007 呼び方注意
「MIH学園の制服って、100年前から変わらないらしいよ」
ルカスが豆知識を言い、アルスとウィットは「へー」と頷く。
ウィング・デパートについたヴァイパー家一行は、青を基調にしたメイド・イン・ヘブン学園──通称MIH学園の制服を眺めていた。といっても、制服なのでサイズしか違いはないが。
「とりあえず、試着したら──」アルスが言いかけ、小声でウィットに呟く。「……なんて呼べば良いの? その姿だと、今までの言い方は駄目だよね」
「メイベル、と呼んでくれ」
「……母さんの名前?」ルカスも小声で言う。
「そうだ。学園での名前も、それにしてある」
「そ、そう」
「わ、分かった」
娘と息子がやや怪訝がる中、ウィットは体型を測る台の上に乗る。3Dスキャンで、身長・体重等を測ってくれるらしい。それを元に、最適なサイズの制服を表示してくれる。
測定はすぐ終わった。ウィットは、適切なサイズの学生服を手に持ち、一応試着してみる。
試着室に入り、やはり女性らしくなった身体つきを見て、ウィットは溜め息をつく。
「……なんだろうな、この気持ち」
なってしまったものは仕方ないとはいえ、45年間の男性体が15歳の女性体に変化した事実は、尊厳というものを傷つける。
されど愚痴るわけにもいかない。愚痴を言って、解決するわけでもない。
ウィットは、白いワイシャツ・青いブレザー・黒のスカート・黒の靴下・最後に青と白の縞模様になっているリボンをつけた。
「似合ってるな……」
ウィットは、柔らかい声で手前味噌だとは思いつつも、様になっていると感じた。
「しかし、スカートというのは足元に風が当たるな。女子は良く、これに耐えられているものだ」
そう思いつつ、ウィットは着替え終わったので試着室のカーテンを開ける。
「どうだ?」
アルスとルカスは、口をポカンと開けた。なにか変なところでもあったか? しかし、姿見を見る限りおかしなところはなかったはずだが──、
「可愛すぎでしょ……」
「なぁ、姉ちゃん。おれはひょっとして、すげェもんを作っちまったのかも」
45歳父親は、子どもたちに可愛すぎと言われる奇妙な経験を果たした。
「そ、そうか。サイズ感もぴったりだし、これを買う予定にしておこう。まだ入学が決まったわけでもないし」
試着室の前を通った人々は、美少女すぎるウィットをほとんど二度見する。
「あの子、可愛すぎない?」
「それな。なんかのモデル?」
「美人だけどあどけなくて、最高だな。うーん、ナンパしようかな」
「やめておけよ。オマエじゃバランスってもんがあわない」
各々好き放題言ってくれるが、確定しているのは、今のウィットは絶世の美少女だということだ。
「そ、それじゃ着替え直すか」
これには、今や伝説と言われる無法者ウィットも戸惑うしかなかった。
*
昼飯の時間。ウィットは先ほどまで模擬戦闘をしていたから、結構空腹だ。デパート内を子どもたちとともに歩き、ふと目に入った日本からのラーメン屋を指差す。
「ラーメン、食べるか」
「うん。とうさ──メイベルがそう言うなら」
「そうだね。ぱ……メイベルはラーメン好きだもんね」
「あぁ、いつか日本へ行ってみたいくらいだ」
呼び方に苦戦する子どもたちを意に介さず、ウィットたちはラーメン屋に入る。クレジットカードで先払いを済ませ、ウィットたちはカウンターに座る。
「……ん? どうしたの、ぱ、メイベル」
アルスは、ウィットが誰かを睨んでいることに気がついた。この姿だとまるで迫力がないものの、相当睨みを効かせているのは確かだ。
「いいや……なんでもないさ」
ウィットは出された水を飲み、視線をずらす。
(あのクソ野郎、まだ生きてやがったか……。子どもたちがいなければ、ぶち殺すところだったが)




