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Sweet&Cool  作者: みずの
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Link 10  side:Haruka


 マナミ先輩が壊れたようになったその日…。

 結局私たち5人は学校で別れたけれど、夜になって急に華江が私の家を訪ねてきてくれた。


 華江は、いつでも冷静沈着で周囲を見ている分、周りの人間の感情の変化に敏感だ。それできっと、私を心配してきてくれたんだろうということがわかった。



「大丈夫?ハルカ」

 辛いのは、きっとマナミ先輩本人とタクミ先輩。

 そして…一真。

 私なんかが傷ついたりする資格なんてない話なのに、それでも私は落ち込んでいる。私の部屋に入ってきた華江は、それすらお見通しなようで、一番にそう尋ねてくれた。



「華江に隠し事はできないね…」

 昔から、そう。華江はいつも私を気にしてくれていて…。良い友達に恵まれたなぁと、常に思う。

「ホントはね、真帆もハルカの心配してて…今日も来たいって言ってたのよ」

「真帆が? …そっか。真帆の家、門限厳しいもんね」

「うん。だからこれ預かってきた」

 そう言って華江が持ち上げて見せたのは、学校の近くにある有名なケーキ屋さんの箱だった。



 高級ホテルで修行を積んだというパティシエが最近オープンさせたお店で、ちょっと高いけれどたまに奮発して食べに行ったりしている。私がそこのミルフィーユを好きなのを知っているから、真帆は気を遣ってくれたんだろう。2人のそんな優しさが、なんだかやけに嬉しかった。



「ありがと。…ね、華江、今日良かったら泊まって行かない?」

「え、でも急にじゃ迷惑でしょ?」

「華江だったらうちの家族も大歓迎だよー。久々にパジャマパーティしよ」

 ニッコリ笑って答えると、華江も「そうね、じゃあお言葉に甘えて」と笑顔を見せた。華江とは小学校から一緒なので、親同士も知らない仲じゃないから許可は簡単に下りるだろう。華江は家に電話をしてから私の家族と夕飯の食卓を囲んでくれた。その間、ずっと私は楽しくて笑いっぱなしだった。…それまでは家族には心配かけたくなかったから無理して笑おうとしていたけれど、華江がいてくれたおかげで自然と笑うことができた。





「…華江、私間違ってたのかも」

 今私が考えていることをポツリと話始めたのは、お風呂に入って後は寝るだけとなった時だった。ベッドの上に座って、私は急にそう話かける。同じように少し居ずまいを正して、華江は下に敷いた布団の上に座って私を見上げていた。



「私が思ってたよりずっと…マナミ先輩とタクミ先輩が抱えてるものっていうのは大変なことだったみたい」

 今日実感せざるを得なかったことを、私はそう口にした。



「私はタクミ先輩を想えるだけで幸せだったし…そう言ってたのは嘘じゃないよ。でも、あの2人が付き合ってるのは訳ありで…もしかしたらタクミ先輩も少しは私のこと気にしてくれてるのかもしれなくて…。そう思うと、やっぱりいつか振り向いてくれるかなとか、少し期待しちゃってた」

 私の言葉に、華江は黙って耳を傾けてくれている。膝を折ってそこに顔を埋め、私は小さくなって続けた。


「いつか先輩が私に本当のことを話してくれるのを信じて、待ってようと思ってた」

 それは、タクミ先輩本人にも誓ったこと。



 でも………。




「今日のあの2人を見て、きっと2人が抱えてる事実は私の想像以上に重いものなんだと思った。だとすると……私は、タクミ先輩を待ってちゃいけない気がする」

 私がそう言った時、華江が少しだけ息を飲むのが感じられた。「ハルカ…」と、心配そうに呼びかけてくれる。


「一真が、私に言ったよね。『タクミ先輩は私にホントのことなんて話さない』って。なんだか、その意味がわかる気がしたの」

 あの2人が抱えている事情というのは、きっとマナミ先輩の過去の傷で…。タクミ先輩は、ただマナミ先輩を守ってるだけ。そうだとしたら、確かにマナミ先輩のその「過去」をタクミ先輩が自ら私に話すはずがない。




「そうなると…きっと、私が待ってるとタクミ先輩の負担になる。それだけは絶対嫌なの。重荷にはなりたくないから…」

「でも…」

 そこでようやく、華江が私の言葉を遮った。口を挟んだ彼女に、私もゆるりと顔を上げる。珍しく、華江が少しだけ焦っているように見えたのは気のせいだろうか?




「タクミ先輩は、マナミ先輩じゃなくてハルカのことを好きかもしれないのよ?それならタクミ先輩だってハルカに待っててほしいに決まってるじゃない」

 華江の私を励まそうとする言葉に、ただ私は首を横に振ってしまう。それじゃダメなんだと、自分に言い聞かせながら…。



「もし…本当にタクミ先輩が少しでも私を想ってくれてるなら…」

 それなら尚更、待っていてはダメだと思う。



 タクミ先輩は、マナミ先輩を突き放すことなんてできない。きっと、そうするつもりもない。

 いつ終わるかわからない2人の関係を待ち続けるなんて…、私はよくても、きっとタクミ先輩にはプレッシャーにしかならない。

 もしタクミ先輩が私のことを何とも思っていなければ、私が片思いしていようが勝手に先輩を待とうが、無視していればよかったんだろうけれど…。


 言葉を濁した私だったけれど、華江もその続きは理解してくれているようだった。ただ口をつぐんで、私をまっすぐに見つめてくる。



「今日、2人を見て…決めたんだ」

 胸にある決意を秘めて、私はそう呟いた。何か言いたそうだった華江は、それでも私の意思を尊重してくれたのか、それ以上問いただそうとはしなかった。




******



 その後の土日の連休は、華江と遊んで過ごした。そして気づけば6月も半ばに差し掛かっていて、週明けには期末テストが2週間後に控えていることに気づかされる。

「…遊んでる場合じゃなかった…」

 月曜日の教室で冗談まじりに呟くと、前の席で華江が苦笑いを返してくれた。



「よぉ」

 HR10分ほど前に登校してきた一真は、わざと私の頭に鞄をぶつけて通りながらそう挨拶を降って寄越す。「痛いなぁ」と抗議するような目で振り向くと、そこにはいつもの俺様な笑顔を浮かべた一真がいた。




 …うん。一真も、連休中に気分を一新してきたみたいだ。

 憂鬱そうな表情も傷ついた顔も、もうそこに浮かべてはいなかった。恐らく…無理していることに違いはないんだろうけれど…。



「おはよ、一真。もうすぐ期末テストだね~」

「…なんだテメェ、その朝から憂鬱になる挨拶は。ケンカ売ってんのか」

「と、とんでもないです」

 目を逸らしながら小さくなると、華江と一真が同時に声を上げて笑う。いつも通りのこんなバカなやりとりが、今は何だかホッとする瞬間だった。


 真帆も向井くんも加わったけれど、誰も金曜日の出来事には一切触れなかった。一真の笑顔を再び曇らせたくなかったのもあるけれど、私たちがここで考えたって仕方がないことだからだ。



「期末テストと言えばさぁ、終わったら七夕祭りだよねー」

 真帆も、そんな何でもないような話題を振る。そういえば、と頷くと、真帆は少し目を輝かせて私たち4人を見比べた。



「ねぇねぇ、皆で行かない?七夕祭り」

 この地域では、毎年7月上旬に5日間ほどかけて七夕祭りを開催している。駅前の大きな商店街がその期間は驚くほど派手に飾りつけられ、毎年何万人という人が見物に押し寄せる。


「やだよ面倒くせぇ」

 真帆の提案を即座に切り落としたのは、言うまでもなく一真だ。俺様はこんな時にはノリが悪い。ぷぅっと頬を膨らませた真帆の肩を、私が「まぁまぁ」と軽く叩く。



「理不尽大王は興味ないみたいだからさ、4人で行こうよ。楽しいよねー、七夕祭り」

 そう言うと、華江が合わせて頷いた。

「そうよね。テスト終わって丁度いいかもね。結構屋台も面白いしね」

「あ、俺射的やりたいかも」

 向井くんも挙手しながら、ニコニコと笑顔で言う。



「残念だよねー、一人だけ来たくないらしいし」

「まぁいいんじゃない?きっと七夕祭りなんて子どもが行くものだと思ってるのよ」

「いやいや、実は射的とか金魚すくいとかがヘタで見られたくないのかも…」

「あ、それありえるー!」

 わざと一真に聞こえるように4人でクスクスと嫌味ったらしく話していると、隣でブチっと理不尽大王の何かが切れる音が聞こえた気がした。



「…っ、やってやろうじゃねぇか!射的も金魚すくいも!」

 キレてやけになった一真がそう言った瞬間、真帆と私は「やったー」と手を合わせる。それを見て「…意外にノリやすいのね、理不尽大王」と華江が笑っていた。



 テスト後の楽しみもできたところで、仕方がないのでしばらくは勉強に専念することにする。…でも、その前に私にはやらなきゃいけないことが残っていた。


 その決意を胸に、私はその日の放課後を待った。




******



 放課後になって訪れたのは、もちろん数学準備室だった。いつもと気分が違うからかどこか緊張してしまい、私は扉の前で大きく深呼吸する。「よし」と気合を入れてそこを開けると、中には先にタクミ先輩が来ていた。…名取先生は、不在のようだ。



「こんにちは」

 ニコリと笑顔を作って、私はいつもの場所まで行く。先輩も笑顔を返してくれたけれど、私と違って作り笑いのようには思えなかった。だからそれが、余計に胸が痛む。



「名取先生はいないんですか?今日」

 尋ねると、先輩は持っていたシャーペンをノートの上に置きながら頷いた。「臨時会議だって」と、答えが返ってくる。


 「そうですか」と小さく頷いてふと顔を上げた瞬間、正面から先輩とばっちり目が合ってしまった。至近距離で見る先輩の表情に、私は瞬時に金曜日に見た光景が脳内を駆け巡るのを感じる。…思い出したくない場面まで、思い出してしまった。




「…この前は…」

 そんな私の心の内を知ってか知らずか、先輩は改めて口を開く。聞きたくなさそうな言葉が続きそうだったけれど、その話題を避けて通るのは無理だろうから私もそのまま耳を傾けた。


「迷惑かけてごめん」

 無表情の先輩からは、何の感情も読み取れなかったけれど…。そんな風に言って、先輩は軽く頭を下げた。思わず大きく首を横に振って、「謝らないでください」と答えていた。


「私なら、全然気にしてませんから…。マナミ先輩はどうですか?」

「…あぁ、もう落ち着いてる…かな」

 気にしてない、なんて嘘をついた自分に、自分で嫌気がさす。本当は、思いっきり気にしてるくせに…。



 「良かったです」とニッコリ笑顔を返すと、先輩は少しだけ眉を上げて何かに気づいたように私を凝視してきた。……作り笑いが、バレたのかもしれなかった。

 それはそうだ。私は先輩みたいに自分の感情を隠すのがうまくない。今でもうまく「何でもないフリ」を演じられているとは思えない。



「あの、それで先輩…。話は変わるんですけど…」

 作り笑いに気づいて何か言われる前に、先輩の言葉を封じてしまおうと思った。改めて呼びかけて、相手に話す隙を与えないように言葉を継ぐ。



「実は、今日から華江たちと本格的に期末テストに向けて勉強することになって…」

 昨日の夜から、考えていた嘘。口が渇きそうになる中、必死で声を絞りだした。



「だからしばらく、ここにも来れそうにないんです」



 別に、約束していたわけじゃないけれど…。最近ではここで一緒にいることが多かったから、ちゃんと話しておかなければいけないと思った。



 先輩は、そう言われても何を思ったのかはわからない完璧なポーカーフェイスだった。「そう。頑張って」とだけ、普段通りの優しい声が返ってくる。その声音に一瞬だけ胸がズキっと痛んだ気がしたけれど、私はそれに気づかないフリをした。「それじゃ、さようなら」と頭を下げて、鞄を手に踵を返す。


 嘘がバレないように…慌てず、落ち着いた動作で数学準備室の入口へ戻った。何でもない風を装って、最後に少しだけ振り返って笑顔を見せて…。そうして私は、先輩にそれ以上追及させないままそこを出た。



 後ろ手にドアを閉めたところで、一気にドッと疲れが押し寄せる。嘘なんて、慣れないことをするものじゃない。


 それでも、タクミ先輩を待たないと決めた私にはそうするしかできなくて…。





「……さよなら、タクミ先輩」





 さっきとは違った意味で、私はそんな言葉を小さく呟く。誰にも聞こえることのなかったその声は、ただ空気に呑まれて消えていった。





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