いた。



「ああ……まったく、幸せだ……」



 そんな事を言っていた彼女はまったく気づいていなかった。自身の体についた傷が、綺麗に無くなっているという事に。そして、それをした者がカイムであるという事にも。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 アベリー達強盗団とスタンリー、そしてニコライとヘクターは全員が船に乗り込む事に成功していた。船員らしき者達も、警備員達も、フードを被った者によって倒されていたのだから、当然と言えば当然なのだが、彼らは船内でも敵と遭遇する事も無く、安全に乗り込むことが出来た。


 それを確認したアベリーは少し考える。一体、フードの者とは何者だったのかという事を。恐らくは相当の実力者であろうその者は、自身の仲間を助け、アベリー達の状況を教え、行動させたというのだ。何が目的なのか、そして、一体どこに居たのか、何一つ分からなかった。


 そのフードの者ことカイムは今、カミラを抱えて走っているのだがそのような事を彼が知っている筈も無く、アベリーは考えていた。


「ボス? 何か?」


「ん? ああ、色々とな」


 考え続けていたアベリーの耳に、ダグラスの声が響く。彼の両脇には既に少年達は居ない。船に乗った段階で少年達を降ろしたのだ。そんな彼はどこか両脇を寂しそうにしている。


 そんな彼の姿に苦笑しつつも、アベリーは彼の言葉でフードの者を考える事を止め、その代わりに周囲の人間の様子を見る事にする。


 彼の仲間達は少し疲れたのか、船を動かしている一部を除いて座り込み、雑談をしている。緊張が解けたのだろう、何やらトランプを取り出している者まで居た。


「ってお前等、こんな時までか」


「そりゃあもう、やる事ありませんし」


 それもそうだ。彼らがやる事はほとんどない。せいぜい船周辺の監視くらいだろう。それも他の者達がやっているのだから、やはり彼らにやる事は無いのだ。それに気づいたアベリーは仲間の雑談や賭に適当に相づちを打ちつつも、また他の者を観察する事にした。


 次に視界に入ってきたのはスタンリーと名乗る男だった。彼は船の中を落ち着き無く動き回り、何やら捜し物をするかのような態度になっている。


 その行動に少し興味を持ったアベリーが近づいていくと、スタンリーは彼に気づいて怪訝そうな顔をし、すぐに彼の意図を察してため息をついた。


「いやそれがな……カミラの奴、戻ってきてないみたいなんだ」


 スタンリーの言葉に、アベリーは驚いた。スタンリーがカミラを待っていた事ではなく、カミラがまだ戻っていないという点に。今この瞬間、いつの間にか船に居てもおかしくはないと感じさせるのがカミラなのだ。


「俺達を逃がしてくれた恩もある、もう少し、待つか?」


 思わずアベリーは口を開いていた。彼らが逃げる最中、ほとんど邪魔が入らなかった原因がカミラである事は全員が分かっている。しかし、アベリーはそれ以上をカミラが行った事を察していた。


 あの広間に居た者達が全員だと考えると、警備員達の数が少なすぎるのだ。恐らくは、意識を取り戻した警備員達も広間に向かっていったのだろう。そうアベリーは予測していた。


 そして、そんな考えをスタンリーに告げると、彼は一層難しそうな顔をして、『島』を見つめ、アベリーに対して静かに首を振る。


「残念だが、俺達が危険だ。それにあいつなら……一時間もすれば体力が戻ってるだろう、『島』の連中を脅して帰ってくるくらいは片手間でも出来るだろうさ」


 「どんな化け物だ」、思わずアベリーはそう言いそうになって、命の恩人をそう呼ぶのはまずいと気づき、慌てて口を閉ざす。彼が何を言おうとしたのか気づいたスタンリーは、無理もないとばかりに肩をすくめた。


「まあとりあえず、俺達は無事だ。今はそれを喜ぼうじゃないか、船に乗ってりゃひとまず安……全……」


 スタンリーの言葉は最後まで続かず、それを見ていたアベリーの目には、彼が急に冷や汗を大量に流しているかのような青い顔になった事が写る。


 明らかに尋常な事態ではない。即座にそれを判断したアベリーは、唖然とした表情で固まっているスタンリーの肩を何度か叩き、話を聞く事にした。


「おい、おい! どうした?」


「……この船、連中が用意した物なんだよな」


 その一言で、スタンリーは事態を悟った。確かに、船は『島』の住人、というよりもマーカスが用意した物で、アベリー達はほとんど触れていない。アベリーは事前に観光用の船に危険な物があるわけがないと判断していたが、彼らは事前にアベリー達を知っていたのだ。


 その瞬間、船内の危険性は何倍にも膨れ上がり、アベリーは怒鳴るような勢いで仲間達に指示を出す。


「船内に爆発物の類か、怪しい機械か、毒ガスか、その他の危険物がある可能性が高い! 手の空いてる奴はすぐに探せ!」


 言葉を聞いて、アベリーの仲間達は一瞬呆けたような表情になったがすぐに危機感を覚えたのか、ただ一言アベリーに了承の意志を伝えると、手に持っていたトランプなどを床に放り投げて行動を開始した。


 アベリーやダグラスを含めた全員が全員、そのような簡単な事に気づかなかった事を後悔し、内心で頭を抱えている。例外となりえるのは二人の少年だが、今は船のどこかで風景を眺めているらしく、その場には居ない。


「あぁ……やっちまったな。間抜けにもほどがある」


「そうでもないさ、いや、ある意味そうかもしれないけどね」


 不意に、背後から声がかけられた。とても機嫌が良さそうな、良く通る女の声だ。だが、スタンリーとアベリーを除く全員が声を耳に入れた瞬間肌が泡立つような悪寒を覚えて銃を抜き、背後に居る者の存在を確かめる。


「やあ、全員ちゃんと船に乗ったみたいだね、結構結構」


 そこには、カミラが居た。ほぼ全員に銃を向けられながらも、その顔は悪戯が成功したと喜ぶような笑みを浮かべている。どうやら悪寒の正体は彼女がわざとそう感じるように話しかけた為に感じられた物だったようだ。


 それを初めから何となく理解していたスタンリーとアベリーは振り向く事すらなく、小さなため息をつく。


「驚かすなよ。まったく……」


「ああ、悪いな。どうにも、今日は調子がおかしくてね、嬉しくて幸せで、どうしようもない」


 そう言ってどこか遠くを見るカミラの表情は、言葉通りとても幸せそうな物だった。数秒そんな顔をしていたカミラだったが、すぐに本題を思い出したのか一度咳払いをして、少し真剣な表情でアベリー達の方を見る。


「で、危険物の恐れ、だったな? それは大丈夫みたいだ、さっき聞いた」


 彼女の言葉は明らかに誰かから聞いた者だった。だが、同時に、何故か強い真実味を感じられる言葉でもあった。アベリーは根拠の無い彼女の言葉を否定する事が出来ず、思わず彼女に質問をしていた。


「誰に?」


「内緒さ」


 そう言って、カミラは小さく舌を出して返答する。冷徹そうな容姿や、人を軽々と吹き飛ばす実力からは微塵も想像する余地のない、そんな態度。それは、何となく可愛らしかった。


 しかし、スタンリーはそのような事はどうでもいいとばかりに彼女の他の部分に違和感を持って、じっと見つめている。


 服装だ。最後に見た時既に六発の銃弾を受けていた彼女は、大量に出血していたのをスタンリーは覚えている。ならば服はその血がついた普段着の筈なのだが、彼女が着ているのはこの『島』では見慣れた、警備員の服だった。


 どうやら普段着の上から着ているらしく、その服の下に血の付いた穴だらけの服が小さく見えていた。幾つか穴は開いているが、血はほとんど付いていない警備員の服を見て、スタンリーは訝しげな顔をする。が、そんな時、船の別方向から男が現れた。


「ボス! こっちには危険物の類はありませ……げっ!」


「ん、ああ! この服の持ち主じゃないか!」


 そう、現れたのはアベリーの仲間の一人であり、警備の制圧を任された者であり、カミラに上着を奪われた者でもある男だった。


 男はカミラの姿を確認したかと思うと、即座に逃げようと元来た方向へ身を翻したが、ダグラスにあっさりと首根っこを捕まれてカミラの前に放り投げられる。


「悪いな、まだ借りてるんだ。無断で。まあ元々『島』の連中から奪った物のようだし、私が使ってもいいだろう?」


 小さくウインクをして、カミラが行ってもいいとばかりに男の肩を叩くと、男は疲れたような顔をしたまま、「他の場所も見てきます」とだけアベリーに告げると去っていった。


 少し哀れな者を見るようにアベリーは男にしばらくの間温かい目を向けていたが、やがて気を取り直し、カミラが何故警備員の服を着ているのか考えていると、それを察したのであろうカミラ自身から答えが返ってくる。


「いやそのな、沢山銃弾を撃たれたおかげで服が穴だらけになってしまったから、とりあえず着ているんだ。あ、心配するなよ。傷は治ってる」


 今度はほぼ全員が首を傾げた。先ほど彼女の姿を見てから、まだ三十分も経っていない。少なくとも六発以上の銃弾に当たって、それが全て治っているとはどういう事なのだろうか、全員の気持ちは一つだった。


「まあ細かい事は気にしなくていいさ」


 説明するのが面倒臭い、カミラの目はそう語っていた。確かに、あまり深く考えても仕方がない。そう悟ったアベリーはすぐに他の事を考える事にする。


「その服に入ってた鍵は、どうやってあのガキ共の所に戻ってたんだ?」


 考え続けるアベリーの隣にいつの間にかビルが立っていた。『今現在彼が持っている』金の鍵の動きに少なからず興味があるらしく、身を乗り出しているようにも見えた。


 そんな彼の態度に、周囲は思わず首を傾げる。だが、アベリーにはその理由が理解できた。あの鍵は、『元々ビルの物だった』のだろうから。


「さあ? 知らないな、そもそもそんな物の存在にすら気づかなかった」


 その言葉にビルは至極残念そうな顔をしてカミラから一歩遠ざかる。彼女を恐れているようでいて、その瞳は『同族』を見るような色があった。


 アベリーにもスタンリーにもその理由が伝わってきた。そう、この二人と、今日死んだマーカスという男は恐らく、「再会を待っている者達」なのだ。それを確信させたのは、カミラがビルに対して今言った言葉だ。


 彼女は、こう言ったのだ。「きっと、近々待ち人に会えるさ」と。そして、ビルはその言葉に、勇気付けられたのか、彼らしくない程の笑顔を持って頷いた。どこか警戒心混じりだったカミラへの視線が、少し緩い物に変化した瞬間だった。


「ともかく、だ。明日からは町で全員散り散りなわけだしな。互いの名前くらい確認し合おうじゃないか」


 朗らかな笑みを浮かべたカミラは、全員に対してそう言った。名前を聞かれていたダグラス以外の全員が怪訝な顔をしていたが、彼女はそれに構わず、自分の事を指さした。


「ちなみに、私は知っての通りカミラ・クラメール。多分君ら全員よりは、まあ、強い方だと思うから、よろしく」


 彼女のかなり強引な言葉で、アベリー達は思わず「よろしく」と返す。その瞬間から、言ってしまった物は仕方ないと一人一人、危険物を捜索していた者達も含めての自己紹介が始まった。




「……あ」


 今日知り合った者達が名前を確認し合う中、一人の男が呟いた。どこか間抜けなそれは、しかしアベリー達強盗団に凄まじい『嫌な予感』を覚える、いや、正確には『大失敗』を予感させる物だった。


「思い出したんだけどよ……」


 男の真剣そうな口調に、周囲の人間は一瞬身を固め、異常事態に備える。しかし、次の瞬間、予想の遙か斜め上を行く内容に全員の空気が凍る事になった。


「……宝、持って来るの忘れた」


 一瞬、その場に居た全員が呆気に取られた表情で「……は?」と呟く。しかし、その意味を理解した途端、ある者達は明らかに肩を落として「今日の武器弾薬の出費は何で払うんだ」と顔を見合わせ、ある者は馬鹿を見る目で彼らを見つめる。



 そして、ある者、というよりカミラは、笑い転げた。笑って、笑って、腹を抱えて笑って、楽しく笑っていた。




 そんな彼らを乗せて、船は、『島』から離れていく、その日と事件の終わりを告げるかのように、ゆっくりと、ゆっくりと-----

エピローグを書き始めます。今週風邪を引いて、げふげふごほごほ言いながら書きました。案外はかどる物ですね……

2012/6/17

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