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Sweet&Cool  作者: みずの
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Link 11  side:Takumi


「あれ?」

 一時間ほどの会議を終えて数学準備室に帰ってきた名取先生は、入ってくるなりそう言って眉をひそめた。

「…どうかしました?」

 そちらを振り返らないまま、俺は答える。何のことを言っているのかはわかっていたけれど、あえて気づかないフリをした。


「夏川は?来てねぇのか」

 想像通りの問いを投げかけてきながら、先生は一番奥の自分の椅子を引く。

「今日から期末テストに向けて友達と勉強するらしいですよ」

「ほー。そいつは次のテストが楽しみだ」

 先生は、その話に何の疑いも持っていないようだった。感心したように呟いて、椅子に座ると同時に自分のパソコンを立ち上げる。



 俺だって、恐らくその言葉だけなら信じていたと思う。だけど…彼女のその「ここへ来なくなる理由」は、嘘なんじゃないかと思った。確信を得ているわけじゃないけれど…あの子のいつもと違う違和感のある笑顔を見たせいで、そう思わされた。



 いつも曇り一つない表情で笑うから…今日の笑顔は、作り笑いなんじゃないかと感じて…。そうしてそんな顔を彼女にさせているのは、他でもない自分なんだろうということにももちろん感づいている。




「准一」

 そんなことを考えていた俺に、先生がふと向こう側から呼びかけてきた。ハッと我に返ってそちらを向くと、先生はパソコンに視線をやったまま言葉を次いだ。

「この前…何で春日はあんな状態になっちまったんだ?」

 尋ねられて、俺は「そういえば」とここ2日間の自分を振り返る。



 あの後、先生には車を出してもらったお礼と愛海がすぐに落ち着いた報告はしたけれど、いきさつまでは話していなかった。

 実は…と、金曜日の放課後に愛海が柴田一真と遭遇してしまったことを説明する。一連の流れを聞き終えた先生は、「…そうか」と小さく呟いた。その頃には、もうパソコンではなくて俺の顔を見て話を聞いてくれていた。



「…全然気づかなかった。中学時代、春日に惚れ込んでてお前を敵視してる奴がいるっていうのは聞いてたけど…。それが柴田だったのか…」

「まぁ、先生には名前と顔は教えてませんでしたしね」

「知ってたらもうちょっと何とかできたかもしれねぇよな」

 ごめんな、と続ける先生の言葉に、俺は大きく首を横に振る。それはどちらにせよ、どうしようもないことだったと思う。



 柴田がこの学校に転入してきた以上、誰もその接触を避けられはしなかっただろう。それ以前に、柴田がわざわざこの学校を選ぶことも…。恐らく、今回のことも…。全部、誰も止められないことだったに違いない。




 そう、誰のせいでもない。

 誰が悪いわけでもない。



 …あの日、愛海が傷ついた雨の日の出来事さえも…。




******




 翌日からは、何だかつまらない日が続いた。どこか世界が色あせてしまった気さえする。それに気づくと共に、その理由があの子の笑顔が近くにないからだと自覚した。



 思えば、先月彼女と和解して以来会わない日が続くことはほとんどなかったから…。いつの間にか、放課後の短い時間でも傍にいるのが当たり前になってしまっていた気がする。


 そして、自分がどれほどその「当たり前」に幸せを感じていたのか…。それすら思い知らされて、胸が痛む。



 …会いたい。でも、会えない。



 彼女の吐いた「嘘」の原因が、あの日俺が愛海を抱きしめたことだとしたら…俺にその資格はないからだ。




 愛想をつかされても、当然だった。彼女のことをどれほど好きでも、俺は愛海を拒むことができないから…。それが決して恋愛感情のものからでないと当人同士が知りえていても、第三者からはただの二股にしか見えないだろう。そんな状況に、いつか光が差すことを望んでいた彼女が…諦めて俺に愛想を尽かしても仕方のないことだった。




「あ、七夕だー」

 ボーっとそんなことを考えていた俺の隣で、愛海が声を上げた。どうやら呆けていた俺の前には、七夕祭りのポスターが貼ってあったらしい。その視線の先を追って、愛海はどこか目を輝かせて笑う。その声にハッと我に返ると、俺はその場から歩きだした。


「行こうよ、タクミ。テスト終わったらさ」

「…受験生なんだけど」

 駅のホームの壁側を歩きながら、俺はそう苦笑いを返す。少しだけ頬を膨らませた愛海は、俺の後をついてきながら抗議口調で続けた。



「この前新しい浴衣買いに行ったのにぃ」

「また?去年も買ってただろ」

「今年は違う色にしたかったの」

「……そう」

 呆れたように曖昧に笑うと、愛海はねだるように腕をからめてくる。珍しく甘えるような態度で、下から俺を見上げてきた。



「……わかった、行くよ」

 譲歩するように言うと、愛海は「やったぁ」とご機嫌に笑う。相変わらず自分でも甘いなと思いつつも、そう答えるしかなかった。




 昔から、そうだ。愛海が俺だけには高圧的になれるのも甘えてくるのも…。

 そして俺が、それを全面的に受け入れられるのも…。

 幼い頃からの、「家族愛」のようなものだった。



 それが「恋愛関係」に形を変えたところで、うまくいかないはずはないと思っていた。


 …そう、あの子に出会うまでは…。




「………」

 急に、どこか息苦しさを感じる。

 会いたい気持ちが飽和状態になって、胸を軋ませたからのようだった。



「…タクミ?」

 不思議そうに俺を見上げる愛海の顔を、俺は振り返ることができなかった。





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