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1話:幼馴染

外は太陽が沈み、真っ暗になっていた。

未来は目を覚ました後、倒れていた自由の介抱をしていた。

彼女は台所に立って、夕食作りを始めた。

しかし異状なしでは無かった。


目に異常な痛みを感じたため、彼女は先ほど鏡で確認をしていた。

自分の顔を自分で見た時、彼女は驚きのあまり声が出なかった。

自分の左目が妖しい紅色をしていたからだ。

「何…これ」

彼女はやっとの思いで声を発した。

何回まばたきをしても変わる事はなかった。

紅い瞳がギロリ、と自分を見ている。

その事に少しだけ鳥肌が立った。

紅く染まった目も、きちんと目の役割はしていた。

視力が衰えたわけではない。

彼女はとりあえず目を水で洗った。

しかし赤みが消える事はなかった。

観念した未来は洗面所から離れ、頭の整理を始めた。

彼女の側には、両親の部屋から出てきた箱が置いてある。


――私はその箱を開けた瞬間、何か黒いのが出てきて…。

そしたら視界がぐらぐらして……今なんだよね。


「あー全くわかんない!」

彼女がそう叫んだのと同時に、空腹を主張する音が鳴った。

時計は7時を指していた。

「…ご飯、作ろうかな」

そして彼女は立ち上がり、台所に向かった。


だいぶ時間が経ち、彼女の容態は良好になりつつあった。

紅い目を除いては。

しかしまだ自由は目覚めない。

彼女はとりあえず2人分のご飯を作ったが、だんだんと心配になってきていた。

もしかして、私が意識を手放してた間、自由に何かあったのかな…?

未来はそう思い、自由の側に歩み寄った。

彼からは規則正しい呼吸音が聞こえてくる。

「死んでは……ないみたい」

未来はそっと自由の腕を触り体温を確かめると、少し安堵した表情になった。

彼女が触れたのと同時に、自由がピクッと動いた。

彼女の冷たい手を感じ、意識が戻ったのだろう。

未来は自由の顔を覗き込んで見た。

自由はゆっくりと重い瞼を開けた。

そして彼女は安堵した表情から驚いた表情に変わるのだった。

「自由の目も……紅い」



夜の街中。

狭い路地裏。

影が自由自在に動いている。

その影にふいに銃弾が当たった。

影は痛みを訴えるようにもがき始めた。

そしてそれは銃弾を撃った主を襲い掛かった。

主はスーツを着た男で、銃を構えている。

「はぁ、闘うの好きじゃないんだけどなー」

男は容赦なく影に銃弾を放つ。

「でも、仕事だしね」

次第に影は力を失くし、小さくなっていった。

そして消えるのと同時に、影がいた場所から黒い珠が現れた。

男はそれを拾うと、スーツの内ポケットに隠した。

「お疲れ様」

路地の角に男に見えないよう隠れていた女が彼に話しかけた。

女はパーマのあたった目立つ茶髪で、服装はTシャツにミニスカート姿である。

男はちらっと女を見ると、次に見る事はなかった。

「お前、いるんなら手伝えよ」

「あらヤダ。こんな格好で戦えと?もしかして、あたしのパンチラでも望んでたかしら?」

「ふざけんな」

男は低い声で言い放った。

女は悪戯な笑みを浮かべていた。

「だけど、貴方になら見せてあげてもいいのよ?」

「お前…麗音れおさんに似てきたな」

「え、だって麗音さん伝授だもん」

女は軽く男の肩を触った。

すると肩に乗っていた猫が女に威嚇した。

女は慌てて手を引っ込めた。

男は猫を褒める代わりに撫でていた。

猫はご主人の手に触られて、気持ち良さそうに丸まっていた。

「それじゃ、もう遅いし帰るわ」

「…次はちゃんとした格好しろよ。じゃあな」

「これがマイスタイルなんだけど…」

女は背を向けて歩いていく男に向かってそう呟いた。

しばらくして女も路地裏を離れた。



自由は急いで洗面所へ向かった。

パチパチとまばたきをしたが、紅い目は変わらずそこにある。

自由は右目だけが紅く染まっていた。

「ど…どうしよ」

自由が鏡越しに映る自分と睨めっこをしていると、右目が突然普段の色に戻っていた。

その光景に未来も驚いた。

次第に未来の目も普段の色に戻りつつあった。

「何がどうなってんの?」

もう一度鏡で自分の目を確認すると、2人の目には先程の紅色は跡形もなく消えていた。

不思議な出来事ばかりで、自由の脳内は混乱状態だった。

2人は、事の始まりは『箱』だという事だけ理解していた。

「とりあえず…ご飯を食べたい」

自由が拍子抜けな発言をしたため、一気に未来は現実に引き戻された。

2人はご飯を食べると、普段の生活どおりの時間を過ごしていた。



「もしもし、(エフ)?」

暗い部屋の中、白衣を着た男の声だけが響く。

隣には同じく白衣を着た女が紅茶を淹れている。

「どうやら、開いちゃったみたいや」

男はゆっくりとした口ぶりで話した。

電話越しの声は小さく、女のもとには届いていない。

男は深刻な話にも関わらず、笑顔を見せている。

「…うん。そういう事でよろしく」

電話を切った後、男はくるりと女のほうを向いた。

女は紅茶を飲んでゆったりしていた。

「さて。…今度は君の相手をしてあげる」

「要りません」

男は甘い口調で女を口説いた。

しかし女はきっぱりとそう言うと、椅子から立ち上がり部屋を出ようとした。

だがそれは男に腕を掴まれ止められてしまった。

「…何ですか?」

「ホンマ、レオちゃんは相変わらず冷たいなぁ」

「…それだけなら、私、行きますけど?」

女は軽く男の腕を振り払うとスタスタと早歩きをし、振り返る事もせず出て行った。

男は苦笑いを浮かべながら、再び椅子に座り直した。

そして数百枚とある資料に目を通しながら紅茶を飲んだ。

「…足立ツインズか…。ふっ、面白いなぁ」



次の日、2人の所に訪問者が来た。

未来は眠たい目を擦りながら、ドアノブを押した。

「おはよー。あれ、まだ寝てたのかな?」

2人の前に現れたのは長身の男だった。

未来はその男の訪問で眠気が一気に覚めた。

「真守兄ちゃん!?どうして…?」

「テレビ見たかな~って思ったんだけど、まだ起きてなかったとは予想外だよ」

荒川あらかわ真守まもるは、両親が早くして他界した2人の世話を見ていた幼馴染。

長身で顔も女子受けする甘いマスクな為、高校時代からタレントとして芸能界活動もしている。

仕事で忙しいため、最近は2人に会う日が少なくなっていた。

彼は一礼をして未来たちの家へ上がりこんだ。

未来は彼の後ろを歩いていった。

「テレビ?もしかして真守兄ちゃん出てたとか?」

「うん、そのまさか。……自由、おはよう」

未来は真守の言葉に、慌ててテレビをつけた。

すると彼の言葉通り、彼がテレビの奥に映っていた。

しかし内容は意外すぎるもので、未来は目を大きく見開いた。

「え!?真守兄ちゃん、芸能界引退するの!?」

未来の叫び声に自由も反応した。

「何かあったんスか?」

2人は驚きを隠せないようだった。

その様子を見て、真守は少し苦笑混じりの懐かしむような笑みを浮かべた。

「…したい事が見つかったんだ。中途半端な気持ちで芸能界にいたくないし」

「真守兄ちゃんらしいね」

未来は真守の話にこくこくと頷いていた。

自由は真守に紅茶を淹れると、彼の隣に腰をかけた。

真守はその紅茶を飲んだ瞬間、渋い顔をした。

「うわっ、何これ!?ねぇ自由、お前何入れた?」

予想以上の反応に自由は慌てて彼の言葉に返す。

「え、紅茶の葉だけど…」

「他には?」

自由は記憶を蘇らせながら必死に考え込んだ。

「あ!砂糖入れた!」

「…塩、入ってる」

「えっ!?」

自由は真守からコップを奪うと、確認で飲んだ。

が、彼もまた渋い顔をする事となった。

「しょっぱっ!ごめんなさい!!」

「ホント、自由は相変わらず、うっかり者だな」

真守は怒っている様子はなく、むしろ笑っていた。

未来は少し気分悪そうに自由を睨み付けた。

しかし真守から出た言葉は意外なものだった。

「じゃ、未来が淹れた紅茶飲もうかな」

「え、今すぐ淹れるね!?」

未来は反射的に立ち上がると、紅茶を淹れに行った。

その間、自由は何度も真守に謝罪をしていた。

「いいって。昔から自由はこうだから」

真守は優しく見守る兄のように微笑んだ。

そして真守は小さい声で話した。

「でも、あんまり未来に迷惑かけるなよ?」

「はーい」

自由は素直に返事した。

すると未来が台所から戻って来た。

盆の中には3人分のコップが乗っている。

真守は盆からコップを取ると、即座に飲みだした。

「……うん、紅茶」

真守は未来に笑顔を見せた。

未来はその笑顔に頬を赤らめた。

「あ、ありがと」

未来は真守から目を逸らすように俯いた。

自由は口直しに未来の淹れた紅茶を飲んだ。


しばらくゆっくりと時間を潰した後、真守は本題に移った。

「あ、それとね。引っ越すって聞いたから手伝いに来たんだよ。なんか昨日引っ越すつもりだったんだって?」

「あ…」

"昨日"と言われ、2人は一斉に昨日の出来事を思い出した。

昨日、あの事件は2人だけの秘密にすると約束したのだ。

こればっかりは、幼馴染の真守でも言う事はできない。

未来は誤魔化すために言い訳をした。

「昨日もね、自由がこんなんで全然、進まなかったの」

未来の言い訳に、自由も口裏を合わせるため相槌を打った。

真守はその言い訳を素直に聞き入れた。

「そっか。じゃあ俺も手伝うよ。後どれくらい?」

本当のことを言うと、荷物は全部詰め終わっていた。

あの箱も別のダンボールに詰めていた。

「え、えっとね…全部詰め終わってるから、後は運ぶだけなの」

「そうなの?よっしゃ、俺の出番だね」

真守は気合を入れて立ち上がった。

「よし、早速、運ぼうか」

そして2人は真守の協力を得て、無事に引っ越す事ができたのだった。


時刻は6時だったので、未来は真守に腕をふるい夕食を作った。

3人でご飯を食べるのは久々だったので、未来はとても幸せな気持ちだった。

その後、真守は仕事があるため2人に別れを告げた。

次、いつ会えるかわからない。

そう真守に言われ、未来は悲しい思いをしたが自由に励まされ、次にまた会えるとそう信じる事にした。

しかし次に真守に会うのは大分先の話だった。

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