009 実力で治外法権を勝ち取った
ウィットは、薄い溜め息を吐く。
「余計な忠告をどうも。そして失せろ。おれはもう、カタギなんだ」
「ヘッ、さっき仇を殺してた癖によ」
「……失せろ、と言ってるだろ。おれと殺し合いたいか?」
「へいへい。随分退屈になっちまったな。オメェ」
クーパーはどこかへと消えていった。ウィットは地下駐車場から地上に戻る最中、
(いつまでも、馬鹿騒ぎしてられねぇんだよ。おれには家族がいる。もう、ヴァルキリー・ファミリーはいねぇんだ)
無理やり、自分を納得させるのだった。
*
「パパ、おかえり~」
ウィットの表情は、どこか暗かった。娘・アルスは訝るも、父(美少女だが)の発する雰囲気に呑まれてなにも言えない。
「どうしたの、父さん」
そんなオーラなど気にすることもなく、リビングでスマホゲームをしていたルカスが、ウィットへ話しかけた。ウィットは首をゴキッと曲げ、
「なんでもないさ。ただ、少女でいるのは疲れるってだけの話だよ」
それだけ言い、自分の部屋へと戻っていった。
「父さん、あれ確実に殺ったね」
「みたいだね……」
「全く、MIH学園へ入ったらどうなることやら」
「アンタが仕組んだんでしょうが」
「だから、観察する責任があるわけよ。〝中年の危機〟を迎えた父さんが、少女になれば果たしてそれを抜け出せるか、ね」
そんな会話などつゆ知らず、ウィットは自室でボーッと昔の仲間の写真を眺めていた。
「なぁ、オマエらが今のおれを見たら、どう思うんだろうな。美少女になれて良かった? 家族だ、なんだと言っても、裏稼業から抜け出せてねぇと笑うか? ……ハッ、もう死んじまったヤツらや終身刑のヤツらに聞いても仕方ねぇか」
最近、頻繁に自己嫌悪に陥る。そういうとき、決まってウィットは酒をあおり、問題をぼやかしてしまう。今だって、自室に置いてあったウィスキーをグラスに注いでいる始末だ。それを一気に飲み干し、ウィットは、
「マッズッ!!」
と、あまりのまずさに酒を吐き出してしまう。どうやら、味覚が子どものときに戻っているようだ。こんな苦いもの飲んでいられるか、と、ウィットは酒瓶を元の場所に戻す。
「クソッ、クラクラするな。肝臓もガキになっているのか……」
当然といえば当然だが、肝臓・味覚ともに子どものそれだ。いくら上質なアルコールだからといって、酔いが良いではない。ウィットは頭を抑えながら、めまいに襲われ、そのままベッドに転がってしまう。
「惨めだな……」
そう呟き、アルコールに襲われてウィットは半ば強制的に眠ってしまうのだった。
*
「伝説の無法者?」
「あぁ。あの魔力と術式は、間違いなくウィット・ヴァイパーだ」
「ソイツが、MIHに後期入学すると」
「そうだ、ルーシ」
ついこの前、ウィットと模擬戦闘を行ったポールモールは、自身の組織の〝ドン〟である〝少女〟ルーシ・レイノルズに報告していた。金鷲の絵が飾られている〝スターリング・ファミリー〟の総本家執務室で、ルーシはウィットの顔写真を見つめている。
「なるほどねェ。だが、コイツには子どもがいるんだろ。アルスって2学年と、ルカスって1学年。なら、いつでも脅せるじゃねェか」
「まぁ、そうなるが……」
「なんだ、歯切れが悪いな」
「ウィットとは、昔いくつかの強盗で手を組んだことがある。アイツは異常だ。自分に敵対するヤツは、どんな手段を使ってでも殺す。それに、司法取引すら交わしていないのに、逮捕されてない時点で分かるだろ?」
「なるほど。〝実力で治外法権を勝ち取った〟タイプか」
銀髪・碧眼・155センチ程度の身長・エルフのように整った顔立ち・ややツリ目のルーシは、ニヤッと笑う。




